有力企業の決算情報に見る経営改革

5月13日の日経新聞で、「トヨタ純利益2.2兆円」という記事が掲載されました。コロナ禍でも10%増益したという内容です。
同記事と関連記事の一部を以下に抜粋してみます。

~~トヨタ自動車が12日発表した2021年3月期の連結決算(国際会計基準)は、純利益が前の期比10%増の2兆2452億円だった。7%の減益予想から一転して増益を確保し、市場予想も上回った。当初は新型コロナウイルスの影響で販売が落ち込んだが、その後の半導体不足を乗り切ることで米中などでの需要回復をいち早く取りこんだ。前期の売上高は前の期に比べ9%減の27兆2145億円だった。

半導体不足で減産に踏み切る自動車メーカーが多いなか、トヨタは主要取引先から確保して生産を維持。下半期の販売回復につながった。「カンバン方式」に象徴される効率優先の考え方を一部修正し、安定操業とのバランスを探る。

背景には、東日本大震災の経験を生かした在庫の持ち方の改革がある。
トヨタは長く、「カンバン方式」で効率を高め、競争力をつけてきた。なくなりそうな部品を生産ラインの看板に書き出してメーカーに提示し、随時供給してもらうことで、完成車工場では部品在庫を持たないようにする仕組みだ。ただ、震災では部品不足で自動車生産が停止し、弱点も明らかになったため修正した。

重要な部品は非常時でも確保できるよう、取引先全体に在庫の量を増やすよう要請した。在庫はコスト増につながり効率も下がるが、車を継続して造ることを重視したものだ。どのサプライヤーのどの工場が稼働しているかを確認する仕組みも作った。~~

トヨタ自動車については、約1年前に取り上げたことがあります。
https://note.com/fujimotomasao/n/n14eda4c475b6

初めての緊急事態宣言という今以上に先が見えなかった当時、決算見通しを発表して話題になっていたためです。1年前の5月13日の日経新聞記事抜粋は以下のとおりです。 

~~トヨタ自動車は12日、2021年3月期の連結営業利益が前期比8割減の5000億円となる見通しを発表した。世界の新車販売は22%減の700万台を想定する。通常期なら当然の見通し公表だが、今はあちこちの工場が止まっている非常事態。豊田章男社長は「国内生産300万台の死守」「次世代技術への投資継続」などを強調し、安心感の醸成に努めた。~~

業界他社が「先を見通せない」として決算見通し発表を見送る動きもある中で、黒字見通しを発表し、サプライヤーに安心感を伝えました。当時5000億円と言っていましたので、上記2兆2452億円は最終的に見通しを大幅に上回った結果だと言えます(厳密には、上記は営業利益と純利益の違いがありますが)。

この結果の大きな要因には、市場全体の急回復、それに伴う売上回復が挙げられます。しかし、それだけとは言えません。上記にあるように、同社の経営努力もまた大きな要因だと言えるでしょう。半導体を安定して調達できる体制をつくっていなければ、生産回復しようにもできなかったからです。

加えて、「売上高は前の期に比べ9%減の27兆2145億円」とあります。それでいて、「純利益が前の期比10%増の2兆2452億円」です。つまりは、コロナ禍の影響から通年単位で売上減は避けられなかったものの利益は増えている=かなりのコスト減に成功しているということです。

稲盛和夫氏は「10%くらいの利益率が出せないようでは、経営のうちに入らない」と言っています。つまりは、売上高営業利益率で10%は出るよう目指せという示唆です。売上高営業利益率は、仕入れが大きく見かけ上の売上が大きいビジネスモデルだと低くなりがちで、逆だと高くなりがちなどがあり、一つの基準をすべての企業に適用できるわけではありません。その上で、京セラ創業者である稲盛氏の基準は、特に製造業にとっては参考になる示唆でしょう。

上場企業の中でも、営業利益率10%を出している企業はありますが、少数派です。
以前からトヨタ自動車の利益率は注目して見ていましたが、10%に届いていませんでした。「あのトヨタでも出せないのか」というのが印象的で、営業利益10%の達成は簡単ではないということを認識していました。コロナ禍で厳しかった2021年3月期決算でも、当初見通しを上回って10%近くを実現させていることは、高い収益力・生産性と言えます。

危機対応力向上の観点から在庫マネジメントの考え方を変えて一定の在庫を持つようにする→余剰の在庫を持つことにすればコスト上昇圧力になる→それでもトータルで利益率が上がる結果を出せるほど効率化を進める。コロナ禍発生以降業績確保のための急対応をしたものと推察しますが、それらのすべてがコロナ禍発生後に始めたことではないでしょう。東日本大震災を受けての在庫マネジメントの方針転換、あるいはそれ以前から、効率化の取り組みを進めてきた過程があってこその、上記決算のはずです。

平時から組織として必要な取り組みをしておく、そして危機時にさらにその取り組みを強化する。上記はそれらの重要性を伝えるエピソードだと思います。

<まとめ>
危機に学び、平時から経営改革・業務改革をしておく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?