【木漏れ日色のティーパーティー】
木漏れ日がただ溢れるだけ、それだけなのにこの例えようのない美しさは何だろう。比喩表現を使って言うならば「神様の階段のよう。」
森林浴が体に良い、と誰かが言っていたのも頷ける。何故だか久しぶりにすがすがしい気分。その中で、目の前に置かれているティーカップ。ティーパーティーにふさわしい天気だ、今日は。
真っ白のテーブル。白の繊細な作りの陶器のティーカップ。甘い、というよりサッパリしたレモンの香りのする紅茶。
この現状をティーパーティーと呼ばんで何と呼ぼう?しかも、十分といえるほどの焼き菓子、蒸しケーキ。そして今日は白の椅子が四つ、ひっそりと置かれている。その椅子も、テーブルの上の何もかもも木漏れ日は優しく照らしている。何と良い天気だろうか。そんなことを思いながら、一つの椅子に座り、後方に体重をかけてバランスを保っているハナマキは軽く微笑んだ。 黒のジャケット、短いスカート。当の本人はティーパーティーということも兼ねて、何時もの包帯ルックスを拒んだのだ。スラリ、としたスカートから除くのは銀の義足。一瞬見ると思わずドキリとしてしまいそうな吸い込まれそうな瞳。今は機嫌が良いのか軽く鼻歌を歌っている。
突如、はた、とハナマキは動きを止めた。そして、クルリと足だけで器用に椅子を回すと、背後から近寄っていたムシチョウに向き直った。紫の髪が無造作に揺れる。そして、口元にフッと笑みを浮かべると、ハナマキは口を開いた。
「…遅かったのサ。招いたキミが遅刻してどうするのサ?」
話しかけられたムシチョウは「そーだね。」と気の乗らないような返事をしつつも、一応はうやうやしく一礼した。そして、軽く微笑を浮かべると、ハナマキに向かって手を差し伸べた。
「招待状をどうぞ。月翼。」
そーなのサ。と呟くと、何処からともなく便箋を取りだす。そしてそれをムシチョウに手渡した。チラリ、と一瞥すると「結構。」と生返事を返すとムシチョウはまたもや軽く微笑んだ。
「久し振り。来てくれたんだ。」
「…当たり前サ。今日は僕のほかに誰が来るサ?」
ボソッ、と無愛想に呟くと、月翼と呼ばれたハナマキは、軽い動作で椅子をクルリと反転させて、座り直す。多分知らない人なんだろうな。そう思いながら一応は問いておく。すると、ムシチョウはすらすら、と名前を読み上げようとした瞬間。柔らかな物言いがそれを遮った。
「時間ぴったりですかね?」
ニコッ、と笑ったオオツノワタケの姿には見覚えがあったような。爽やかな笑みに、腰には日本刀。華奢な体。柔らかそうな鳶色の髪。ゆっくり歩くごとにその髪が、正式にいえばポニーテールが揺れる。シンプルな和服。しかし、ニコニコとした笑みの真相は掴めない。…どうしたらこんなに爽やかに笑えるかが疑問。と、昔考えたことを思い出して、ムシチョウは苦笑した。
「いらっしゃいませー。招待状をどうぞ?」
おいおい、ここはカフェじゃないぞ。と突っ込みたくなるような言葉で挨拶を交わす。それを爽やかな笑顔で受け止めて、すっと招待状を差し出す。確認も終えてか、ムシチョウはオオツノワタケに小さく目配せをした。
「どーも、オヒサシブリデ?」
「えぇ。そうですね。そちらの月翼さんとは初めまして、ですね?」
しゃあしゃあと言ってのけると、近くにあった椅子に腰を下ろす。若い、というのが第一印象に用いられるだろう。そして、何より温厚の顔立ちからは怒り、というものが見えない。チラリ、とムシチョウは時計を見て「ピッタリジャスト。」と呟いた。
「他には何方が来るのでしょうかね?」
「…そうサ。来る人ぐらいには他の人の名前くらい教えとけサ。」
柔らかな物言いと、拗ねたような物言い。その両方を「はいはい。」と軽く受け流して、ムシチョウは二人の座っている席のどうみても後ろに向かって手を振った。噂をすれば、とはこのことだろう。
スタスタ、と颯爽と歩いてくる彼女。かなりの長さの髪が歩くごとに靡く。桃色の桜模様の着物に、赤紫の柔らかい瞳。三人の注目を自分が集めていることに気づくと、少し恥ずかしそうにニコッ、と音もなく笑うと、スナイロユンクは口を開いた。
「…少々遅れました。あ、プリケリマさん。招待状ですよ。」
大切そうに招待状を掲げると、また音もなく笑う。ほんわかムード&マイナスオーラが多量発生してる。「結構。座って、悧角。」と言い放つと、当の本人も颯爽ともう一つの椅子に座る。 三人で軽く会釈をすると、ムシチョウはパンッ、と手を叩いた。一時的に注目が集まる。すると、紫の瞳をすうっ、と細めて、ムシチョウは微笑んだ。
「本日はお集まりいただきありがとう…月翼様、ソウシ様、悧角様。」
何時もの服装ではなく、ちゃんとした女性用スーツなどを着ていえばもっとさまになるものを、という考えも芽生えそうな言葉遣い。何しろ丁寧な言葉遣いなので皆黙って耳を傾けている。そして、もう一度ニコッと笑うと、ムシチョウは席に着いた。そして、「紅茶でも飲む?」と当たり前のことを当たり前のように聞いた。
「あ、飲むサ。喉がカラカラサ。」
「緑茶を頂けますか?」
「頂きます。」
三方向からいっきに声が返ってきた。
「…今日は楽しかったサ。」
「また誘ってくださいね。」
「紅茶、美味しかったですよ。」
夕暮れ近くなってから、木漏れ日が薄くなり始めてティーパーティーは終了した。…といっても会話をしただけだが主に「GWに変身する人いる?」「あ、するかもサ。」「…どーでしょうかね?」「してみたいですね~w」などとした会話だが、盛り上がったに違いはない。ムシチョウ、プリケリマはフッと笑うと、 「楽しかったね。」 と、だけ答えた。夕焼けのせいか、皆の頬も赤く見える。
「綺麗な夕焼けですね。」
ほのぼの、と悧角が言うと、
「明日は晴れますね。」
と、ソウシが笑顔で返した。月翼は肩をすくめると、微笑を浮かべた。明日も晴れたら。
「明日は晴れサ~。」
のーんびり、というような口調で月翼が呟く。あぁ、とプリケリマも頷くと、ふと小さく笑った。
「…晴れたら…また何時かティーパーティーできるといいね。」
無論、三人は笑顔で頷いた。
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