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これからの経営

先日、経営者十数人が集まるウェブセッションに参加いたしました。同セッションでは、各経営者が立てていた自社・自身の目標に関する進捗状況の報告、今後どんなことを目指していくのかの表明、外部環境の変化に対しどのように向き合うべきかのディスカッションなどが行われました。

自分の時間を割いて、他の経営者とディスカッションするためのウェブセッションに集まる皆様です。基本的に、志の高い経営者様ばかりでした。また、コロナ禍という難しい環境ではあるものの、会社を維持するための経営の海図をしっかりと描け、実践されている方々です。そのような皆様の話される内容はとても示唆的で、参考になる考え方やエピソードが多々ありました。

皆様のお話の中から共通して感じられたことをもとに、ウィズコロナという環境も踏まえたこれからの経営にとって大事な視点が、見えた感じです。私なりには、大きく以下の4つを感じた次第です。

1.(自社目線でなく)顧客目線

皆様に共通していたのは、コロナ禍においてもとにかくお客様の立場に立って、自社が何をすべきかの方針を考え実行していた点です。そして、お客様のためにできることはすべてやってみる、という強い姿勢が感じられました。3月以降は、場合によっては直接的な利益を度外視し、お客様を守るための活動にも注力されていました。例えば、オンラインでお客様へ向けた情報発信の機会をつくり、無料で提供するなどです。

また、本業と直接は関係ない分野でも、お客様を守るための活動に取り組まれたという事例を聞きました。例えば、資金に困っていると聞いた地域の経営者のために自身の金融機関・弁護士ネットワークから人を紹介した。マスク販売事業とは関係ない企業様が、中国との関係先ルートからマスクを仕入れることができたので、ほぼ原価の値段でそれをお客様に届けたなどです(ほぼ原価での販売なので利益はありません)。もっと直接的に、地域の関係機関に寄付をしたという話もありました。

すべてにおいて利益を度外視した活動を永遠に続けることはできませんが、皆様がTPOに沿ったお客様対応に奔走されているお話がとても印象的でした。しばらく厳しい状況が続く中でも、こうした顧客目線を徹底できるかどうかは、現在の得意先が将来もその会社の得意先であり続けるかどうかを分ける要因になると思います。

2.納得感

お客様にとっても、社員にとっても、なぜその会社の経営方針がそうなのかについて、納得できることが重要です。例えばある経営者様は、「数字を上げろとだけ言ってもだめ。自社の財務情報をすべて公開し、何がどうなって赤字になるのかという説明もし、だから何にどれだけ取り組まないといけないということも言っている。疑問や質問はどんどんあげてもらい、納得のいくまで説明している。」と言われました。

別の経営者様は、「M&Aを行ったが、買収先社員は「買われた」という失望感や警戒感、やらされ感でこちらを見ている。彼らに対して、自社の理念を徹底して共有し、社員に取り組んでもらった行動で足りていること、足りていないことを何度も話し合うことを徹底した。そうした「承認」行為を徹底しているうちに、成果が出てきて、買収された経営者に命令されている「やらされ感」が取れて自発的な動きに変わっていった。」と言われました。今後M&Aはますます広がっていくでしょう。この経営者様の示唆は大変参考になる視点だと思います。

コロナ禍において、難しい決断、新しい方策など、程度差はあれ各社ともこれまでになかった取り組みが必要とされていることでしょう。その際に、なぜそうすべきなのかについて社員間で本当に納得できていることなしに、組織としてのパワーは出てこないでしょう。よって、事実を定量・定性情報として共有し、その上で経営方針を浸透させることが必要です(それができるには、何を聞かれても答えられるような堂々とした財務諸表が作れてないといけません)。

3.同胞(同朋)感

コロナ禍は、組織のあり方・働き方についても様々な問いを投げかけるきっかけとなりました。メンバーシップ型からジョブ型雇用の考え方に変わらざるを得ない、テレワークが常態化する、相当数の人材がギグワーカー化していく、などです。いずれにしても、「決まったメンバーで毎日長時間一緒に同じ事業所で働く」ことで仕事が成立する職場環境ではなくなってくるということでしょう。

同セッションに参加された皆様からは、「オンラインで頻繁に短時間の報連相を行った」「ビジョンを意識して頻繁に語りかけるようにしている」「ジュニアボードを立ち上げて次世代経営について考えてもらっている」「コロナ禍で営業停止している時間で、社員と会社の歩みを共有できるための社史を作った」など、「同胞(同朋)感」を高めるであろう取り組みの話が随所に聞かれました。

