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育児休業事例を考える(2)

4月1日の今日から様々な法改正が行われますが、育児・介護休業法についても改正となります。事業主には、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備等が義務化されます。妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対して、育児休業・産後パパ育休に関する制度や休業の取得意向の確認も義務となります。

前回の投稿では、アシザワ・ファインテック株式会社様の育児休業取得推進の取り組みをご紹介しました。今日もその続きを考えてみます。

同社様の育児休業推進の取り組みがうまくいったポイントを考えてみたいと思います。

1.リーダーの強いコミットメントと発信
これまでになかった新しい取り組みを始める、あるいはこれまでの慣習を打破して新しい物事に取り組もうとする局面で、ほぼすべての人は及び腰になります。私たちは、基本的に変化を嫌う生き物だからです。

今まで慣れてきたやり方を続けるほうが楽ですし、慣性の法則によって自然体で動いていくことができます。このまま放置すると長期的には大問題になると分かっているテーマでも、短期的に差し迫っていなければわざわざストレスのかかる行動変容をなかなか行おうとしません。

そのうえで、組織でパラダイムシフト(ある時代・集団を支配する考え方が、非連続的・劇的に変化すること)を起こそうとするならば、その組織やプロジェクトを束ねるリーダーが、成果を上げるまで指揮官先導で強く関わり続けることが必須です。

同社様の例でも、社長自らが「女性も男性も、育休をとっていいんだ」ということを日々発信し支援し続けたと聞きます。このようなリーダーの一貫した姿勢は、変化を作る局面では重要になります。

逆に、「方針は出ているけど、それとは違うことをリーダーが発言している」「やると言ってはいるが、その取り組みをサポートする言動が見られない」などだと、メンバーは本当にそれを推し進めていいのか不安になります。「新規事業は社長直下の匿名組織で行うことが成功のコツ」などと言われることがあるのは、このことに通じます。

先の読みやすい既存事業と先の読めない新規事業の取り組みを、同じ組織や人が同時に担当する環境だと、ほとんどの人が既存事業を優先させようとするからです。社長直下で新規事業専任の部署をつくり、社長の強いコミットメント(公約、責任)のもとで事に当たる体制をとるぐらいでないとやりきれない、というわけです。

DX(デジタルトランスフォーメーション)という、組織内のこれまでのシステムを一新する取り組みが、「成否を分けるのは、社長の温度感の高さ」などと言われるのも同様だと思います。同社様の話の節々から、当初は様子見を続けていたかもしれないメンバーをリーダーである社長がその言動でけん引し続けたことがうかがえます。

2.早期に成功事例をつくる
同社様では、女性に加えて男性も、育休取得者の第1号はいずれも総務部門の人だったそうです。総務部門の人材は、職種上このテーマに感度が高い社員が多いはずです。同社様は、「休みやすい、模範になりやすい部署でまず実例を作った。そして、どの部署でも取り組んでいいということを発信した」と話しています。

心理的なハードルの低い人の中から、リーダーが働きかけて成功事例をつくることも、プロジェクトを成功裏に導くポイントになるのが、このことからもうかがえます。それも、早くつくることが有効です。

何かを旗揚げしても成果が上がらないまま時間が過ぎていくと、参加メンバーが次第に疲弊してきます。また、本当にそのプロジェクトを続ける方針なのか疑心暗鬼にもなってくるものです。そのような中で、小さな成功体験を実感すると、「これは進めて大丈夫なんだ」「この方針はどうやら本物らしい」と自信を高めることにつながります。

男性の育休取得率(「男性労働者で育児休業等をした人の数」を「男性労働者の中で配偶者が出産した人の数」で割った割合)は、2021年で約12.7%と言われています。同社様ではこれまでに累計7人の男性が育休を取得したそうです。従業員約150名の中の男性、そのうち配偶者が出産した人が何人か存じませんが、対象者のうちの取得率が12.7%を大きく超える割合であろうと推察されます。

(それっぽいことが分かるデータは見当たらなかったため憶測ですが)おそらく、この12.7%という全労働者平均は、企業間でのばらつきが大きいのではないでしょうか。すなわち、同社様のように社をあげて取り組んでいる組織は高い割合で取得し、そうでない組織では0%に近い、ということです。

何かのテーマを推進し始めた後に、実際にそのことが当てはまる事例の存在が0なのか1なのかは、雲泥の差です。早期に実例を作って、そこからリーダーの働きかけでドミノ倒しのような連鎖を狙っていくことは、プロジェクト成功のポイントになります。

続きは、次回以降の投稿で考えてみます。

<まとめ>
既成概念をひっくり返すには、リーダーの強いコミットメントと発信が必要。


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