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雲の中のマンゴー|#18 自己嫌悪と花吊り作業

この物語は、自動車部品メーカーを営む中小企業の若き経営者「沢村 登」が様々な問題に直面しながら、企業グループの新しい未来づくりを模索し新事業に挑戦する「実話を軸にしたフィクション」ストーリーである。

Novel model Mango Kawamura
Author Toshikazu Goto

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第18話 「第3章~その6~」

「社長、ちょっとよろしいですか。実はうちの嫁さんが、マンゴーハウスのお手伝いをしたいって言ってるんですよ。」

品質管理センターのマネージャー、松田から思わぬ申し出を受けた。
彼はあれだけ反対していたのにどうしたということだ。

「えっ!ちょっと、どういうこと?というか、ありがとうございます。」

「一昨日の夕方なんですけど、玄さんが腰をさすりながらやってきて、事情を話してくれました。まったく... 大事なことなんだから先に話してくださいよ。」

松田は呆れ顔をしながらも、優しさに包まれた笑顔を登に向けた。

新規事業というのは、単にアクションを起こせば良いだけではない。人間の調整や共有そして共感、資金調達と既存事業との区分など、円滑に進めるのはとても難しいコトに今さらながら大いに気付く。既存社員の無関心がこれほどだったとは思いもしなかった、社の代表として社員への配慮と人間力の欠如を痛感した。

今回は黒岩が気を聞かせ、社員の敵意ある感情を取り払ってくれた。そして自社しいては自らにも関わるコトだと、関心を持たせてくれた。恐らく腰をさすっていたのは、大げさな演技で彼なりの演出だろう。無関心には、泣き叫んでようやく意識してもらえることを知っていたのだろう。やはり、何かを始める時には、それが公になっているのであれば内外にしっかりと説明し発信しなくてはいけない。

そもそもこのような状況になってしまった原因は、栽培経験不足からなる問題課題の発見力が劣っていたこと、それによる不安や焦りからの非論理的な言動。そして、その発見の要素となる栽培データや環境測定記録の活用の仕方が分からない状態であったことと言えるであろう。

「なんのための記録なんだ!」

少々の自己嫌悪と闘いながら、今後の糧とするために反省と共にデータの活用の仕方もしっかり考えなくてはならない。

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2020年3月1日
斉藤明子に松田の奥様も参加してくれ、なんとか花吊り作業を終えることができた。

「松田さん、ホント助かりました!」

登は心から感謝の言葉を発した。

「いえいえ、楽しかったですよ。脚立の乗り降りは結構な運動になるので、中年太りの旦那にもやらせたかったわ .. 笑」

「確かに!マツのあの腹は、農作業をやらせたほうがイイな .. 笑」

「そうそう、玄さん旦那に言ってくださいよ。ワタシが言っても全然聞かないから~」

「そうだな、マツには夏の収穫時に大いに汗をかいてもらおう!.. 笑。さあ、いよいよ3月3日には蜜蜂たちを放つぞ。社長、ここからは私も経験しているので任せてください。」

「こりゃ頼もしい。玄さん頼りにしています。」

「あっ社長!今、みさっぺからLINEがきました。『3月10日頃から行けそうだよ、GOGO!!』と言ってます。」

「おっ斉藤さん、ありがとう!そうか。望月さん待っているよ!と返しおいて。」

#19に続く。


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