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人材力に関する期待と現状のギャップ(2)

前回の投稿では、あるベンチャー企業の経営管理部門で仕事をしているAさんのお話を取り上げました。社員の人材力に関する期待と現状のずれをテーマにした内容でした。このお話から感じたことのひとつとして、メンバーが考えている「主体性」とAさんや経営層が考えている「主体性」にギャップがあったということを取り上げました。

もうひとつ感じたことが、採用活動の設計の大切さです。

Aさんからお聞きした、同社様の典型的な社員像は次のようなイメージです。(人材は1人ひとり異なりますので、一括りにするのは乱暴です。そのうえで、その組織で「比較的多く見られる傾向」というのはやはりありますので、その観点での形容です。)

1.地頭がよい。判断力やコミュニケーション力が高い。
2.一方で、そうした力の高さを論理的思考や創造的な思考には使えていない。
3.いわゆる、ガッツある体育会系。言われたことはしっかりやり抜く。
4.社会的意義が感じられることに取り組みたいという思いは強い。経営理念への共感度も高い。(Aさんの入社動機の大きな要因となったのも理念への共感)
5.成長意欲、学習への意欲、協業の意識は高い。仕事を通して学べる環境が整っていることも重視している。

Aさんとお話する中で仮説として合意したのいくつかのことは、以下の内容でした。

・採用側が発信するメッセージに応じた人が入ってきている。例えば、経営理念の浸透には力を入れて取り組んでいること、仕事を通して学べる環境づくりに力を入れていることは、応募者に対してアピールしている。その意味では、会社のメッセージは届いている。

・その観点からは、地頭のよさや体育会系のノリを求めているというようなメッセージを、いつの間にか発信しているのかもしれない。それ自体は悪いことではない。

・1.4.5.を持ち合わせていることから、論理的思考や創造的な思考へのマインドも持ち合わせているであろうと、想定してしまっていたのではないか。そして、実際には違った。

・(これが一番のポイントだが)創業メンバーを含む経営陣(採用の最終意志決定者)は、自社が創業当時のベンチャー企業のつもりでいる。しかし、応募する側は、上場もできるぐらいの組織基盤になっている会社として見ている。すなわち、強い売上基盤、ビジネスモデルの基盤、業務プロセスの基盤ができてきた会社だろうということ。

既に方法論もある程度確立されている業務プロセスに沿っていけば、社会的意義が感じられる仕事ができ、組織が発展していく過程に自分も参加できる、そういう環境だと見られているのではないか。それが悪いわけではないが、経営陣が「自社を志望するような人は、未開事業を自ら開拓していくようなマインドの持ち主であるはず」と無意識のうちに思っているとしても、応募する側はそうではない。

つまりは、自社が応募者に対して発しているメッセージのひとつが「地に足ついた既存事業で安心して働ける企業である」ということに、経営陣は気づいていなかったということです。

会社組織は生き物のように変わります。自分たちがつくった会社ではあっても、出来上がった瞬間から命が吹き込まれ、関わる人の相互作用で変化していきます。そのことを垣間見る好事例のような気がしました。

なお、今いるメンバーも貴重な人材です。上記1.3.4.5.を持ち合わせている人材を欲しい組織はたくさんあるはずです。そのうえで、今後の事業戦略を進めていくには企画力のある人材も必要であることから、今後の採用にあたって今回の件による気づきを活かしていくと、Aさんは話しています。企業側が望んでいることと、本人のスキル・マインドがそれに合っているかのすり合わせが、今まで以上になされるとよいと思います。

<まとめ>
応募者は、採用側が想定していない視点で自社を見ているかもしれない。


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