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【短編小説】6.こえのぬし【その角を通り越して。】

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僕は立ち上がり、鏡に触れた。

期待は裏切られ、鏡の中にある扉に触れることは出来なかった。
後ろで灯してあるろうそくの明かりに囲まれるように、
扉は鏡の中に映っている。
とても綺麗だ。

ゆらゆらと、揺らめく炎を鏡越しに見つめてどのくらい経ったろうか。

ふと、なにかの気配がして僕は後ろを振り返った。

「あんたの願いは叶った。さあ、これからどうする?」

僕は驚いて肩を震わせた。
振り返った後ろはいつもの本棚だ。

「お前もこっちの世界に来て、ばあさんの手伝いでもするか?」

また聞こえた。
声はどこから聞こえるのか…部屋を見渡す。

と。
薄暗い本棚の上で何かが動いた。

それはまるで、本物の人のようだった。

疲れた人が、小さなおじさんが見えた…と言っているのを聞いた事がある。
今、僕の前に浮かんでいるのは小さな少年で、
悪魔のような漆黒の翼をまとっていた。

燕尾服のような衣装を着て、
少し長めの前髪の間から僕を見下ろしている。

金色の髪に白い肌。
何だこれは…

「小さいおっさんと一緒にしないでくれますか。
 驚いて声も出ないか。これだから新しい人材の確保は面倒だ」

そう言いながら金髪の小人は宙を飛び、
僕の顔ギリギリまで近寄ってきた。

笑みを浮かべた口元には小さな牙があるように見える。



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