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【Album without photograph】
のどかな午後の日差しが校庭の白木蓮を恭しく照らしている。その香りは裏庭となる【ここ】にも、むせ返るほどに靡いていた。
陽光が、自分の髪の毛を照らしているのが熱いのか、大柄なパキケは無造作に手を頭に置いた。男としては長い髪だが、なぜか上だけがストレートで、したはピンピンと跳ねていて、寝癖状態だ。耳には一応校則では禁止、と言われているピアスをしている。天然ものだろうか?輝きが違う。
「…何サボっちゃってくれちゃってんの、お前。」
ゆーっくりと、そのパキケは振り向いた。女にしては聴診のムシチョウが半場感心。半場呆れたようにパキケのことを見ている。手には古びた大型のアルバムを抱えている。いかにも古い、というようにところどころの表紙が取れかかってるし、茶色っぽい。
にへら、とパキケは笑った。微妙な、美しい青い瞳が細められて人懐っこい印象になる。
「んなこと言われてもなぁ…午後の三年は暇なんよ?」
「知るか。その暇な授業を私は一年間受け続けたんだぞ?」
まったく、というように肩をすくめると、ムシチョウは手に持っていた分厚いアルバムを開いた。もう、とほこりが舞う。煙かったのか、パキケはケホケホと咳き込んだ。咳き込みながらも、アルバムをちゃんと覗き込む。
「…おぉ。」
感嘆の、声。そこには、卒業生と思われる、ハナアルキ、ピグミー、パキケ。さまざまなリヴリーの種類が映し出されていた。しばらくはものめずらしそうに、ムシチョウは見ていたが、やがて見飽きたように無造作にアルバムを閉じる。もう、ともう一度ほこりが舞い。パキケ、ぽぉーは強制的に咳き込むこととなった。
「貴重な資料だこと、何で図書室においてんだか。」
軽くぼやくと、ポーイ、と無感情にアルバムを放り投げる。それを慌ててキャッチすると、ぽぉーはムスッと頬を膨らませた。図書館の本を投げる先輩に呆れながらも、アルバムをもう一度開く。今度は埃は流れ出ずに、陽光にセピア色の写真が何枚も輝いた。
「…今のは乱暴とちゃう?」
「え?ら・ん・ぼ・う?何それ。食べれるの?」
にんまり、と笑顔を見せると、女の先輩はぽぉーの頭を軽く叩いた。きょとんとするぽぉーを横目に、プリケリマはふっと軽く笑った。
「アイス。食べたい。作って。」
「…魔法で作ればいいからに…。」
ボソッ、とつぶやくものの、一応はブツブツと呪文らしきものを唱える。召還術だろうか。しばらくブツブツ唱えていると、もわもわとドライアイスのように煙が立ち込めてきた。
ぽんっ、と軽い音とともに、ぽぉーの右手にはバニラのカップアイスが握られていた。悪いね、と悪そびれた様子も無く。プリケリマはアイスを無造作に取る。そして、いざ食べようというときに、ふと動きを止めた。
アイスを口に運んでいたぽぉーは、不振そうに眉を寄せた。ニヤリ、と年上の先輩が笑っているのだ…嫌な予感。
こっそり逃げた方が良いと、飼い主に教わった。その教訓を生かして、忍び足で午後の陽光を浴びながらそろそろと足を進める。しかし、後一歩で校庭へ――というところで肩に手をかけられた。
「ねぇ、ぽぉー?魔法で写真。作れると思う?」
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