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雲の中のマンゴー|#21 グランドOPEN

この物語は、自動車部品メーカーを営む中小企業の若き経営者「沢村 登」が様々な問題に直面しながら、企業グループの新しい未来づくりを模索し新事業に挑戦する「実話を軸にしたフィクション」ストーリーである。

Novel model Mango Kawamura
Author Toshikazu Goto

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第21話 「第4章~その1~」

5月の初収穫からグランドOPENまでは、収量の様子をみつつ、物流シェアサービスの「やさいバス(株)・地域洋菓子店や料理店など」業務用利用のハウス見学希望者などを限定にプレオープンとして対応をしてきた。

特に初収穫から1週間の収量が少ない時期は、収穫したものを登が自ら購入し(株)サワムラの社員と登の一族に試食用として配った。実姉からは

「元気のなかった娘が、美味しい美味しいと言ってくれ元気になったよ。そして、登と一緒に食べた時を思い出したよ。いつもありがとう!」

と嬉しい連絡をもらった。実弟からは

「兄貴達が一生懸命に手をかけて作ったのを見てるからか、これまで食べたマンゴーより美味しかったよ。あの時のように、みんな笑顔になったよ。」

とのメッセージをもらった。2人とも、あの時にお袋が出してくれたマンゴーを思い出したようだ。覚えているもんなんだなぁ。

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2020年6月15日 AM10:10

ドキドキの直売所グランドOPENから10分が経過。が、なかなかお客様がこない。駐車場やハウス周辺で迷っている人がいないかとウロウロするが、人影は見えない。

「ねぇ望月さん、SNSでの告知はしてくれているよね?どうして来ないんだろう?」

「はい、毎日投稿して告知してますよ!今朝も一緒にアップしたじゃないですか。」

そうだよなぁ...。そして40分後。

重苦しい空気が直売所内を支配していたその時、白いセダンが駐車場に車を停めた。助手席のドアが開き、ご高齢の夫人があたりを見渡す。その一部始終を窓の隙間からのぞき見するメンバー達。

「きた!」

望月美佐子は両こぶしを握り、腕を折り交互に上下させ浮足立つ。。
運転席から白髪の長身の男性が降りてきた。ご夫婦と思われる二人が直売所に向かってくる。ガラガラガラッ、と引き戸の音。

「こんにちは、マンゴーはこちらですよね。」

ご婦人の第一声。

「いらっしゃませ。はい、ここです!」

斉藤明子の冷静な受け答え。

「娘に頼まれてね。どうしてもマンゴーが食べたいって言うもので。」

「おい、お母さん。自分が食べたいって先に言ってたじゃないか...笑」

「ちょっと、いいじゃない。しかし富士岡でマンゴーができるなんて凄いですね!」

「ありがとうございます。こちらのハウスでは、全部で11種類のマンゴーを栽培しています。今の時期は、ご存じの方も多いアーウィンという品種が収穫できています。」

最初のお客様の来訪に嬉しさを隠せず、たまらず登も声をかけた。

「11種類とは凄いね。お母さん。」

「あら、そしたら今年は11種類食べようかしらね、ホホッホ!」

それから半月、7月に入り収量も増え毎日の収穫タイミングと販売の連動が難しくなってきた。直売所だけの販売では日々の収量をさばくのに限界を感じ、プレオープンの時にハウス見学に来てくれた事業者とタイアップ販売も実施した。例えば、

「藤枝パークインホテル」では、ホテル内のレストラン《コモレビ》にて、マンゴーを使ったデザートを提供していただいた。
https://www.f-parkin.com/

藤枝のストレッチ専門店「A-style」では、週末の移動販売に誘客に協力をいただいた。
https://www.a-style.life/

静岡の総合宝飾店「LUCIR-K:ルシルケイ」では、7月のダイアモンドフェアでふじえだ完熟マンゴーをお客様に提供していただいた。
https://www.lucir-k.com/

オンライン体験を通して、その土地の暮らしと食文化を提供する「キッチハイク」では、《ふるさと食体験イベント》でマンゴーを全国にご紹介いただいた。
https://kitchhike.com/

藤枝の「蔵cafe &dining coconomi」では、アーウィンを使った限定フルーツサンドのコラボ販売を定期的に実施させていただいた。https://www.instagram.com/cafe_dining_coconomi/

それぞれの事業者の皆さんから、特色あるタイアップ企画を提供いただき直売所への来店増にもつながった。そして収量が多い7月をなんとか乗り切った。がしかし、色々と詰め込みすぎて皆疲れていた。些細なコトのようにも思えたが、マニュアルというキーワードでメンバー間に小さな亀裂が走ることもあった。

7月終盤のある日、登は黒岩に問いかけた。

「玄さん、直売所のエアレジをやらなくなったんだって?」

「ああ、ミサッペですかそれ言ったの?あいつ余計なことを...」

機械いじりや細かい作業、仕組みづくりから計算まで、仕事品質の高い黒岩ではあるが、スマホやタブレットの扱いは苦手である。以外な弱点であった。マニュアル通りにやることが好きなので、直感的に操作する類のものにはまだ慣れない黒岩であった。

ある時、直売所のエアレジの操作に戸惑っている様子をみた望月美佐子が

「玄さんは、マニュアルがないとできなんだよねぇ...笑」

と軽いイジリを馬鹿にされたと捉えた事があり、それ以来エアレジ操作を嫌がるようになったようだ。もとは7月中旬の収穫タイミングでハウス内の温度調整がうまくいかず、多数のマンゴーを日焼けさせてダメにしてしまったことが起因になっている。自分の作ったマニュアル通りに収穫のタイミングを決めた黒岩玄に対し

「ちょっと玄さん、自然を相手にしているのよ。柔軟に変えていけばいいじゃないの、ダメなの?」

と、昨年の経験から少し早めに収穫を提案した望月美佐子。結果、数日後に日焼けさせてしまい、望月からさらに攻められるコトとなり、このマニュアル戦争の原因になっている。

その時、登は外出をしていて斉藤明子から二人が喧々諤々している知らせを聞き、(株)サワムラの用事が終わり次第ハウスに駆け付けた。

「まぁまぁ二人とも!これも経験だよ。確かに日焼けさせてしまったのは痛いよ、でももう起きてしまったことだし柔軟に考えようよ。スマート農業も含めて、俺ももっと勉強するから。」

登は二人に対して自分の責任であるとしてなんとかその場を収めた。


#22に続く。


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