デフレ下の雇用
見出し画像

デフレ下の雇用

前回の投稿では、ある外国人社員の退職事例について考えました。日本で働けば稼げると期待して来日したものの、現在の処遇が期待に見合わなかったため、より高い報酬を求めて別の雇用口に移った、という話でした。
https://note.com/fujimotomasao/n/nc9a2760be717

日本に高賃金を求めて来日するという構図は、将来的に減っていくことが想定されます。ベストセラーとなっている「安いニッポン」(中藤玲氏著)では、デフレ慣れしている日本社会の実態について説明されています。ディズニーもダイソーも、同じものを買うのなら世界最安水準だということです。

同書では例えば、ダイソーの商品であれば、日本は100円、アメリカ160円、ブラジル150円、オーストリア220円、タイ210円、台湾180円、中国160円とあります。「ホテルに泊まってディズニーランドで遊ぶなら、日本が最も割安でコスパがよい」としてリピーターとなっている訪日外国人の例も紹介されています。

私は、20年以上前に外国人と一緒に仕事をする機会がありました。当時は、「世界で最も物価が高いのはスイス。日本は次に高くて、二番目に物価の高い国。」と説明していました。それも遠い昔話です。

上記は「同じものを買うのなら」の比較です。「稼げる賃金の絶対額」の比較はまた別の話です。賃金の絶対額では、日本はアジア全体の中ではまだ相対的に高い状態だとは言えます。しかし、このことも次第に崩れてきているのが実情です。以下は、私が月刊税理という雑誌に寄稿した内容(2019年)の一部です。2019年当時からこの傾向はおそらくさらに進んでいることでしょう。

~~日本企業の経営者に支払われる賃金が、諸外国に比較し低いという指摘がたびたびあるが、実はこのことは経営者に限らず管理職全般に言えそうなのだ。しかも、欧米圏のみならず、アジア圏の現地企業と比較しても、日本の管理職の賃金は見劣りしつつある。プレジデントオンラインの記事によると、日本国内の日本企業に勤める管理職の年収は、課長級の年収で約853万円、部長級で1,051万円と試算される。従業員1,000人以上の大企業で課長級989万円、部長級1,232万円となる。他方で、例えば中国やシンガポールの部長層には、年収2,000万円クラスの人材が現れてきている。また、現地に拠点を置く日系企業が現地で提示する管理職への報酬になると、既に現地企業の提示に力負けしているのが伺える。同記事では、「この10年の間に日系企業の給与は低いというのが労働市場に定着してしまっている。給与で日系企業が優位性を持っている国はどこにもない。」と指摘している。

<日系企業・現地企業が各国で提示する年収の比較>
国・職位 日系企業 現地企業
中国・経理課長 92~254万円 203~338万円
中国・経理部長 254~593万円 338~678万円
中国・営業部長(金融業) 1,051~2,118万円 1,271~2,542万円
シンガポール・営業部長(金融業) 650~1,219万円 1,544~2,844万円
インドネシア・経理課長 125~196万円 203~384万円
インドネシア・経理部長 204~266万円 360~563万円

参照:2018年3月31日付 プレジデントオンライン記事「日本の大企業の課長・部長給与は「中国よりずっと下」」

管理職人材を中心に日本はアジアに誇れる「給与先進国」とは言えなくなってきているのである。「仮に最大限の評価を受け続けても部長になるまで二十年以上かかる、その結果得られる報酬も地場の企業に劣る」となれば、高パフォーマンス人材が就業先にわざわざ日本企業を選び渡日する動機は大きく減退する。

そしてこの傾向は、非管理職の人材にも広がりつつある。日本国内で日本企業が非管理職の人材に提示する賃金も、外国人に対し優位性が失われつつあるのだ。ある企業のベトナム人技能実習生採用担当者の話によると、現地ベトナムの日系企業の工業団地で働く場合の賃金は月額3万円~6万円が現在相場らしい。着任する地域にもよるが来日した技能実習生は保険、税金等除いて月額手取り12~13万円程度を受け取るという。この水準であれば、物価差を考慮すると渡日するより現地の工業団地で働いたほうが金銭的な割がよい。法定の最低賃金レベルの提示では金銭的魅力が乏しく、「日本を選んでいただけなくなる」状況が日々加速している。その中でわざわざ渡日する実習生の中には、残業代をアテにして残業が多いと聞く企業を選ぶ人も少なくないというのだ。

加えて、来日する実習生の質が2~3年前と比べて明らかに低下しているという。その担当者は、理由としてベトナム国内の賃金上昇、近年外国人の受入れに注力する韓国の存在など、渡日以外の選択肢が広がったためと見ている。従来日本企業が提示してきたレベルの金銭的報酬では、もはや外国人に訴求できる余地がなくなっているのである。~~

私が20年以上前に、ベトナム日系企業の工業団地で雇用されている若手人材の月収を聞いたところ、日本円で1万2千円と言っていました。それが3倍以上程度になっているわけです。この間、日本国内の日本企業賃金はほとんど変わっていません。

例えば上記ベトナムの例で、経済成長に伴う適度なインフレが続き、工業団地で働いて得られる賃金も上昇していけば、技能実習生として来日する賃金の絶対額に対してさえ現地の賃金が逆転し、上回っていく可能性も十分あります。

この問題にどのように向き合っていけばよいのか。続きを次回以降に考えてみます。

<まとめ>
日本の物価は世界最安水準である。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
ありがとうございます!
株式会社小宮コンサルタンツ コンサルティング事業部 エグゼクティブコンサルタント  経営戦略・人事戦略、事業計画の策定・実行支援、人材育成等に携わる。 米ギャラップ社認定ストレングスコーチ、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、豪州ボンド大学経営学修士課程卒業(MBA)