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雲の中のマンゴー|#26 秋山夫婦とIoT

この物語は、自動車部品メーカーを営む中小企業の若き経営者「沢村 登」が様々な問題に直面しながら、企業グループの新しい未来づくりを模索し新事業に挑戦する「実話を軸にしたフィクション」ストーリーである

Novel model Mango Kawamura
Author Toshikazu Goto

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第26話 「第5章~その3~」

前回のヒアリングから2週間後に秋山夫婦が再来園した。

「沢村さん、前回ハウスを見せていただきそしてお話を伺ってみて、まずは頭の中のイメージを画にしてみました。こちらをご覧ください。」

「おおぉ!なんかスゴイ感じがする。」

「いやいや、これはあくまでも今後の社会の動きと沢村さんのやりたいことや夢を連動させてビジュアル化したものですよ。もしイメージが違うところは修正していきます。
いいですか沢村さん、スマート農業については、まだまだ研究や実証段階のものが多いです。それでも社会の流れはスマート農業ともリンクしていくでしょう。
ただ、これだけは言えます。スマート農業って、ワクワクするんですよ!」

秋山好之は、目をキラキラさせて語った。

「では、ここからは私がお話しさせていただきます。」

「真子さん、よろしくお願いします。」

「前回うかがった水管理システムについて、例えば、給水と排水をインターネット通信で管理し、両方のバルブを遠隔操作できるようなシステムや、センサーでマンゴーの鉢の中の状態を計測して肥料を自動供給するシステムなどが挙げられます。
農業現場の様々な場所や工程をインターネットを繋げ、デジタル技術を活用したスマートな経営・生産を実現するのがIoT機器導入の大きな役割です。より効率的な経営・管理が実現できれば、我慢を強いられることが多い農作業の労力の軽減、コスト・人件費の削減、異業種から農業参入がしやすくなるなどの多くの効果が期待できると考えます。
この画の中にもある、走行型の農業ロボットやヒト型のアンドロイドタイプの農業ロボットなど、AIにより自動で農作業をする光景を見るのもそう遠い未来の話ではないのです。」

「いやぁ、なんかもう現実世界を忘れてしまいそうです。。」

「沢村さん、ご存知のことと思いますが、もうすでにいくつかの技術は進行しています。走行型のドローンの研究はここ静岡でも行われていますし、飛行型のドローンによる農薬散布は既に各地で運用されています。そもそも農薬規制の厳しいヨーロッパでは、自動で害虫を検出して、自らのプロペラで粉砕する小型ドローンを開発しているベンチャーが現れています。」

真子は少し間を置いた。沢村の表情が少し変化したのを感じたからだ。

「どうかしましたか?」

「いえいえ、農薬を使わない害虫駆除については、改めて詳しく聞きたいなと思っただけです。先に進めてください。」

「そうですか。ここまではハード的なお話でしたが、ソフト面のお話をしますと、これは旦那の専門分野なんですが、農業現場のデータを活用した農業経営についてはすでに日本でも多くの農業事業者が実践しています。中でも九州地区では盛んに行われていて、代表的なサービスですとFarmer's companion (農家の伴走者)というクラウドサービスが有名です。

農業現場から自動で吸い上げられるセンシングデータ、栽培記録、気象データや市場流通情報などの様々な情報をAI技術により解析をして、栽培の最適化や収穫予測の更新などに役立てています。

今申し上げたのは、あくまでも一例であり、実現しているもの、今後できそうなことを部分的にお話ししただけです。やろうと思えば想像できることはなんでもできますよ。」

「はぁ… 部分的にと言っても、ちょっと思考が追いつかないです。面目ない。。」

「大丈夫ですよ、改めてきちんと詳しく解説します。さて沢村さん。実は、今回一番お伝えしたいことが別にあるんです。それをこれからお話しします。」

「へっ、なんでしょう??」

「前回の沢村さんの想いをうかがって、きっと方向性がピッタリだなと思った取組みです。沢村さんの掲げている高齢化問題や少しお話をいただいた障害を持った方にも優しい農業をやりたいとおっしゃっていたことについて。
これは、ユニバーサルデザインの思考を取り入れた『ユニバーサル農業』の考え方と環境づくりがしっくりくると思います。それは、GAP認証制度などの良い農場づくりとも相性が良いです。またSDGsの取組みとも密接にリンクします。」

