事業多角化の観点

先日、ある経営者様から事業の多角化に関するお話をお聞きしました。
同企業様は、もともとガス会社としてガス事業を中心に取り組まれてきました。昨今の電力自由化の流れに沿って積極的に電力事業に取り組み、今では電力事業も有力な収益の柱と言える存在にまで育ってきたそうです。そして、水の販売事業にも取り組まれ、こちらも業容が拡大してきているということです。

その結果、下記のイメージとなっているようです。

・ガス:夏より冬のほうが需要量が大きい。都市ガスも手掛けるがプロパンガスも手掛けている。天災等で都市ガス・電力供給網がストップしてもプロパンガスは届けられることがある。

・電気:冬より夏の方が需要量が大きい(冷房利用等)。

・水:1年通じて必要。天候にも左右されるが、ガス・電気ほどの波ではない。

いずれも同じライフライン関連の事業でありながら、収益リスクが分散され、有機的なポートフォリオとして機能しているわけです。二酸化炭素の排出を避けるためのクリーンエネルギー化が進んだとしても、発電方法が多様化するだけで、電気の利用自体がなくなることはないでしょう。その意味でも、ガス事業のみへの依存から電力事業へ拡張を図るのは、理に適っていると言えます。

以前の投稿でガス会社様が高級パンのフランチャイズ販売事業を始めたという事例を取り上げました。この場合も、多角化で新たな事業を営み収益源をポートフォリオ化する好事例ということができそうです。

https://note.com/fujimotomasao/n/nbd053eabf0a6

9月8日の日経新聞では、「AOKI、娯楽がスーツ超えへ カフェなど22年度利益逆転」という記事が取り上げられていました。紳士服大手各社が、スーツの需要減を受けて、スーツ依存の経営からの脱却を急ぎ始めたという内容です。AOKIHDの6月末時点のスーツ販売店は639店と前年同期に比べ22店減った一方で、「快活CLUB」などのネットカフェやカラオケ店「コート・ダジュール」、フィットネスクラブなど娯楽業の店は114店増の629店で、ほぼスーツ店に並んだそうです。ネットカフェなど娯楽業の出店を増やし、2023年3月期の営業利益でスーツを超える稼ぎ頭に育てる方針だとあります。

はるやまHDや青山商事も、理容店、クリーニング店、フランチャイズチェーンで展開する飲食店、100円ショップ、フィットネスジム等を併設した複合型店の強化を目指すと紹介されています。紳士服量販店は、私も学生時代の就職活動期以来、社会人生活を支えてくれてきた存在です。何とか生き残ってほしいという思いがありますが、これらが機能するかどうかは収益性とリスクヘッジになるかどうかによると思われます。

同記事を参照すると、カフェや焼き肉などの外食産業は、参入が容易で価格競争が激しく、利益率は4%程度、フィットネスも3~7%とされています。参入したはいいものの利益率が低迷する、といった事態に陥らないかどうかが、収益性の観点です。

新事業が、冒頭で取り上げた企業様の事例のような状態をつくれれば、リスクヘッジに資すると言えます。しかし、スーツ事業の低迷は、以前からのクールビズの浸透に加え、コロナ禍で加速したテレワーク化の動き、すなわち移動機会の減少・密集する活動の回避に伴うものです。例えばカラオケなども、移動機会の減少・密集する活動の回避が直撃する事業だと言えます。一見すると両者はまったくの異業種ですが、同様のリスクを負っているため、リスクヘッジになりにくい可能性があります。

他の例では、鉄道会社による百貨店やホテル事業などが挙げられるでしょう。一見するとまったく別の事業ですが、移動の意欲や訪日外国人のニーズが収益の前提となっていたという点では、この環境下では共倒れでリスク分散になりきれていないであろうという指摘ができます。

もちろん、これらは結果論でもあり、多角化がよくないなどと言うのは筋違いだと思います。その上で、今後の経営においては、多角化についてコロナ禍という環境を踏まえた上でのリスク分散という、従来にはあまりなかった新たな視点も求められるのだと考えます。

アンゾフのマトリクス

<まとめ>今後の事業の多角化は、コロナ禍の環境変化も踏まえたリスク分散の視点が必要。

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