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雲の中のマンゴー|#20 初収穫の雄叫び

この物語は、自動車部品メーカーを営む中小企業の若き経営者「沢村 登」が様々な問題に直面しながら、企業グループの新しい未来づくりを模索し新事業に挑戦する「実話を軸にしたフィクション」ストーリーである。

Novel model Mango Kawamura
Author Toshikazu Goto

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第20話 「第3章~その8~」

2020年5月24日(日)am7:30

「1. 2. 3. 4. ・・・・・・・・12. 13. 14。あ、あれもか!15. 16。」

誰もいないハウスにひとり、登は数を数えている。そう、枝から自然落下してネットに包まれているマンゴーをだ。

「フフフフフフフフフ ww ~♪」

誰もいないのに、自然とほくそ笑んでしまう。

格別の想いが込み上げてくる。なんだろうこの喜びは。会社の将来を憂い、新規事業として挑戦したマンゴー栽培であるが、その大儀など忘れてしまうくらい、この瞬間がたまらなく嬉しい。花が咲かない、咲いても結実しない、実がなっても大きくならない、大量の虫発生などなど、結局収穫できそうな量は、当初の見込みの3分の1程度になってしまった。しかし、今はとても満足している。

「社長、おはようございます。」

「あ、望月さん、おはようございます。」

「なに、ニヤついてるんですか?」

望月美佐子は気味悪げに登を見る。

「つい、嬉しくてね!農業1年生の僕が言うのも可笑しいけど、農業やっていて一番嬉しいと思えるのは収穫の時なのかもしれないね。」

「フフッw!じゃあ、今年の初収穫は社長にお任せします。わたしはその間にSNS用の撮影をしますから、よろしくお願いしま~す。」

望月美佐子は、3月に合流してから直ぐに農場のSNSページを立ち上げた。受粉の様子から玉吊りなどの作業風景にハウスの外観などをSNSに投稿し、自ら ”広報担当のミサッペ” と名乗りファン数を増やす取り組みをしてきた。

「社長、初収穫の写真を撮りましょう!ひとつネットから取り出して持ってください。」

「ほい!これでいいかな?」

「そうそう、綺麗にブルームに覆われてますね。追熟後が楽しみだわ。」

「だいたい3日後だね、楽しみだよ。斉藤さんも玄さんもその日はシフトに入っているから、みんなで初モノをいただこう!」

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5月27日(水)

3日前に収穫したマンゴーは綺麗に追熟していた。収穫時はブルームに覆われていたマンゴーも表面がツヤツヤで赤みが深く輝いている。

「玄さん、糖度はどう?」

「株式会社オリジン。5月24日初収穫のアーウィン520g、糖度17.7度です!」

「おいおい、なんなのその言い方?」

「社長!お静かに!今ミサッペがSNS用の動画撮っているんですよ。」

「あっ、そうかゴメンゴメン!斉藤さん、ひとつカットしてくれるかな。あの花咲きカットっていう切り方で。」

「だから社長!静かにしてくださいってば!」

「..... ごめんなさい.. ボソボソ」

「シーっ! .. はい、では切りましょうか。.. ボソボソ」

斉藤明子によって、綺麗にさいの目カットされたアーウィンは、背中を押されて花が咲くように果実を開いている。いよいよ初モノを試食する時だ。

「さあ、食べよう!」

登は、ひとつまみ口に含んだ。瞬間、爽やかな香りが口の中に広がり、そこから濃厚な甘さが脳まで達した。

「あの時と一緒だ!」

登は口ずさんだ。そして慌てて事務所の出入り口に走った。

「社長、あれ?どうしたんですか!」

と斉藤明子は叫んだが、登は振り返ることなく出ていった。

「どうしたの??」

望月美佐子が斉藤明子に話しかける。

「え、分からない!一口食べて出て行っちゃった、大丈夫かしら。」


そして数分後

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

ハウスのほうから怒涛の雄叫びが聞こえた。

「なになに!なんなの!?」

「ありゃ、相当嬉しいんだろうな!ww」

「ええっ!3日前に、収穫の時が一番嬉しいとか言ってたけどね!爆笑」

「よし!みんな販売の準備をしよう。斉藤さんは直売所の備品の仕上げを頼む。ミサッペは集客だ、SNSでの告知よろしく!」


#21に続く。


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