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デフレ下の雇用(2)

前回の投稿では、デフレ慣れしている日本の物価が、いつの間にか世界最安水準になってしまっていることについて取り上げました。賃金についても伸びておらず、外国人労働者から就労先として選んでいただけなくなる状況も近づいていることについて考えました。
https://note.com/fujimotomasao/n/n0fa4942e51ae

そのような状況下で、私たちは経営や仕事にどのように向き合っていくべきなのでしょうか。ここでは、大きく4点考えてみます。

1.来たるインフレに備える
このデフレ状態はいつまで続くのでしょうか。そもそも、今の日本ほどデフレが続いている国は他にありません。例えば、日本同様に人口減少している韓国でも、2000年以降毎年ほぼ1%以上、多い年では4%以上インフレしています。今のデフレ状態が異常だとすると、異常は長く続きません。いずれインフレに転じることになります。

デフレし続けることは、構造的にも難しいと言えます。その理由は、外国との物価差が開いていくと、インバウンド消費により買い求められてしまうためです。今は旅行需要がありませんが、どこかのタイミングで旅行需要が復活すると、世界中を観光客が行き交うことになります。そのときに、物価が相対的に地盤沈下していればしている国ほど、渡航先として選ばれやすくなります。

ダイナミックプライシングについて、ホテルやフライトなど既に導入されているサービス以外にも、電車等への適用拡大の話が出ています。こうした動きが重なれば、サービス産業を起点に物価全体が押し上げられていく流れも想定されます。

資産については、渡航に関係なく買い求められます。不動産価格が上がり続けるのは、外国人投資家が買い続けているためです。北海道ニセコの地価上昇率が高いのも、外国マネーが流入しているからです。投資を引き揚げれば地価が下がるわけですが、一定の割安水準まで下がればまた買い手が集まります。

日本は基本的に人口減少していく環境にあり、地域によっても条件は様々ですので、日本の地価全体がすべからく盤石と予想するのは無理もあるでしょう。しかしながら、観光資源とインフラ機能の高さの観点からは、日本の地価全体がすべからく下がっていくという想定も無理があるのではないでしょうか。

デフレを所与のものとするのではなく、いつか終わりの来る異常だと認識して、何をしておくべきか考えて準備しておくことが必要ではないかと思います。

2.賃金相場に敏感になり、社員の給与を引き上げていく
上記インフレの観点にも関連しますが、社会の全体的な賃金相場情報を把握し、自社・自分の水準を再評価することが必要でしょう。そして、必要性を判断して給与を引き上げていくことも重要です。理想的には、自然インフレを待つだけでなく、積極的に賃金を上げていくことです。

仕事を通していろいろな企業に訪問する機会がありますが、中には20年近く前に作られた賃金テーブル表を今でもそのまま使っている企業があったりします。これまでは、たまたまデフレが続いたこともあってその状態でも通用したわけですが、これから先はそうとも限りません。「気づいたら、自社の賃金水準が、産業全体や業界全体の賃金の動きから大きく乖離してしまっていた」となりかねません。

今定期的に訪問しているある企業様では、業界最大手他社の年収水準に対してとても敏感です。同社様なりに他社の水準を調べて、「年収ベースで○万円うちが下回っているから、それを埋め合わせるための改定を今年行う」といった具合です。ここまでやるかどうかは別として、感覚としては見習うべきものがあると思います。

最低賃金引き上げの是非について、いろいろな議論もあります。引き上げることで経営が雇用を減らそうとし、労働者全体としてはかえってマイナスになるという意見もあります。それも一理ありますが、前回コラムで見たように、そもそも賃金面で外国人雇用を促すレベルになっていない現状も考える必要があるでしょう。

3.賃金以外での働く魅力を高める
賃金は勤務先や仕事を選ぶ上での基本的な要素ですが、それがすべてではありません。また、従業員に対して賃金だけで自社の魅力を訴求するのも限界があります。自社において、賃金以外での働く魅力をいかにつくれるかが、就労先として選ばれるためのカギとなります。

あるベトナム出身者は、「就労先としては、高給か自分のキャリアに明確なメリットがあるか、どちらかがないとダメ」と話していました。「社会に役立っている」「素晴らしい企業理念を実践している会社である」と、組織に賛同できることは大切な要素です。しかし、それだけでは、その組織の活動に深く参画する理由としては不十分なのでしょう。個人の職業生活にとって重要と考える何かが明確に手に入る環境も整えることが、選ばれる組織になることにつながることでしょう。

4.事業再編を進める
日本は企業数が多いことが指摘されています。人口1000人当たりの事業所数は、米国の2倍以上とも言われます。企業数が多いことが必ずしも悪いわけではありませんが、限られた市場のパイを多くのプレイヤーが取り合うことで消耗戦となり、価格競争の結果デフレ圧力の一因となっていることは確かでしょう。M&Aを進めたり、企業内部でも採算性・戦略性の高い事業に絞り込んだりするなどの取り組みによって価格競争を避け、付加価値の高さの競争を選ぶことが、これまで以上に必要になるでしょう。

<まとめ>
デフレ慣れに自組織を合わせるのではなく、デフレ後に合わせる。


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