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藤波
2020年11月2日 23:32
その男は幸せそうな顔をして歩いていた。 5月中旬の暖かな日差しが気持ちいい。時たま吹く風が青々とした草の香りを運んで来て、生命の強さを感じる。かつ、かつ。 男にしては高いヒールのブーツが足を前に運ぶたびに、軽やかな音を立てていた。煌びやかな和服の袖が歩を進めると同時に、ひらひらと風に舞う。道を歩くものはその煌びやかな服装と靴音に彼を見やり「おや、なんて派手な人なんだろう。」と一瞬考
2020年11月2日 23:18
突然だが、俺は死んだ。 どこにでもいるサラリーマン、佐伯祐介は詰まる所、困惑していた。朝起きて、適当にパンを齧り、コーヒーで胃の中に流し込みながら新聞を読み、それが終わったら歯を磨いてスーツに着替え、家を出た。何も変わらない日常だった。この日常を始めてから6年は経っている。新卒入社してから勤務している支店で、今日も元気に外回りに見積もり作成、ミーティングに飲み会、と今日も予定に追われる1日