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危機環境下での経営方針表明

トヨタ自動車が12日、2021年3月期の連結営業利益が前期比8割減の5000億円となる見通しを発表しました。産業界に与える影響の大きい企業のため、この発表が各所で取り上げられ、目にした方も多いと思います。

日経ビジネス電子版5月13日の記事では、『トヨタ8割減益予想 それでも章男社長が伝えたかった「安心感」』というタイトルで、次のように取り上げています。(一部抜粋)

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豊田章男社長は「国内生産300万台の死守」「次世代技術への投資継続」などを強調し、安心感の醸成に努めた。

 「車を造ることで、仕入れ先の工場が動き、地域社会が動く。多くの人の(通常の)生活を取り戻す一助となる。危機的状況だからこそ、わかっている状況を正直に話し、1つの基準を示すことが必要だ。基準があることで、皆さん、何かしらの計画や準備ができる」。豊田社長は同日開いたオンライン記者会見でそう話した。

 見通しを出すかについては、トヨタの経営陣の中でも随分議論があったという。ただ、前述の理由で先行きを見せることを選び、販売台数が2割以上減っても5000億円の営業黒字を出せることを示した。その上で強調したのが、国内300万台という現在の生産体制の維持だ。

 生産体制だけではない。次世代技術への投資について、豊田氏から返答役を振られた小林耕士執行役員はこう言い切った。「止めてはいけないのは未来に対する開発費。これは普遍的であるべきだし、そのための資金を持つべきだ。我々の手元には8兆円の資金がある。20兆円のアップルと比べればまだ少ないが、スマートシティーに対する投資や試験研究費で変えるところはない」
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メディアによっては、営業利益8割減を悲観的な見通しのトーンで伝えているものも少なくないと思います。実際に「あのトヨタでも8割減なのか」とショックを受けた消費者も多いかもしれません。

しかし、冷静に見て取れば、大手有力企業で赤字見通しを発表する内容もある中での、黒字発表です。黒字というだけでなく、5000億円もの黒字です。ポジティブな捉え方もできるはずであり、上記日経ビジネスの記事はそちら寄りと言えるでしょう。記事中で引用されているオンライン記者会見で話された内容からも、同見通しを悲観的なトーンをもって受け止めるのは本質的ではないと考えます。

トヨタに紐づいているサプライチェーン各社は、トヨタの方向性なしには今後の見通しが立てられないはずです。かつ、トヨタの存在感は産業界で大きいため、サプライチェーンに直接紐づいていない企業でもトヨタの方針から様々な影響を受けます。

この局面でも利益を確保すること、潤沢な資金を確保していること、国内生産の維持・研究開発投資の継続が変わらないこと、の明示により、サプライチェーン各社をはじめとする多くの企業関係者に意思表示をしたことは、安心感をもたらすものではないでしょうか。

普段、いろいろな経営者、経営幹部、社員の方とお会いする機会があります。それらを通して感じるのは、社員にとって「今、ここでの苦労」は、必ずしもストレスにならないということです。社員にとってストレスなのは、先が見えないことです。先が見えれば、「今、ここでの苦労」にも耐えていけます。

社員が、先が見えることを求めていると言っても、未来を約束してほしいというわけではありません。未来は不確定で、読み切るなどできないことは、社員もわかっています。求めているのは、

・いつを目途に、
・どうなっているのを目指せばよいのか、
・そのために、今は何にフォーカスすべきなのか、

が明確であることでしょう。

明確な経営方針を意思として表明し、社内外の関係者と共有する。この行動は、混沌としている環境下では特に求められると思います。今回のトヨタの発表内容は、それに十分応えるものであったと感じられ、だからこそ長年優良企業として業界を牽引できているのではないか、そのように感じました。困難な状況下でのリーダーシップのあり方として、参考になる事例だと思います。

<まとめ>
困難な状況下こそ、先の見通しを明確に示す

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