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人が支配する宇宙⑤「宇宙の社会」

人が支配する宇宙⑤「宇宙の社会」

2100年代の世界において、地球外天体で人類が大規模に活動する最大の理由はおそらく資源採取であり、惑星防衛と科学調査その次である。人口爆発への対処なら地球の砂漠やツンドラを開発するほうが簡単だし、宇宙には人口が極端に少ないため様々な商品を売りつける市場にはなりにくい。真空や無重力が欲しいなら宇宙ステーションやスペースコロニーの方が適している。

資源採取を目的とした開発は、必要な技術力の高さと採算性確保から大規模な資本投下が求められ、資源メジャーによる独占開発に陥りやすい。火星はその地表にある資源を宇宙に持ち上げるためにオービタルリングなどの建設が必須であり、小惑星資源にしてもケレス開発などによる推進剤供給環境の構築や場合によっては現地精錬施設の建設などが必要である。

こういった大規模投資はその戦略性から国家の紐付きになりやすく、宇宙由来の戦略資源の安定確保に成功した国と失敗した国が発生してしまう。安定した資源確保ルートのない国でも、平時であれば貿易により多少割高でも資源入手は可能だが、問題なのは世界恐慌などにより自由な貿易ができなくなった時である。

経済制裁や世界恐慌からくる保護貿易などの理由により、資源を確保できた陣営と失敗した陣営が発生してしまう。すると失敗した側の陣営で暮らす住民には不満が増大し、それが政治運動と結びつくことで資源供給源の確保や奪取を目指す拡張主義的な政策となる。また資源不足を由来とする拡張主義は、いわゆる全体主義的な計画経済や情報統制を良しとする方向へ成長しやすいように思える。

現在の地球では、世界大戦の反省や生産能力増大と世界的流通網の整備から、国家と国民ぐるみでの絶望的な対立はこと先進国間においては減少傾向にあるように見える。だが地球との物理的距離により物質的にも情報的にも孤立し、過酷な宇宙環境で様々な資源不足に苦しむであろう宇宙植民地は搾取する側である地球と良い関係を維持できるのだろうか。

通常、資源採取地など遠隔地では拠点の配属メンバーを定期的に入れ替えるなどして反乱を防ぐが、ある程度豊かになると自立と現地定住が進み世代交代が発生するなど生活の場になるとこれも難しくなる。そして過酷な環境で生活していると思っている宇宙居住者に対して倒すべき敵を示す指導者が現れ、それが閉鎖環境内で圧倒的な情報処理能力を持つ高度AIと結びつくと外部から反乱を食い止めることは難しくなる。特に、自分の人格をデータ化した、いわゆるオーバーマンがスペースコロニー内の計算能力を独占すると、AI神権国家などに発展してより深刻な問題になる。


参考文献

・独占資本(世界史の窓) http://www.y-history.net/appendix/wh1401-007.html

・帝国主義(世界史の窓) http://www.y-history.net/appendix/wh1401-016.html

・植民地:帝国主義時代(世界史の窓) http://www.y-history.net/appendix/wh0901-054_0.html#wh1401-013

・金本位制(世界史の窓) http://www.y-history.net/appendix/wh1504-016_2.html

・世界恐慌(世界史の窓) http://www.y-history.net/appendix/wh1504-001.html

・ブロック経済(世界史の窓) http://www.y-history.net/appendix/wh1504-026.html

・第22回ヨーロッパの主権国家(NHK高校講座) https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/sekaishi/archive/resume022.html

・第24回アメリカ合衆国の独立とフランス革命(NHK高校講座) https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/sekaishi/archive/resume024.html

・国家の独立(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E3%81%AE%E7%8B%AC%E7%AB%8B

・長期隔離実験で、火星移住には地球への反乱リスクがあることが判明(ニューズウィーク日本版) https://president.jp/articles/-/53178

・アナログハック・オープンリソース:宇宙利用-地球圏 https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/35.html

・アナログハック・オープンリソース:宇宙利用-地球圏以遠 https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/40.html

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