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何を評価対象とするか(2)

前回の投稿では、ある企業様での人事評価制度の見直しをテーマにしました。成果:行動の評価割合が、上位等級者になるに従って成果に比重が高まることが妥当なのかが検討課題になったという話でした。そして、評価割合の是非の前に、会社の考える成果とは何かの整理を改めて行うべきだということを、視点のひとつとして取り上げました。

2つ目の視点は、事業活動の時間軸が的確に考慮されているかです。

人事評価の期間は、一般的には1年間や半年間、短い会社で3か月間などです。こうした期間内で作業開始~成果創出まで完結する仕事もあれば、そうでない仕事もあります。

ある会社で研究開発を担っていた知人は以前、「自分の研究開発が具体的な成果と呼べる形になり、製品として世に出るのは、(ずっとその会社に勤続したとして)40年で2~3回程度だろう」と言っていました。ものによっては、このような大変な時間をかけてじっくり煮詰めていく活動を必要とします。研究開発以外にも、ボリュームのある企画や、簡単には取引を始めてくれない大きな企業との契約など、半年間などの期間を超えて活動が必要な仕事があります。

人事評価期間を一定の期間で区切り、その期間内での成果の明確化を強調することは、こうした息の長い取り組みを必要とする仕事を軽視することにつながるかもしれません。もしそうなってしまうと、組織全体の中長期での社会貢献・社会的存在意義が減退することにもなります。成果のマネジメントが、近視眼的で成果が形になりやすい目の前の仕事ばかりに没頭する結果になっていないか、振り返ってみる必要があると思います。

3つ目の視点は、上位等級者に、その組織でのメンバーとしてのあり方を軽視させる結果になっていないかです。

例えば、営業部門を統括するマネージャーが、成果:行動を7:3で評価されるとします。成果では部門全体の売上とマネージャー個人の売上が強調され評価要素のほとんどを占めているとします。自分が売上に直結する活動に没頭し、部下にも強く売上を求めてタスクマネジメントに集中し、その結果売上目標を達成すれば70点となります。その間、風紀を乱した言動があったり、部下の育成・内面のフォローなどをまったく行わなかったりして、行動部分が仮に0点でも評価全体で70点となります。

成果評価:行動評価で、若手社員が3:7、中堅社員が5:5、管理職が7:3のようなイメージで上位等級の社員ほど具体的な成果を求めていくルールにする考え方の会社も多くあります。その中で、ある会社の責任者は、「このルールが弊害となって組織の成長・発展の邪魔になっている」と言っていました。評価に対する本質的な問題提起だと思います。

このルールは見方を変えると、「上位等級者の行動はあまり重要視していない」と言っているようにも見えてしまいます。しかし、実際は上位等級者には、下位等級者以上に影響範囲が広くて深く、難易度の高いマネジメントなどの行動が求められるはずです。有力とされてきた企業から不正問題が出てくることの背景には、行動部分の評価の軽視が関係しているかもしれません。

加えて、特に管理職に求められるマネジメントで、直接成果として確認しづらい業務の難易度は、以前より高まっていると言えるのではないでしょうか。ダイバーシティと言われる多様な人材の活用、部下のメンタルヘルス支援、1on1と言われる部下との対話促進、年々社会的な要請が高まるコンプライアンスやハラスメントへの適切な対応など、求められることは増える一方です。ITツール活用による業務効率化などで負荷が減っている面もありますが、増える負荷の埋め合わせには至っていないでしょう。

各社員等級に応じて求める行動レベルの設定を変え、上位等級者には高い行動レベルを要求したいのであれば、例えば「成果評価:行動評価の割合は等級に関係なく5:5で統一」という設計思想も妥当かもしれません。

今回テーマにした問いかけには、決まったひとつの正解はありません。そのうえで、前回から取り上げてきた3つの視点なども含めて、自組織なりの解を見出していくべきだと思います。

<まとめ>
評価の指標は、中長期の組織・個人の発展も視点にして定義する。

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