白雪の声

案内パークに足を踏み入れた途端、足元のピンヒールが軽やかな音と同時に、白に埋まった。
一瞬、驚いた様に艶々した紫を開いてから、不意に苦々しげに口元を歪める。無造作に辺りを見渡せば、自分が立っている場所の他にも白、白、白、それに混じるプラチナ。微かにしか降り注がない日の光に、ダイヤモンド顔負けの輝きを返しつつも、情け容赦なく、その場の温度を殺していく。

 辺りでは、一面に歓喜の声が響いている。この温かい輝きと、冷たい温度差に喜ぶ憂いが篭った喜びの声。

 嗚呼、綺麗だね。  

         今年も、雪が、    ねえ!他のパークも、もしかしたら


 ふっ、と鼻先で笑い声を発したのも、白に飲み込まれた。
疲れた様に目を細めて、何気なく背後を見やる。予想通り、自分の純白のムシチョウ族特有の尻尾も何処にあるかすら、分かりやしない。
 冷たさを、感じないからか。寒さが、分からないからか。
既に、この場所の白さには飽きたからか。小さく色めいた溜め息を吐き出して、さっさと別の場所へ足を運ぼうとした、その時。


「…?」

 ヒラリ、目の前を揺らぐ一片の青緑。
何処から落ちて来たのかは知るはずもなく。だけど、この白さには際立って目立つ万緑の色が色彩感覚を狂わせる。
思わず利き腕を伸ばして、絡め取ってしまった。何事も無かったかの様に、白に重なりつつ、細い指先に身を委ねた葉っぱに目をやる。新鮮で、初々しい葉の色だ。驚くほど、春に見る葉の色と似ている。

 いったい何処から、と思いを馳せた所で、とある人物が一人。
その人物は、頭に浮かんで、当たり前の様に人懐っこく笑い掛けて来る。

 柔らかい青緑色の髪。

                血色の瞳に刻まれた黒の刻印。

     無邪気に笑い掛けて、狂わせる。


    こんども、また まふぃーと  あそんで   ?


「…マフィン?」

 ボソ、と呟いた言葉に返事はいらない。
でも、返事をするかの様にひゅるりと風に一度揺れて、葉は掌の上で軽やかに踊る。遊び好きの、幼子の様にも見える姿は、まるで、

 空想に浸ってから、少しの間たって、突如ひゅるり、吹いた北風が指の先を潜り抜けて、空に舞い戻っていく。
その去り様は、「君には捕まってあげない」と、悪戯っぽく笑い声を上げる様に、優しく飛び去って行った。

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雪フワワさんへ

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