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雲の中のマンゴー|#25 あなたいい線行っているわ!

この物語は、自動車部品メーカーを営む中小企業の若き経営者「沢村 登」が様々な問題に直面しながら、企業グループの新しい未来づくりを模索し新事業に挑戦する「実話を軸にしたフィクション」ストーリーである

Novel model Mango Kawamura
Author Toshikazu Goto

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第25話 「第5章~その2~」

「まずは、現状の解決したいことからお話しします。先ほども少し触れましたが、なんと言っても、アザミウマ対策ですね。スマート農業化によりピンポイントでの農薬散布を実現したいです。具体的には、ドローンを活用するのですが、飛行型ドローンに内蔵されたセンサーでアザミウマを検出して、その処理として、この飛行型ドローンと農薬噴霧器を備えた走行型ドローンにより、自動でその場所のみに農薬を散布してもらいます。これにより、資材と労務コストを削減して、健康被害の軽減、減農薬マンゴーの栽培を実現したいのです。さらに、農薬を使わずにドローンが自動で害虫駆除するようなことができればよりハッピーです。」

「へえええ~、で他には?」

「ああ、なんか真子さんやけに喰いついてますね。沢村さん、続きをどうぞ。」

「あれ、杉本さんも興味あるのかな。うちのパートさんたちにこの話をしても興味をもってくれないのだけど、それでは、続けて水の管理と環境制御の話をします。

ちょうど今の時期は鉢の水が乾かないように、それでいて過剰給水にならないように湿らせる程度で水の管理をしていますが、鉢の水分量や水温を自動測定して自動潅水化できたらだいぶ楽になります。それと連動して、ハウス内の環境制御の自動化を実現したいです。ハウス3棟ごとに温度や湿度、日射量に二酸化炭素(CO2)の濃度などをセンサーで測り、換気装置や噴霧器といった設備は、計測したデータを基に自動で稼働する。自動で窓を開閉したり、細かな霧を噴射したりと、適切な環境を整えてくれるんです。まぁ、これができたら私は必要なくなってしまうかもですが…笑

そして環境制御だけでなく、マンゴーの鉢や木、選別した果実にも各種センサーを活用し収穫予測までも実現できればなと。先ほど質問いただいた、葉や実の面積等の計測もセンサーでぜひやってみたい。その収穫予測からオンラインで予約注文を受け付けたりと、生産から流通までがスマート農業で繋がることを夢見ています。」

「なるほど、なるほど。ずいぶんスマート農業を勉強されているようですね~」

「いやいや、これらはネットで検索した程度で少し妄想も入っていますよ。実は、一番大事に思っているのが、農業技術の早期習得の仕組みというかシステムなのかなと思っています。今年のマンゴー栽培を始めたころは、参入したてでノウハウがなく、とても苦労しました。その時期の管理不足が要因となり収量が大きく減ったのだとも感じています。また、ICTを利用し熟練者の農業技術の習得が行える支援システムの構築も、スマート農業の大事な考え方なのではないかと思っています。実は、黒岩が、前々からそのことを危惧していて、マニュアルづくりにも取り組んでいるんですよ。」

「いい着眼点ですね。そのマニュアルとやらを見せてもらうことできますか?」

真子の目が色めく。

「いいですよ、ちょっと待ってください。」

ガラガラガラ~
事務所横の直売所に繋がる引き戸をあける。

「玄さん、ちょっといいかな。あのマニュアルもって来てくれる。」

直売所の床の修繕をしていた黒岩は、1号ハウスの管理スペースのデスクに置いてある自作マニュアルを取りに行き、両脇に書類を抱えて事務所に入ってきた。

「こちらが、私がこのマンゴーハウスに関わってからの18ヶ月間で取りまとめたデータとマニュアル化のもとになる資料です。どうぞ、自由に見てください。」

真子が、すぐさま手に取る。そして、猛禽類のような獲物を狙うまなざしで、黒岩のマニュアルに喰らいつく。

「実は、この黒岩は、親会社である株式会社サワムラで定年まで勤めあげ、現在はこのマンゴーハウスの農場長として勤務しています。親会社ではISOや内部統制などの体制構築を成し遂げ、中国協力工場の効率化と労務管理も担当していました。趣味はアウトドア全般でランドクルーザー70(通称:ナナマル)を30年も乗り続けています。古い機械や構造物が好きなオジサンなんです…笑」

