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自主経営の重要性

現パナソニック創業者の松下幸之助氏は、「自主経営」の重要性を説いていました。書籍「実践経営哲学」を参照すると、「自社の経営を成す資源は、十分な見通しを立てた上でゆとりをもって、自社内で確保することが必要」ということが説明されています。先日、ある企業様でお聞きしたお話が、この自主経営の考え方に通じるものがありました。

同社様では、以前生産設備が故障し、その期間の受注分の生産を他社に外注することで、納品を続けたことがあったそうです。原因は設備メーカー側による不備だったようですが、メーカー側に対してではなく、同設備を購入した自身の経営判断(リスク判断)にその責任を求めたそうです。うまくいかない原因を、外部ではなく自分の中に求めることを松下氏は説いていましたが、その通りのお話です。

その間、発注くださったお客様に迷惑をかけるわけにいかないとして、自社で作る予定のものを外注してまで納品をまっとうしたわけです。外注したものをそのまま納めたわけですので、儲けになりません。設備の復旧は保険で賄えたようですが、外注した結果として1億円近くの減益になったそうです。また、予定通り期待通りの品質で生産してくれるかどうか、自社が直接コントロールできないことを心配せざるを得ませんでした。

この経験から、品質や納期を委託先の資源に依存することに、大きなリスクを感じたそうです。そのことを教訓として、多少のトラブルがあっても自社で生産活動を続けられる状態づくりを目指して、自前の生産設備を増強し、生産力を数十%向上させたそうです。

そして、そのようなことも起こりうるということで、資金面で余力を持っておくことの重要性も学んだというお話でした。2月にコロナ禍が叫ばれ始めると、その教訓を生かしていち早く金融機関に申し入れ、借り入れを実行したそうです。経営努力を重ねたこともあり、結局コロナ禍でも売上増を実現したそうです。その結果、(現預金+有価証券)÷月商で得られる手元流動性の財務数値は、安全水域と呼ばれる基準を大きく上回る4か月分となっています。

また、生産設備故障を契機に、幹部人材を中心に生産計画と工程管理について見直しを進めることで、「幹部人材育成も進んできた」と手ごたえを感じているようです。「故障の約1億円はよい勉強代だった」とおっしゃいました。最近では、新事業にも取り組み始めているそうです。

これらのお話からは、経営の重要な資源(ヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウ)を自社内で十分に確保して事業活動を行うことの重要性が伺えます。これらが外注頼みだと、自社の事業や成功に継続性・再現性の保証がありません。

もちろん、すべてを自社で完結することもできないでしょう。有力なパートナーと協業し、自社では非効率な機能や自社にはない機能は社外のパートナーに求めていくことも必要です。無借金経営がよいとは限らず、資金を外部から調達することも必要です。社外の資源活用と自社で資源を保有することのバランスが非常に難しいのですが、「自社で自主的にコントロールできる状態が維持できているかどうか」が判断のポイントでしょう。つまりは、他社のコントロールに振り回されることなく、自社内で意思決定・実践ができることです。

極度に借入に依存すると、銀行のコントロール下に置かれることになります。自社商品の重要な営業機能を他社に依存すると、他社の指示に従わなければ売れない状態となり、言いなりになるでしょう。技術や人材もそうです。冒頭の松下氏の言葉は、そうならないための示唆だと言えます。

同社様のお話は、経営の重要な資源を十分に確保して事業活動を行い、うまくいかない原因を他者ではなく自身に求め、利益を生み出す仕組みを恒常的につくっている、好事例だと感じました。

<まとめ>
経営の重要な資源は、自社内で保有する。


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