老舗にあって、老舗にあらず

小田原市に本拠を構える企業に、鈴廣グループがあります。鈴廣かまぼこ株式会社を中心としたグループで、かまぼこを中心に鈴廣ブランド商品の製造、販売、飲食サービス等も行っています。同社が新商品をリリースしたというニュースがありました。

同社は、創業150年の企業です。「食するとは、生命をいただき、生命をうつしかえること。その一翼を担うのが私たちの仕事。かけがえのない地球の中で、この役割こそわが天職。」を企業理念としています。「かまぼこの里」「かまぼこ博物館」なども運営されていて、かまぼこという商品でブランディングにも成功している企業です。かまぼこという日本の伝統の食にこだわった老舗企業と言うこともできるでしょう。

この「老舗」について、同社のHPでは次のように書かれています。

~~社是 「老舗にあって、老舗にあらず」
「老舗にあって 老舗にあらず」という一見相反するふたつのメッセージ。
「老舗にあって」とは、どんな時代になっても決して変えてはならないことは頑固に守るという決心。
変えてはならないものとは、私たちの商売に対する姿勢です。

例えば、お客様と正対して仕事をすること。正直に誠実に。
一方「老舗にあらず」とは、変えなくてはならないことは勇気をもって変えるという決心。
変えなくてはならないもの、それは仕事のやり方。現状に満足せず、よりよいやり方があると信じて絶えず改革していく姿勢です。
この二つの決心が私たちの行動の指針です。
伝統を守りながら、いや、伝統を大切にするがために常に新しいことへ挑戦し続ける会社です。~~

「老舗にあって、老舗にあらず」。とても的確な言葉だと感じます。
「変えてはならないものを守り続けるだけ」あるいは「あらゆることを変え続けるだけ」であれば、それができている組織や個人を比較的見る機会も多いと思います。しかしながら、両方が実現できている企業は少数派でしょう。いずれか一方だけでは、短期的な成功はできたとしても、長期的な成功は難しいはずです。

お客様や市場の環境は、常に変化し続けます。これまでとまったく同じ商品をまったく同じ方法でつくり続けるだけだと、いずれお客様・市場環境の変化からずれていってしまい、やがてはニーズにこたえられなくなってその組織は衰退します。一方で、商品の形や企業文化などを変え続けるだけだと、その商品や商品を生み出す企業に一貫性がありません。その結果一向にブランディングされないために、やはりそのうち選ばれにくくなります。

同社HPでは、かまぼこについて次のように書かれています。

~~かまぼこ・・・不思議な食べものです。
かまぼこは、お米やお塩のように必需品ではありません。
世の中からかまぼこがなくなっても暴動騒ぎは起こらないでしょう…かまぼこ屋としては少々寂しく感じますが。
また、海で幸せに泳いでいるお魚の命を使って、つくるときには水も電気もガスも沢山使って地球に迷惑をかけています。
それなのに千年以上も食べ嗣げられているのには、何か意味があるのだ、かまぼこにはちゃんと役割があって存在が許されているのだと思っています。~~

この言葉からは、かまぼこに対する思いと同時に、既存のかまぼこ市場の耐性の低さ、今後の縮小可能性が見て取れます。

必需品でない以上、家計の収入が伸び悩む局面では、真っ先に出費を削るターゲットになります。景気も収入も「K字型」と言われていて、今後二極化がさらに進む想定があります。可処分所得が減る世帯で、必需品でないかまぼこに回すお金は、これまで以上に減ってしまう可能性があるでしょう。かといって、可処分所得が増える世帯で、高額嗜好品でもないかまぼこに出費が回る可能性が高いとも言えません。

それ以前に、少子化・人口減少で、食料品市場全体の縮小均衡も予想されます。「変えてはならないものを守り続けるだけ」では、長期的に立ちいかなくなるのは明らかでしょう。伝統の味というブランドで評価されている今のうちに、次の手を打っていく必要があると言えます。新商品のリリースには、そのことに通じる動きを垣間見ることができます。

その内容については、次回以降取り上げてみます。

<まとめ>
変えてはならないものを守り続けるだけでは、環境変化から取り残される。


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