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事例研究 適正な不動産取引に向けて⑪

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「事例研究 適正な不動産取引に向けて」。
(一財)不動産適正取引推進機構が、実際にあった不動産トラブル事例を紹介しながら、実務上の注意点を解説する人気コーナー。今回は『月刊不動産流通2019年11月号』より、「不当な勧誘を受けて不動産を購入したとする買主が、売主事業者らと媒介事業者らに求めた損害賠償請求」を掲載します。

★不当な勧誘を受けて不動産を購入したとする買主が、売主事業者らと媒介事業者らに求めた損害賠償請求

 宅建事業者から不動産を購入した買主が、負担なく利益が確実に得られるかのような勧誘を受け、その結果多額の債務を負わされたなどとして、売主である宅建事業者とその代表者および従業員、ならびに媒介事業者とその代表者に対して、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、売主とその代表者および従業員に対する請求がほぼ認められ、媒介業者とその代表者に対する請求は棄却された事例 (東京地裁 平成29年11月20日判決 ウエ ストロー・ジャパン)。

1、事案の概要

 Xは、平成3年生まれであり、高校中退後アルバイトをしている。Y2
は、宅建事業者Y1の代表者であり、Y3はY1の従業員である。Y4は宅建事業者であり、Y5はその代表者である。

 本件不動産は、平成24年11月29日当時、登記簿上Aが所有者で、 Aが同 日、Y1に1830万円で売り、さらにY1がXに2910万円で売却した(本件契約)。Y4は、本件契約について、媒介事業者として関与した。

 Xは、購入に際してC信用組合から2900万円の住宅ローン貸付けを受け、Bが連帯保証人となった。

 Cは、本件住宅ローン債務の支払いが滞ったことから、競売手続を申し立て、本件不動産の所有権は担保不動産競売により第三者に移転した。

 Cは、配当金を受領しても全ての債務の弁済が受けられなかったため、訴訟を提起したところ、平成28年3月、Bが200万円をCに支払ったことにより、Cはその余の支払義務を免除し、XはCに対し、残元本655万円余を分
割で支払うこと等でCと和解した。

 X は、「 Y3は X に 対 し、負担なく利益が確実に得られるかのような断定的判断の提供をし、多額の債務を負わせた」などと主張して、Y1~Y5に対して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、940万円余等の支払いを求めて提訴した。

2、判決の要旨

 裁判所は次のように判示し、XのY1、Y2およびY3に対する請求を一部認容した。

(1)認定事実を総合すると、「Y3から、本件不動産を転売し、数百万円のもうけが出たときにその一部の分け前を与えるから本件不動産を購入するよう
勧誘された」などとするXの供述は採用することができる。

 Y3の勧誘態様に加え、Y1において何らのリスクもないまま確定的に利益を取得し、また、かかるスキーム実現のために報酬を支払うと騙して、Bを保証人にさせるなどして、Xに本件契約を締結させたY3の行為は、社会通念上逸脱した不法行為に当たるというのが相当である。

 Y3は、Y1の従業員であり、Xに本件契約を締結するよう勧誘したのはY1の事業として行なったものであると認めることができる。そうすると、Y1は、Y3の上記行為について使用者責任を負う。Y2は、Y3と共謀して、Y3が投資に関する知識等の乏しい人物を勧誘して投資名目で不動産を購入させていることが認められることに照らせば、Y2は、Y3と意を通じて、Xに対する不法行為に及び、売買金額の差異から諸費用を控除した利益をY1に帰属させたものというのが相当である。(2)Xは、Y4が本件不動産に係る話をY3に持ちかけているという事実などから、Y4はY3の行為の使用者責任を根拠として、責任を負うべきであると主張するが、Y4がY3に対して指揮監督関係があると認めるに足りる的確な証拠はない。また、Y3による不当な勧誘によるXの本件契約の締結について、Y5とY3の間の共謀があったと認めることはできず、Y5がY4の代表者として任務を懈怠し、また、かかる懈怠に悪意または重過失があるということもできない。

(3)Xは、Cとの間の和解手続きによって655万円余の債務負担を確認し、その分割支払いを継続している。またBは、本件住宅ローン債務の保証人として、Cに200万円を支払ったものであるから、主債務者であるXに対し、求償権を取得したものであるところ、Xは、かかる債務負担を余儀なくされたことについて同額の損害を負っているといえる。以上 の 合 計 額 は855万円余となり、その約8%である68万円をもって、Xの弁護士費用というのが相当である。これらを加算すると、合計923万円余となる。

3、まとめ

 投資用物件への強引な勧誘については、従来から行政機関等により注意が呼びかけられており、平成31年3月には、国民生活センターから、20歳代に対する投資用マンションの強引な勧誘の増加について、注意喚起が行なわれている。また、不動産事業者らの勧誘により、若者が本来投資用なのに居住用と偽って、住宅ローンを不正に利用したとする事案の報道もある。

 消費者においては、このような投資用マンション等の強引な勧誘に対して、改めて特段の注意を払うとともに、宅建事業者においても、当然ながら、社会通念を逸脱した不法行為は厳に慎むことが不可欠である。

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