資質について考える

先日、ある企業様にて「営業担当者をアセスメントしたい」ということが話題になりました。同社様のイメージとして、「営業担当者に必要な資質をアセスメントすることを可能にしたい。そうした仕組みを社内でつくることは有効か。」という課題提起のようです。それができれば、採用や教育を含めた組織マネジメントに活用できそうだからです。この視点そのものは論点として妥当だと思います。

その上で、私の意見としては、「営業担当としての資質を定義しアセスメントすることにはあまり意義を感じない」です。その理由について、「資質」というものをどう捉えるべきかの以下の観点から、考えてみたいと思います。

1.成果、行動、資質について分類整理する
ここで言う「成果」は売上や契約のことだけでなく、最終成果に至る途上のプロセスで達成した状態を広く含みます(上記3つ以外に「スキル(知識など)」という要素切り口を追加することなどもできますが、複雑になるのでここでは割愛します)。

資質→行動→成果が、インプットからアウトプットの順と言うことができます。
資質を活かして行動する→行動した結果として成果が達成できる、です。
「こんな資質を活かしてこんな行動したら、あなたを信頼していると言われた」「正式に提案してくれと言われた」「契約できた」「売れた」のようなイメージです。

上記のうち、どれを洗い出し・定義したいのか、全部洗い出し・定義したいのか、を整理することが重要です。すなわち、例えば、

・クライアント(あるいは将来のクライアント)から得られる成果
・成果につながる営業担当としての行動
・どんな資質(性質・強み)を活かして行動しようとするのか
のどれを洗い出し・定義したいのかを整理しましょう、ということです。

2.どこまでの粒度で洗い出したいのかを整理する

行動の個別具体的な方法論まで縛る「行動特性の定義」は、機能する環境もある一方で、機能しない環境も多いと思います。例えば、「顧客を高頻度で対面訪問している」という行動特性を定義し、対面訪問の回数を行動管理するなどで縛ったとしましょう。しかし、得たいのはお客様との信頼関係や最終的な契約であって、高頻度の訪問自体ではないはずです。人によって工夫して、低頻度で会っても信頼感をつくれたり、電話・オンラインで信頼感をつくれたりすれば、必ずしも高頻度である必要はありません。ましてや、ウィズコロナで今後行動の新しい方法論がいろいろ出てくると思います。具体的行動まで縛ると逆効果と思います(もちろん、高頻度の対面訪問が成果と因果関係あると仮説立てられている場合は、この例は当てはまりません)。

他方、「1回あたりにかける時間より連絡回数を増やすという、頻度を意識したコミュニケーションを顧客ととっている」などの、もう少し抽象度の高い行動定義であれば(かつそうしている人の方が明らかに成功していそうな仮説が立てられていれば)、有意義で機能する可能性が高まると思います。

3.基本的に、成果・行動は内製が相性よく、資質は外製が相性よい。

「成果」「行動」については、基本的に内製するのがよいと言えるでしょう。他の企業で成果を出している人が、自社でも成果を出せるとは限りません。自社で重視する重要な成果とは何か、そしてその成果を上げるために重要な行動は何かを定義することが、まさに自社の理念浸透・人材育成の要にもなります。

また、組織にとって何を重要なKPI(重要業績評価指標、重要達成度指標などと訳される)とするのかも、会社によって異なるものです。最終的な組織の成果を表す「売上高」「利益率」などはある程度各社に共通するものですが、それらを生み出すために有効な途中成果の適切なKPIは、会社によって様々です。これが何かを定義することも、自社の戦略そのものになると言えます。

他方、資質は行動そのものではありません。行動の源泉となる可能性の要素です。私のNOTEの投稿でも時々取り上げる「ストレングス・ファインダー」は、「社交性」「着想」「慎重さ」など34の分類によって、まさに各人が持っているこの資質について明らかにするものです。基本的に、資質に優劣はなく、資質自体が行動や成果の可能性を決めるわけでもありません。どんな資質も活用次第で、行動・成果の可能性があると考えます。

例えば、「社交性」資質が上位にある人は、それを使って「顧客とのコミュニケーション」という営業の行動をとるのもよいでしょう。「社交性」資質があまり強くない自覚のある人は、その人が得意な別の資質を活かした行動で営業活動を可能にするとよいでしょう。

上記の例示のイメージで、資質部分を掘り下げていくと、自社だからというより、社会人全般に共通する要素になってくるものと考えます。よって、既に市販されているアセスメント(上記例のストレングス・ファインダーもそのひとつ)を使うことでも十分目的は達成できるでしょう。その結果をしっかり意味づけ、各人のものとして行動・成果に転化させるためにどうすればよいかを考えることに取り組むのがよいと思います。

しかし、この手の資質アセスメントは往々にして、「こんな結果が出てきた、○○が特徴らしい」と結果レポートをさらっと読んで終わっているだけの状態になりがちです。もっと活用できるとよいでしょう。

上記の理由から、営業担当にとって重要な成果や行動を定義することは意義がある一方で、資質を定義することは疑問だというのが、私の意見です。同社様では、今一度上記をヒントに何がしたいのか、再検討することになりました。

<まとめ>
人の資質と行動を、分けて捉えてみる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?