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【まるで 色が絹糸を紡ぐように】


 煌くように高貴に、誇り高く、気品が溢れ、淡く儚く春の夢の如しに、溶けるように可憐に。
 世の中には凛と背筋を伸ばし、咲き誇る花が今日もまた咲き、今日もまた散っていく。寿命が短いからこそ美しいのかもしれないが、その香りとその華やかさには目が惹かれてしまう。一つ一つが意味する言葉が柔らかく、花にあっている。優美な花は誇り高い言葉を、可憐な花は儚い言葉を、

        ねぇ、貴方の花言葉は、なあに?



 青空日和、晴天日和。柔らかい日差しがさんさんと、明るく暖かく地球という生命体を抱きかかえるように、当たり前のように存在している。その存在こそ、生命の象徴と言うのに相応しい。
 その太陽の下で咲き乱れる花々には目を見張る。一々足を止めて見惚れて覗き込んでしまう。その花弁の柔らかさや、そのむせ返る様な甘い香り。その中で、二人の女はその花々を見つめていた。まるで花に恋をしたかのように…ではなく、その二人の驚くほどの瞳の色が絡み合っていなければそのように見えたものを、黒のパキケと、薄紫のムシチョウは、ただただ睨み合う。

「…何度言えばわかる。」

 黒のパキケは、悠然と花壇を指差してムシチョウをにらみつける。しかし、それに応じることなく、ムシチョウは軽く花を見下ろした。氷のような軽蔑の視線だ。黒いパキケ、メルロデューはキッとキツイ視線をムシチョウに送った。

「何度でも、お言い下さいな。」

 飄々と言ってのける物の、その顔には何時の間にか、疲れたような、馬鹿にするような微笑を浮かべていた。周りの空気が一気に下がる、冷めるような目線。メルロデューの肩からは、怒りのせいかユラユラと陽炎が見えるような気がする。学園の中は春だというのに、まるでここだけがアルプス山脈の山頂のようだ。

「何時も花を持って行くなと言っているだろう!」

「あ、ごめん。それ私に言ってたんだ。」

 知らなかったなぁ。と、とぼける様に呟くと、ムシチョウ、プリケリマは座り込んだ。白い手には乳白色のシロツメクサが添えられている。そして、メルロデューの注意もまったくの無視で、もう一度シロツメクサを見つめると、何かに気がついたように一本のシロツメクサを抜き取る。メルロデューの呆れたようなため息を聞きつつも、プリケリマはそのシロツメクサを見つめるのを止めない。

                   ねぇ、貴方の

「はい。」

 パチクリと、メルロデューはエメラルドのような瞳を瞬かせた。一輪のシロツメクサが自分の目の前に差し出されている。驚くほどに、四葉。

「探してたんだ。」

 柔らかい微笑を浮かべると、ムシチョウは呟く。

            誕生日        おめでとう。


「…は?」

 いきなりのことなので、当然拍子抜けの声が出てしまう。その様子をしばらく見ていたムシチョウは、そっとそのメルロデューの手にシロツメクサを握らせる。メルロデューは不思議そうに手の中の花を見つめている。

「シロツメクサの花言葉、幸運ね。」

 独り言のように呟くと、ムシチョウは軽く花壇を飛び越えた。メルロデューは、やっとのことで小さく微笑んだ。その微笑みは、安心感溢れる微笑だった。その微笑みは誰かに似ている。と、何れプリケリマが言うことになるんだろうが、

「…ありがとうな。」

 そう。と、ムシチョウは呟くと、もう一本無造作に花を取り出す。その瞬間だった。

「だーかーらー貴様!花を取るなと!」

「え、だって「だってじゃない!」

 柔らかい日差しはさんさんと、二人の喧嘩を眺め続けるとさ。それが宿命のように。

シロツメクサの花言葉 幸運。


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紅耶様へ

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