そんな話には目もくれず、マニュアルを見続けていた真子が一言発した。

「黒岩さん、あなたいい線行っているわ。」

なんとも上から目線である。このあと、真子は黒岩に細かい質問を矢継ぎ早に投げかけた。しばらくの応酬があり、二人とも満足そうな顔をした。どうやら意気投合したようだ。

「黒岩さん、あなたがやってきたこと、そしてやっていること、無駄にしないわ。それと、私も玄さんと呼ばせてもらうわ。」

後から黒岩から聞いた話だが、秋山直子のストレートで失礼な物言い、本質は工業畑や産業ロボットプログラムの仕事をやってきたからこそ言える、工業畑の仲間だからこその声かけでもあったらしい。そして、彼女の一番の心配事は、大手メーカーの工員リストラや中小製造業の高齢化問題など、日本のモノづくりのノウハウの伝承が途切れてしまうことでの国際的競争力が減退することを危惧していると聞かされた。日本の第4次産業革命を憂いていると。

「秋山さん、実は別に面白いことを考えているんですよ。これも妄想なのですが。」

「どうぞ、今日は遠慮なく話してください。」

「実は、先ほどハウスをご覧いただいた通り、当社のマンゴーは鉢に果樹を植えています。いわゆるボックス栽培による1本植えなのですが、この1本の木毎にオーナーを募ることができないかと考えています。このボックス栽培の鉢は独立していて移動することも可能なので、オーナーになっていただくエリアの鉢は、スペースを余分に設け木の周りを人や物が余裕をもって移動できるようにします。つまりはドローンなどを使って、遠隔で栽培状況や生育状況を確認できるサービスも展開できたらなと思っているんです。

そして先ほど話した、飛行型ドローンがアザミウマなどの害虫をセンサーで検出し、その知らせを受けた走行型のドローンがピンポイントで害虫駆除をする、そんな機能も持たせることができたならどんなに素晴らしいか。というか、こんなことが実現したら、楽しくて格好いいじゃないですか…笑」

「それは、なかなかの遊び心ですねw」

「なんかね、子供たちにもワクワクしてもらえるような、そんなドリームファーム創りもやってみたいんですよ。スマート農業って夢があるじゃないですか。『農業って楽しそう』って、子供たちに言ってもらえるようになったら嬉しいなぁ~。

子供や若者たちが、このハウスのドリームファームに注目してくれたら、親御さんと一緒に遊びにきてくれたり、ジジババたちも連れてきてくれたりするかもしれません。楽しい場所づくりも必要ですよね。そのために、将来は近隣の農家さんと契約したり、自社でも農地を借り受けたり購入したりして、いろいろな作物が集まる場所づくりもしたいと思っています。

ハウス横の沿道をICT管理された無人販売ロードにして、いつでもたくさんの野菜や果物が手に入るメッカできたら最高じゃん!なんて思っています。妄想肥大ですけどね…笑」

「沢村さん、顔がクシャクシャですよ!とても素敵な夢ですね♪」

「杉本さん、ありがとう。君のような農業の世界をあまり知らない人にもそう言ってもらえて勇気が湧いてくるよ。まぁ現実的には、今の農業をしっかりとやることがまずは大事だよね。玄さんの進めているマニュアル化、そしてGAP認証取得やSDGsを意識した取り組みなど、しっかりとした農業経営を体現していきますよ。そして、同時に体が不自由な方や精神障害のある方、ご高齢の方でも働ける農業にも取り組んでみたいんですよ。誰にでも優しい農業を是非やりたい。

あっそうだ!あとね実は、農業も含め各産業のスマート化を見越して、株式会社サワムラの車両用センシング技術をスマート農業にも活用できないかと、開発の連中とも話しているんだ。こちらも夢が膨らむんだよね~」 

「いやいや沢村さん!今日はたくさん夢のあるお話をありがとうございました。今後は、ヒアリングさせていただいた内容をこちらで整理したり揉んでみたりしてみます。次回には、そのイメージをまとめたものとロードマップのたたき台をご提示できればと思っています。よろしいでしょうか。」

「ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。」

本章の執筆には、テラスマイル株式会社 代表取締役 生駒祐一氏からアドバイスをいただきました。ありがとうございました。

https://terracemile.jp/

#26に続く。


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