「ユニバーサル農業ですか?」

「そう、ユニバーサル農業です。その素となるユニバーサルデザインとは、特定の人達の障害、障壁、不便などのバリアを取り除く『バリアフリー』の考え方をさらに進め、能力や年齢、国籍、性別などの違いを超えて、すべての人が暮らしやすいように、まちづくり、ものづくり、環境づくりなどを行っていこうとする思考です。この概念を農業に取り入れたのが『ユニバーサル農業』で、それを積極的に推進しているのがこの静岡県浜松市です。

もともと継続雇用対策や、高齢者でも働き続ける環境づくりを憂いていた沢村さんですから、受け入れやすい概念かと思いますが、どうでしょう?」

「うん、そうですね。とてもしっくりと腑に落ちます。」

「今後は、高齢スタッフの他にも外国人スタッフや障害をもった方の雇い入れ機会があるやもしれません。いずれにしても新規雇用者の早期即戦力化はコスト負担を軽減します。たとえ日本語会話力が不自由であっても、また理解力や読解力が低くても、直感的に判断できるもの、色分けなどで判別できる作業環境づくりなどを整えておけば、誰にでも優しい農業が実現可能になります。ヒストグラムなどを作業現場やマニュアルに利用するのもよいでしょうね。
さまざまなデータのビジュアル化も、スマート農業の要素のひとつではあるのですが、読解力や判断力をサポートするという意味では、優しい農業、ユニバーサル農業と言っても過言ではありません。」

「なるほど、スマート&ユニバーサル農業ですね。」

「そうそう、それいいですね!沢村さん、この考えは私が日々憂いている日本のモノづくりのノウハウの伝承を手助けるひとつの解であると信じています。さぁ、では我々が考えるロードマップを見てもらいましょう。ここからは旦那が説明します。よしくん、あとは頼むわ!」

秋山好之と真子は、15年前の大学時代、農業経営人材育成コースの受講生仲間として知り合い3年後に結婚した。7歳年上である真子のメインの仕事は、機会メーカーに所属しながら産業ロボットのプログラミング開発を行い、サポートしている農業法人のグリーンハウス現場での応用研究も大事なテーマであった。結婚後にその研究を支えたのが好之であり、助手をしながら農作業にも励んだ。真子が好之のことを『よしくん』と呼ぶのは、知り合ったころからであり、今でもどんなシチュエーションでも変わらない。

「それでは、こちらの図で中長期ビジョンのたたき台を細かく確認していきましょう。」

ここからは、ハウスでの作業を終えた黒岩も参加した。

「まずは、目指す事業イメージと現在のギャップを明確にして、この先3年間の到達目標を設定してみました。そして1年目の取り組みとしては、まずはアザミウマ対策ですね。直ぐにできることとして、赤色LEDを設置してみるのも良いかと思います。施設栽培のナス、キュウリ、メロンで防除効果を実証した成果がでており、被害を半分にまで抑えることも可能で、農薬使用の大幅削減にも期待が持てます。ドローンを使った害虫対策はその次のステップですね。
そして、収穫と販売管理のICT化にも取り組みます。これは、鉢(果樹)ごとバーコード管理をし収穫したマンゴーには、以前のような付箋紙に【重さ・品質・単価】を手書きで記したものの代わりに、栽培情報と重量や食べごろ等の個体情報が記録されたバーコードシールを貼り付け、それが店頭でのエアレジとも連動、取引実績管理、在庫管理、トレース管理にも活用できるものです。
そしてFarmer's companionのクラウドサービスを活用して、栽培の最適化や収穫予測、流通連携を実現できるようにします。どこまでやるかにもよりますが、取り組むべき事業の資金調達をどうするのかと公的支援制度の活用もできないかと考えています。」

「すばらしい!玄さん、どう思う?」

「そうですね。良く考えていただいたと思います!」

「秋山さん、ぜひこのプランでお願いしたい!!」

「ありがとうございます。ただし、実際に動き出したら修正をしながら進めていくことになるかと思いますのでご承知おきください。そして市のスマート農業推進事業が活用できそうなので市役所に相談に行ってみてください。」

「そうですか、そこまでお調べいただいていたのですね。早々に玄さんと市役所に行って来ます。本当にありがとうございます!今後ともどうぞよろしくお願いいたします。」

本章の執筆には、テラスマイル株式会社 代表取締役 生駒祐一氏からアドバイスをいただきました。ありがとうございました。

https://terracemile.jp/

#27に続く。


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