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経営指標の定義(3)

先日、ある経営者様とミーティングをした際に、社員の不注意なミスによる300万円程度の損失について話題になりました。

ミスの詳細はここでは触れませんが、本来自社ではなく取引先が負担するべき費用を自社が被ることになったというのが概要です。それも、そうなるリスクを感じていながら社員が放置していたため、取引先に請求できなくなってしまったという顛末のようです。数百万円の純損失です。

仮に金額を300万円としましょう。300万円の利益を上げるために、いくらの売上が必要でしょうか。

帝国データバンクの情報によると、同社様の属する業界で平均の売上高営業利益率は約2%です。300万円÷0.02=1億5千万円となります。つまりは、同損失を埋め合わせるためには、ざっと1億5千万円の売上が必要です。これは、同社様の月商以上の額となります。1か月以上稼働し続けて、やっと取り戻すということです。いかにインパクトの大きい額かがわかります。

同社様では、以前も倉庫の5Sを一気に進めた結果、今では売り物にできない在庫が出てきたという話を聞いたことがあります。これらの使えない在庫もイコール損失ですので、0.02で割った額の売上を失っているに等しいことになります。

同社様では「攻めの営業」の精神が強く、いろいろな営業キャンペーンを盛んに企画しています。しかしながら、このような防げる損失を連発させていては、キャンペーンの意味もないでしょう。「攻めも大切だが、守るべきことをきちんと守ること」「この失敗から学ぶこと」の重要性を先日同社幹部陣と改めて認識共有した次第です。

先日のnote「有力企業の決算情報に見る経営改革」で、トヨタグループが在庫マネジメントに対して慎重に、緻密に向き合っていることを取り上げました。上記エピソードとトヨタグループの事例を比べると、無駄を出さないオペレーションノウハウが組織の隅々まで浸透していることの意義・強さが確認できると思います。
https://note.com/fujimotomasao/n/n1ca050a49f99

5月20日の日経新聞で「セリア、「100均」でも高収益 アルゴリズムで売れ筋解析 利益率10%、ファストリ級」という記事が掲載されました。以下に一部抜粋してみます。

~~100円ショップのセリアが同業他社をしのぐ10%超の営業利益率を出している。統計学に詳しい社長自らが主導して考案した発注支援システムで機動的に売れ筋を入れ替え、客足を途切れさせない。デフレ下で成長した薄利多売の業態を、ビッグデータでもうかるビジネスに変えている。

独自の発注方法を支えるのが、セリアの河合映治社長が主導して考案したアルゴリズムだ。河合社長はセリアの創業家一族で大学卒業後、大垣共立銀行で貸出債権を最適化するシステムの構築に携わり、統計学の手法を学んだ。「100円ショップは在庫リスクを全て自社で背負う。在庫管理が生命線」(河合氏)と考え、2014年にはセリア社長に就任。データによる売れ筋分析などに磨きをかけていった。

セリアは文房具や日用品からキャンプ用品まで税抜きで1つ100円の商品を2万2000点扱う。1店舗あたりでも1万5000点を扱い、月700点、年8000点以上を入れ替える。2万を超える商品の購買データを、需要のある商品から順番に羅列できるアルゴリズムで分析したところ、上位2割の売れ筋商品が8割の売り上げを占めることがみえてきた。集めたデータを在庫管理に落とし込み、不慣れなパートでも手軽に作業できるようなシステムを内製化し、全店で本格導入するようにした。

ビッグデータの活用でセリアの経営は大きく変わった。一つは不良在庫を増やさないようにし、効率よく売り上げが伸びるようになった。QUICK・ファクトセットによると11年3月期に70日近くあった棚卸し資産回転日数は足元で50日台まで改善。店の数は1800店近くと1.7倍、売上高も2.4倍となる一方で効率性は高まった。

手軽に発注できるシステムがあるため、正社員を最小限にして人件費も抑える。有価証券報告書でパートなどを含む従業員数に占める正社員の比率をみると、セリアは4%で10%超のキャンドゥやワッツより低い。

10年前に6%だった売上高営業利益率は改善し、21年3月期で11%まで上昇した。上場している同業他社のキャンドゥ(20年11月期で2%)やワッツ(20年8月期で3%)を上回る。~~

売上高営業利益率11%は、セブン&アイ・ホールディングス(21年2月期で6%)より高く、ファーストリテイリング(21年8月期予想で12%)に迫る数値で驚きです。「100円ショップは薄利多売」というイメージがありますが、在庫管理という守りを攻めに変えることで、十分収益性が見込める業態であることを示しています。

ダイソーなどの100円ショップでは、収益性の向上と収益機会の獲得を目指して、100円ではない300~1000円の価格帯の商品を扱う方向に舵を切っています。その中で、セリアほど業務プロセスを研ぎ澄ませることができていれば、100円ショップという業態でも引き続き強さを発揮していけるのかもしれません。

ちなみに、冒頭の会社様のケースでは、取引先がその分利益を得ていることになりますので、当事者以外の人には関係なく、社会的には同じことだと考える方もいるかもしれません。しかし、私はそうは思わないです。理由は2つあります。ひとつは、取引先がその取引のコストがそれで当然のものだと誤った認識をしてしまうことで、同取引先及びその関連先に誤った認識が広がるからです。これは、社会的にもよくない影響でしょう。

もうひとつは、不況を助長させるからです。その取引では、本来取引先が同社様に300万円(仮)を追加で払う必要があったものです。であるなら、同取引先は次のお客様に対する販売価格で300万円分を上乗せしていたはずです(そうしないと利益が確保できないので)。その300万円分が連鎖することで、各取引機会のモノの値段が上がっていくことになります。つまりは、その分デフレを防ぐことになり(=適正なインフレを促し)、社会全体の売上高も上がります。冒頭の例では、同社様が我慢して被ることでデフレを助長し景気も抑えられてしまいます。これも、社会的には負の作用でしょう。

的確な経営指標を追う、そのための攻めと守りに取り組むことは、いち企業内の経営という範囲を超えて、社会全体にとっても意義のあることと考えます。

<まとめ>
事業活動では攻めも重要だが、守りも重要。守りが転じて攻めになる。


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