今後は雇用と働き方の前提が変わるでしょう。職種や役割としての「機能」だけを人材に求めるのであれば、正社員でべったり組織に所属する必要性が薄れ、一時的なワーカーを都度調達することで事足りるかもしれません。その中で自社組織に積極的に関わってもらうには、その組織のメンバー(あるいは関係者)として働けていることの喜びを実感できる機会を、意図的に増やしていくことが求められます。その喜びの源泉になる要素のひとつが、その組織に属する他のメンバーとの「同胞(同朋)感」にあるでしょう。

4.ぶれない軸

同セッションに参加された志の高い経営者の皆様は、総じて「軸がぶれない」方々でした。自社のミッション(存在意義)、ビジョン(中長期目標)、お客様に対する考え方、新規事業の方針、既存事業の方針、コロナ禍の対応などが、ぶれずに一貫性のあるストーリーとしてつながっていました。そして、その中核にあるのが、経営者個人の軸でした。

「軸がぶれない」といっても、朝令暮改(朝出した命令が夕方にはもう改められる)がダメだというわけではありません。一度打ち出した施策であっても、その後何かの環境要因の変化があり、同施策にこだわり続けることが自社の価値観に反する結果を招くと気づいたならば、どんどん朝令暮改すべきでしょう。

ある高収益企業の経営者様は、他社でうまくいったあるマネジメントのやり方(目標管理のやり方に工夫を加えたもの)に大変感銘を受けたそうです。それは顧客志向を高めるための優れた取り組みであり、自社でもうまくいくと確信して、自社で導入したそうです。しかし、自社のビジネスモデルや社員の意識・志向性などの前提が異なるため、うまくいかず、あっという間に撤回したそうです。判断基準になったのは、「同経営者様個人が本当に実現したいと思う文化を創り出すための最適なツールとは言えないとみなしたこと」でした。

一見すると、社員にとっても「やるって言ったりやめると言ったり、どっちなの?」と思われるかもしれませんが、重要なのは日々の施策がぶれないことではなく、施策の根底にある経営者の考え方の軸がぶれないことでしょう。

コロナ禍をきっかけに、今後経営を取り巻く様々な前提が変わっていくでしょう。そして、想定を超えた環境変化だっただけに、私たちは今後、各社で判断が異なるテーマに多々直面していくことと思います。

例えば、ウィズコロナ時代の就業形態をどう考えるかというテーマに正解はないでしょう。6月に通常勤務に戻すとして話題となったサイバーエージェントもある一方で、全社員在宅勤務の恒常化を目指す会社もあります。企業理念や戦略によっては、どちらの選択も正解になりえますが、なぜそうするか判断の軸をしっかり持つことが重要になると思います。

ご参考までに、以下はサイバーエージェント藤田氏の5月25日アメブロの内容です(一部抜粋)。

「非常事態宣言から約1ヶ月半、サイバーエージェントでは全社員が原則リモートワークでしたが、その解除の方針を受けて6月1日から通常に戻すことを全社メールで社内に伝えました。リモートのメリットは、zoom会議の利便性、移動コストの削減、オフィス賃料の見直し、通勤ストレスの軽減など、並べればたくさんあります。一方で、リモートでは一体感、チームワークは損なわれます。また、リモートではかなり極端に成果主義、個人主義に振らざるを得なくなり、それは当社の根本的なカルチャーと相性が悪いです。それらは数値には出来ないですが、当社にとっては強みが失われかねない由々しき問題です。」

ここには、一貫して藤田氏のぶれない軸が感じられます。
経営者の軸がぶれなければ、その軸がぶれない会社を作り、その軸に共感したお客様や従業員・就職希望者などが引き寄せられてくるでしょう。そうすると、顧客満足度も従業員満足度も生産性も上がりやすくなるはずです。

コロナ禍発生以降、いかに現金ショートを防ぐか、資金確保が最重要課題でした。引き続き資金確保は重要テーマながら、再び会社を成長軌道に乗せることを目指す段階に来ました。ここからは、経営者のぶれない軸が一層重要になると思います。

<まとめ>
・「顧客目線」の徹底が、長期的な得意様・生涯顧客をつくる。
・会社や経営に対する「納得感」を持てるかどうかは、今後さらに重要になる。
・今後「同胞(同朋)感」が、その会社に所属する最大の理由になるかもしれない。
・経営者の軸が組織の軸をつくる


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