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「学びの更新」の観点でリスキリングを考える

10月12日の日経新聞で、「学び直し支援、投資効率重視で」というタイトルの記事が掲載されました。リスキリング(学び直し)が最近よく聞くキーワードとなっていて、企業に加えて、政府も新たな成長分野で活躍する人材の育成支援に意欲的です。その学び直しのやり方について考察しているものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

企業が欲している新分野の人材は、新分野についてある程度は知っているというレベルの人材ではなく、その分野のプロとして仕事ができる高度な人材である。旧来の産業分野で仕事をしながら、余暇で学び直しすることで、新分野のプロを養成するのは困難である。

新しい産業分野の企業で働く人の学びに投資をする方がよほど効果的だろう。新規分野のプロは、新規分野の企業が育成するのが最も効率的だ。新規分野のプロ人材を必要とする企業にとっては、そのような人材を抱える専門企業を買収するか、プロ人材を引き抜くことが効果的である。学び直しという中途半端な方法では、プロは育成できるものではない。

働きながら別の分野の知識を獲得するのは難しい。学ぶ人々の限られたエネルギーと時間を考えれば、職務の外での学習は容易ではない。企業側の犠牲も大きい。旧来の産業分野の仕事も常に変化しているし、高度化している。それについていくためには継続的な学びが必要である。新分野の学び直しに時間とエネルギーが割かれると、旧来の仕事の効率は低下する。企業としても大きな損失になる。

一方で、働きながら学ぶことをハンディではなく、優位にする方法もあるはずだ。日本の経営学修士号(MBA)プログラムは、働きながら学ぶということを優位にする方法を編み出すことによって一気に普及した。

新しいことを学び直すのではなく、得意分野の能力をさらに深めるような教育が効果を持つこともある。特定の領域でスキルを究めた職人が、他の分野でも優れた判断力を発揮する例は少なくない。現在の得意分野をきわめることによって、新しい分野での判断力を養うこともできる。

そのためには優れた職人の判断力がどのように形成されるかを研究しなければならない。既存分野の能力を究めることで新しい分野の判断力を高めるような人材育成方法は、外部の教育サービス機関ではなく、仕事の中身を深く知る企業自体が生み出すべきだ。企業内の人事や教育のプロの出番である。

本テーマについて、ここでは3点考えてみます。ひとつは、学び直しを実務に直結させるということです。

同記事の示唆するように、余暇活動という割り切りで現業の仕事と切り離して学び直しを行っても、効果が低いものになるでしょう。組織も個人も、学んでいることを費用対効果の観点で捉える必要があります。

もちろん、すべての学びが短期的なスパンで実務に直結し、具体的な効果を生むとは限りません。効果を感じるまで長期的な時間を要するものもあります。そのうえで、短期・中長期両方の視点から、取り組んでいることがどれだけ投資に見合った学びの機会になっていそうか、戦略的な評価が大切になります。このことは、労働力人口の制約が大きくなる今後は、これまで以上に必要となりそうです。

2つ目は、学び直しはあらゆる領域に当てはまるということです。

「リスキリング」という言葉は、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略で必要となる業務に、人材が順応できるようにする再教育、という狭義の意味で使われることが増えています。しかし、もともとは、職業能力の再開発、再教育のことを意味するものです。

先日も、「私はDXのテーマには遠い仕事をしているから、リスキリングには縁がない」という話を聞くことがありました。しかし、学び直しはどのような領域の仕事であっても必要とされるものです。

そのことも含め、「学び直し」というより「学びの更新」と捉えるとよいのではないか、というのが3つ目の視点です。

以前の投稿では、「最終学歴ではなく最新学習歴を更新する」というテーマを取り上げました。「最新学習歴」は、京都芸術大学 副学長の本間正人先生によって提唱された概念です。

最終学歴の貯金でずっと生きていくのは不可能。社会の変化がゆったりしている環境下ではそれでも通用したかもしれないが、これだけ変化が速くなると最終学歴の維持だけではやっていけない。だから学びの更新が必要」というわけです。

「学び直し」と言うと、まったく新しいことを1から始めるようなイメージを受けがちです。しかし、今取り組んでいることや自分が専門としてきたテーマも「学びの更新」が必要で、そこからイノベーションに発展することもあるというわけです。

学卒以降の教育投資の規模が、日本は他国より大きく見劣りし、その差が企業や産業人材の競争力の差になっていると指摘されています。このことについて、「学びを更新し続ける取り組みがもっと必要」という観点で向き合うとよいのではないかと思います。

<まとめ>
職業能力の再開発、再教育は、すべての人に継続的に必要。


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