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多様性活用を目指す組織変革(2)

 前回の投稿では、「Climers2022春」の対談イベントでの示唆から、多様性の理解と浸透を目指す取り組みについて考えました。組織での多様性を高める取り組みを推進する要素として、1.トップの強いコミットメント、2.社外の人物の活用、3.トップがバイアスの有無を問う、の3つを挙げました。その続きです。

4.既存のルールも見直す

 多様な人材の受け入れや活躍を組織として底上げしたい場合には、新しいルールを作って運用しようとします。例えば、テレワーク制度、育児休業・介護休業の取得しやすいルール、契約社員の正社員化(あるいはその逆)、外国人採用枠、女性管理職比率目標の設定などです。今までにない新しいルールを作ることも有効ですが、これまでのルールを変更したり廃止したりすることも有効です。

 同対談イベントでは、従来の人事評価制度における昇格制度を取りやめて別のやり方にしたという事例の紹介がありました。これまでの昇格制度の基準が、女性社員の管理職昇格のハードルとなって登用を妨げていたからだそうです。

 私たちは、組織変革にあたっては、新しい仕組みをつくって加えていくことに集中しようとしがちですが、今あるものを捨てることも同様に(場合によっては新しい仕組みをつくること以上に)重要です。既存のルールで足かせになっているものはないか、評価してみる姿勢を忘れないようにしたいものです。

 5.取り組みを途中でやめない

 同対談イベントで、「一度取り組むことに決めた変革を、途中でやめてはならない。もしやめてしまうと、強力な復元力が働く」というお話がありました。「復元力」という言葉は、ヒトや組織の性質をとても的確に表している表現だと思います。

 これまでに慣れ親しんだ慣習を壊して新しいやり方を取り入れるのは、精神的な負荷がかかるため、個人差はあるものの基本的に皆やりたくないことです。そうした抵抗心理に対して、トップがコミットすることでようやく走り始めた取り組みをやめるとなると、その組織のメンバーはここぞとばかりに元の慣習の世界に戻ろうとするものです。

 新しいやり方に変えるのは抵抗がありながらも、これまでのやり方のままではまずいのだろうとどこかで感じてもいることで、後ろ向きながらもやむを得ず協力しているメンバーが多くいます。途中で取り組みをやめるということは、こうした層に対して「だから前のままがよかったんだ」というメッセージとなり、これまでの文化がより強力に固着してしまうきっかけとなるでしょう。次に同じテーマや別の何かで取り組みを再開しようとしても、復元力が働くことで、より実行が難しくなります。だからこそ、最後までやりきらなければならないというわけです。

 とはいえ、取り組みを進める中で明らかに不具合が見つかったり、大きな環境の変化が起こったりすることで、とりやめるという判断も必要になる場合があります。そのときには、「活動を止めるのは、中止ではなくて中断である。状況が整い次第すぐに再開する」と宣言することが大切です。あるいは中止の場合は、きちんと経営判断としての理由を明確に説明して活動の清算を行い、あくまでも是々非々で中止の判断を行っていることを理解させ、他の組織活動で同様の認識にならないようフォローすべきです。

 6.有効な「問い」を設定しておく

 同対談イベントで、男性社員の育児休業取得を促す上で、上司や周囲が「いつとるの?」と問いかけると有効だという紹介がありました。つまりは、「育児休業をとるの?」という問いではなく、「時期はいつなのか?」と問いかけるわけです。この問いによって、とることが前提になるからです。

 男性も育児休業をとるという概念が広がりつつありますが、実際に取得している人はまだ少数派です。よって、男性社員の場合、今はまだ育休をとるかどうか自体が論点になります。しかし、時期を論点にすることで、取得を前提にしようというわけです。

 仮に男性が育児休業を取得したとしても、女性のように産休含めて1年や2年という期間になることはほとんどありません。限られた日数休んでも、女性で育児休業する人とまったく同じ感覚を得ることは無理があります。そのうえで、100には遠いとしても、まったく知らない0と、わずかでも知っている1とでは、種類がまったく違うものです。育児休業というものがどういうことなのか、1の大きさという断片的にでも体験することは、職場の多様性理解と家庭の協力体制づくりを進める上で大きなプラスになると思います。

 メンバーを新しい前提に導く問いを設定しておき、その場面が来たら問いかけてみるのは、有効な方法だと言えます。

 7.理由(WHY)が腹落ちするように伝える

 トップのコミットメントと共に、それがなぜ必要であるかの理由を本質的に浸透させるのが、取り組みを進める上でやはり王道の方法です。同対談イベントでも、例えば女性の管理職比率のテーマなどは、「目標が目的化」しやすいという示唆がありました。もともとは、より創造的な組織成果を上げるために設定したはずの目標が、それを達成させるために無理な力学を働かせようとして、組織成果を下げてしまうという本末転倒な結果になりやすいということです。

 例えば、「マイノリティーと呼ばれる属性の声が一定数経営に反映されないと、自社の商品開発などにも限界が来る。だから多様な人材の活用が絶対に必要」など、自社にとってのWHYを明確にし自社の言葉で語れるようにする必要があります。トップを中心とする活動推進者が、自社にとってのWHYを明言し続ければ、その取り組みがメンバーに理解され取り組みで成果を上げる原動力となるはずです。

 以上、同対談イベントの示唆をヒントに、多様性活用を目指す組織変革のポイントについて考えてみました。このポイントは、多様性活用以外のあらゆるテーマの組織変革でも共通していると思います。

 <まとめ>
トップが組織変革にコミットし、それが必要な理由を自社の言葉で語る。

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