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雲の中のマンゴー|#24 ヒアリング

この物語は、自動車部品メーカーを営む中小企業の若き経営者「沢村 登」が様々な問題に直面しながら、企業グループの新しい未来づくりを模索し新事業に挑戦する「実話を軸にしたフィクション」ストーリーである

Novel model Mango Kawamura
Author Toshikazu Goto

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第24話 「第5章~その1~」

「おっ、おい、真子さん!」

秋山好之は沢村登の表情の変化を見て慌てた。

「なに!?」

なぜか、真子も眉間に皺を寄せる。

「あっ、スイマセン沢村さん!妻はIoT関連の仕事が多く工業系から農業参入する企業さんのサポートに多く携わっていて….
その.. きっと.. 少し心配になったのかなと思いまして。。」

「んん… ちょっとビックリしましたが。。気にしないでください、ごもっともな質問だとも思いますので。」

「すみません。。」

「あっ、沢村さん。ちょっと確認しておきたのですが宜しいですか?」

「杉本さん、どうぞ、なんでしょう?」

「今回、秋山ご夫妻に来ていただいたのは、沢村さんがアイディアバンク事業に投稿した案件が ”スマート農業化” をテーマにした農場改善の取り組みということだったので、スマート農業のアイディアを登録しているお二人に同行いただきました。」

「はい、そうですよね。で?」

「アイディアバンクのサービスは、初回ヒアリングと2回目のイメージ提案までを当社からの派遣ということでお二人に来ていただきます。その提案を受けて、その後の取り組みをやるかどうかをご判断いただき、個別の契約をしていただくとか、協働で公的支援制度を申請したりという流れになりますが。」

「もちろん、理解していますよ。当然の流れですね。」

「ああ、良かった…笑。はい、ではそのまま進めてください。」

「ご心配なく、了解ですよ。では秋山さん、まずはハウスをご案内しますので、私についてきてください。」

「ハウスはご覧の通り3棟ありまして、こちらのハウスでは主にアーウィンという品種を栽培しています。従業員は私を含め4名、主に黒岩が農業全体を管理しています。私と黒岩の他2名はパートタイムで働いており、このハウスでは約5,000玉を収穫する予定です。今は、誘引直しや灌水チューブ掃除と詰まり水量の確認などメンテナンス作業が中心です。それが終わると休眠期に入り、その時期は枯れない程度に水をコントロールして入れます。」

「なるほど、そうですか。他にも品種があるのですか?」

「はい、全部で11種類のマンゴーを栽培しています。アーウィンが中心で、次に多いのがキーツという品種で約3,000玉の収穫を予定しています。そしてナンドクマイやマハチャノックやキンコウなど、残り9種合わせて2,000玉ほどを収穫します。」

「11種類も栽培しているのですか!スゴイですね、ちょっと驚きです。では次に、ご苦労されていることなどもお聞かせいただけますか?」

秋山好之が続けて質問をする。

「そうですねぇ、このマンゴーハウスを事業譲渡という形で農業参入したのが今年の1月でした。そこから初めてのマンゴー栽培がスタート。幸いマンゴーの木は4年目でしたので、結実して大きくなったものはとても美味しいマンゴーに育ちました。しかしながら、参入当初に予測した年間8,000玉の出荷見込みには遠く及ばず、結果3,000玉弱の収穫に。2,000玉ちょっとが直売所やオンラインストアでの販売実績となり、残りはフルーツサンドやコンフィチュールに加工して販売、また冷凍保存としました。その原料を使用して杉本さんも関わっていたスイーツイベントに参加したんです。」

「そんなに甘くはないわよね。」

「ちょっと、真子さん!」

秋山好之はヒヤヒヤ顔で真子を嗜める。

「いやいや、真子さんのおっしゃる通り甘くないです。前オーナーから聞いていた話にプラス皮算用で見込みを出したのですが、なんの困難もなく問題も起きずマンゴーが収穫できるとみていたので、ホントに恥ずかしい限りですよ。」

「それは大変でしたね。。」

「特にきつかったのが、虫。アザミウマの対応です。その都度、農薬噴霧の必要があり手間もかかり一時作業をストップさせなければならない、後から集計したときの農薬の金額には驚かされました。そして、今年は大丈夫でしたが、これが受粉の時期だったら農薬散布はミツバチの生死に影響するので大問題になります。本当は極力農薬を使いたくないんですが、でも仕方がないんです。」

「そうですね。害虫駆除や予防は、どの農家さんも苦労されていますね。」

「それと、初めて収穫から販売までやってみて後から気が付いたことなんですが、計量と値段設定、そして販売実績管理をエクセル表計算以外はすべて手作業、アナログでやったんです。マンゴーが数百個程度であったらなら全て手作業でやっても問題ないかと思いますが、今年の約3,000玉でも大変な作業でした。それと間違いが起こりやすい気もしました。部分的でもIT化は必須だと痛感しました。」

「なるほど、いくつか課題は見えているのですね。あと、今回はスマート農業化をテーマにしているので、作物の栽培内容や農業情報の管理状況を教えてもらえますか?」

「それって、年間の栽培内容と温度や湿度管理などのデータのことで良いですか?」

「まぁ、そうですね。気になることは都度質問させてもらいますので。」

「了解です。栽培内容については、このホワイトボードのカレンダーを見ながら、収穫が終わった後の作業から次の収穫までの年間の作業も流れを説明しますね。ではご覧ください。

まず8月は剪定と施肥です。そして9~10月は芽かきと誘引作業ですね。11~1月中旬までは休眠期になります。この時期は最低限の水量を入れつつ、最低温度10℃に保ちます。1月中旬から加温を開始、2月下旬になるとマンゴーの花が垂れないように花吊りをします。3月初めにミツバチによる受粉をし、その後3月中旬から4月で摘果をし4月は玉吊り作業もやります。5~6月にネット掛け、日焼け防止の傘かけを行い、6月初旬~8月末までが収穫。今年は5月24日が初収穫でした。

環境測定については、ハウス毎に温度・湿度・日射量のセンサーが設置されています。日々ノートに記録していますが、ハウスの温度調整以外には活用していません。あとは不定期で生育状況の撮影をしていますが、主にはSNS投稿用に使用するだけです。」

「休眠期の鉢の水分量はどう把握していますか?」

「それは週に3回程度、感覚的に湿らす程度の水を入れています。」

「なるほど。では生育状況の撮影写真ですが、それは特定のいつも同じ鉢のものですか?それと、それらを定期的に葉の大きさ、実の大きさを測るようなことはしていますでしょうか?」

「いえ、特に決められたものを撮影していないです。生育状況の記録というより、あくまでSNS投稿用なので映えるものを選んでいるかと思います。また葉や実のと測定もしていません。」

「そうですか、ありがとうございます。現状に関しては了解しました、後で気になることがありましたら改めて連絡させていただきます。では次に、いま沢村さんが思い描いていることをザックバランに聞かせていただけますか。」

「思い描いていることですか、ありますね。たくさんありますよ!話が行ったり来たりするかもしれません。そして、とりとめのない話になってしまいますが聞いていただけますか。では、ここではなんですから事務所に移動してお茶を飲みながらにしましょうか。」

「そうね、楽しみだわ。ねぇヨシくん。」

妙に真子が乗り気だ。

本章の執筆には、テラスマイル株式会社 代表取締役 生駒祐一氏からアドバイスをいただきました。ありがとうございました。

https://terracemile.jp/

#25に続く。


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