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雲の中のマンゴー|#19 GWとアザミウマ

この物語は、自動車部品メーカーを営む中小企業の若き経営者「沢村 登」が様々な問題に直面しながら、企業グループの新しい未来づくりを模索し新事業に挑戦する「実話を軸にしたフィクション」ストーリーである。

Novel model Mango Kawamura
Author Toshikazu Goto

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第19話 「第3章~その7~」

「玄さん、なんなのこの虫。どうにかならないの?」

「アザミウマです、少しやられましたね。去年もこの時期に発生して、もっと被害がありましたから、このぐらいで済んで良かったです。5月過ぎまでは仕方がないですね、しっかり防除していかないとさらに被害が発生します。」

「なんと!また金がかかるのか。」

口に出したくなくても、つい口に出てしまう。そして、ついつい黒岩に当たってしまう。予測できていないことへの出費で、登の精神が徐々に追い詰められていく。それでなくても、2月時点で当初の業績見通しの半分になってしまい、せっかくマンゴーの花が咲いたにも関わらず、結実しない株が多い場所も発生した。さらに追い打ちをかけたのが、8月に収穫予定のハウス棟の温度が、この時期なのに35℃以上と続く日があり、実が大きくならない箇所も出ている。これは、沢村次郎のアスパラハウス視察で聞いた高温障害の症状である。

そんな栽培に追い詰められていた5月の初旬。親会社の(株)サワムラは9連休のゴールデンウィークだ。

”世の中はゴールデンウィークか、去年は何してたんだろう” ふと思う。

「社長、残っていた玉吊りはほぼ完了です。嫁はネット掛けと傘かけを玄さんから教えてもらいながら手伝っていますが、他に何をしましょうか?」

「マツさん、いや松田さん、ご苦労様です。ホント助かります。もうすぐ10時の休憩だから先に一休みしてください。」

「去年は社員たちとBBQをやっていましたが、今年はマンゴーですね。これはコレで楽しいですよ、汗だくですが .. 笑。これ来年から会社行事にしても良いのではないでしょうかね。体力づくりにもなるし、気持ちイイですよ。」

そうか、去年のゴールデンウィークは社員たちとBBQをやっていたんだ。今年は、彼ら社員からマンゴーハウスに遊びに行きますよと言ってくれて、来て早々に手伝いを始めてくれた。正直、サワムラ社員たちの気遣いには心から救われた。

「ところで社長、先日山梨の知人から聞いたのですが。その方の親戚のブドウ農家さんが、環境センサーを畑に設置して毎年の害虫発生時のデータから、それと類似した温度や湿度のタイミングの前夜にアラートを発生させるようにしているのだと。それをもとに防除をして害虫被害を抑えることができ、農薬使用量を減らしていると話してました。このような取り組みは、このマンゴーハウスでも可能なのではないでしょうか?」

「それ、スゴイですね!まさに目指すマンゴー栽培のひとつです。このハウスも温度や湿度、日射量、そして生育画像などのデータを蓄積しています。1年目ということもありますが、日々の作業に追われてしまい、まだうまく活用できていなくて今はデータ蓄積だけになっているんですよ。ただその話、とても勇気をもらいました。」

松田のこの話題が、登の日々の精神的なダメージ解消の1つのキッカケとなった。予測できないことへの対応と出費がイライラの要因となっていたことに対して、予測して対応する可能性を見いだせたことだけでもモチベーションが上がったのである。

「松田さん、ありがとうございます。初走から躓いたり色々と失敗をしてきたけど、それらも糧にして前に進みます。今は、少しずつ育ってくれているこの娘にようなマンゴーたちを、無事に世に出せるように努力します。申し訳ないですが引き続き応援よろしくお願いします。」

「社長、なんか硬いですよ .. 笑。頭を上げてください、まずは記念となる初収穫までの無事を祈ります。」

#20に続く。


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