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「信頼貯金」を考える

先週、「日本の人事部」が主催する「HRカンファレンス」に参加しました。数日間にわたって数十の講演・ディスカッションのプログラムがあり、その一部ですが私も参加した次第です。

「カンファレンス」は、会議・協議会・相談・協議・連盟などの意味合いがあります。日本の人事部によると、HRカンファレンスは「多くの人が集まり、一つのことについて話し合い、方向性を見出す場。日本の「人・組織・経営」について、多くの経営者、管理職、人事担当者が集い、共に考える、日本で唯一の場」と説明されています。確かにその通りで、毎年参加するたびに人・組織・経営の最前線と、その変遷を感じます。

今回は、「信頼関係」や「エンゲージメント」という言葉が、講演・プログラムのタイトルとして多く使われている印象です(すべてを追っていませんし、時系列の比較もしていませんので、あくまで個人的な印象ですが)。テレワークへの移行など就業環境の変化もあり、これらがキーワードとしてより重要になってきているのだろうと思われます。

つまりは、「信頼関係」や「エンゲージメント」の概念を実現できていることが、今後中長期的に、継続的に発展する企業組織であり続けるための一要因になるだろうということです。

私が参加したパネルディスカッションの中に「社員の“働く”を支援する「信頼経営」で、エンゲージメントや生産性を向上させる」がありました。「信頼経営」という言葉が印象的です。同パネルディスカッションのファシリテーターだったWorks Human Intelligence様から、「信頼経営」について次のような説明がありました。

・企業と従業員が雇用契約で結ばれた、対等な関係
・企業は「制度」や「報酬」の面で、社員の「働く」を全面的にバックアップする
・社員はその対価として「結果」を出す

ここからは、以下の2点が見て取れます。

1.会社と社員はイコールパートナーである
これまでは、企業(組織)の側が強くて、従業員(個人)の側は企業に合わせる者、追従する者という認識が主流でした。しかし、どちらも選ぶ側であり選ばれる側でもあるというのが、イコールパートナーという認識になります。この認識は、同パネルディスカッションのパネラー全員に共通していました。

雇用を取り巻く環境変化について、主な要素を次のようにまとめてみました。これらの環境変化を受けて従業員(個人) の力が強まる中で、一人ひとりの人的資源活性化による生産性向上が不可欠な状況では、組織と個人がイコールパートナーであるという概念はますます必要でしょう。

<かつての雇用環境>
・生産年齢人口増加
・終身雇用・年功序列
・長時間労働の社会的合意
・未整備な転職市場
・着実な育成・成長への期待
・機械の導入

<これからの雇用環境>
・生産年齢人口減少
・終身雇用・年功序列の概念希薄化
・長時間労働への社会的反対
・転職市場の発達
・変化の速い育成・成長への期待
・人間と機械の協働・融合

2.権利と義務は表裏一体である
組織と個人、個人間の信頼関係は、「何を言っても聞き入れてもらえる」「個人の願望を無条件にすべてかなえてもらえる」ではないということです。もちろん、個人の志向性を最大限かなえられるよう組織がバックアップするわけですが、あくまで「結果を出す」前提だということです。企業関係者によっては、最近話題になりやすい「心理的安全性」を持ち出して、「仮に義務を果たさなくても安心していられる職場」という歪んだ風土を目指すかのような発言を聞くことがありますが、それは真の信頼経営ではないということでしょう。

また、同パネルディスカッションでは、「信頼貯金格差」という興味深い言葉を聞きました。信頼関係は、お互いが対面のコミュニケーションを重ねて義務を果たし合うことで貯金されてきたのが、これまでだった。リモート下でのコミュニケーションなど、制約のある環境下では、その貯金を少しずつ使うことでコミュニケーション成り立っているというわけです。

この考え方に立つと、新入社員が入社直後からリモートワークを始めようとするのが難しいことが説明できます。それは、まだ勤務実績がないために、組織や上司との関係性においての信頼貯金がゼロの状態だからです。信頼貯金があれば、オンラインでの打ち合わせでギクシャクしたり、うまく質問ができなかったりしても、「あの人はああいう言い方をする人だから」「後で分からないことが出てきても個別に聞けばいいや」で対応することもできます。しかし、信頼貯金の蓄積がなければ、相手の性格もわからないし、後で質問しようにも質問しにくいため、うまく対応できないわけです。

また、貯金も取り崩していくと、いつか使い果たしてしまいます。コロナ禍前までに対面で十分に蓄積した信頼関係のある上司・部下間でも、その後オンラインのやり取りのみが続くことで相互の情報共有がアップデートされず弱まっていくと、どこかの時点で貯金ゼロとなり、やりにくい関係性に変わってしまうかもしれません。

だからこそ、オンライン環境下でも相互理解を深められるようなイベントを企画したり、コミュニケーションの取り方を工夫したりする、対面で集まる機会を意図的につくるなどして、置かれた環境なりに信頼貯金がプラスになるような仕掛けも考えるべきなのでしょう。

信頼貯金を増やすという考え方は、幅広い場面で応用できると思います。

<まとめ>
相互がイコールパートナーという認識で、信頼貯金を増やす。


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