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ファーストデートの思ひ出

CHOT FRESINO

 これは僕の恋愛に関する話だ(©︎「GO」金城一紀)
まず、”ファーストデート"というと、一般的には"初めての恋人との、
最初のデート"のことを指す
のではないかと思う。
 しかし、僕は今回このファーストデートを拡大解釈して、恋人との初めてのデートはもちろん、片想い(いい感じ)の人との付き合う前の初めてのデートも"ファーストデート"に含めたい。
つまり、この話は”彼女との初デートの話”ではなく、”片想いの女性との初めてのデート”の話だ。

 当時の僕は23歳で、大学を卒業して地元で就職し、社会人一年目で社会の荒波に揉まれつつも、少しづつ仕事に慣れてきた頃。
せっかく地元に帰ってきたし、中学の友達と遊びたいなと思い立ち、中学の時塾が一緒で仲が良かった6人(男4人、女2人)一人一人に連絡をしたのだ。

 その中の一人は、僕が中学3年の時にずっと片想いしていた人だった。
だから、彼女にLINEをする時はただ、塾のメンバーみんなで集まろうという連絡をするだけなのに、当時の、見ているだけで何もできなかった甘酸っぱい青春を思い出し、ものすごく緊張した。
 ただ、集まるのはいつなら都合がいいか聞くだけなのに…。

 彼女は、中学で一、二を争う程人気で、競争相手も多かった。
所謂マドンナで、塾メンバーの男4人のうち、僕も含め2人もその子のことが好きだったくらいだ。
ヘタレな僕は、好意を伝えることはもちろん、なんのアプローチもできなかった。
しかし、少し天然で、屈託のない笑顔でよく笑い、笑うと目がなくなる、そんな彼女がただただ好きだった。

思いの外LINEが盛り上がり何日かやりとりが続いた。
そんな時、その子が最近彼氏と別れたことを人伝てに聞いた。
僕は、心がわりの相手は僕に決めなよ(©︎今夜はブギーバック)と思った。
アタックチャンス到来だ。

 早速映画に誘った。中学生の頃の俺じゃない。
オーケーの返事をもらい、映画に行くことになった。
誰しも経験があると思うが、上手くいくときはトントン拍子にコトが進む。

 デート当日。梅雨だったがその日は鬱陶しい梅雨前線を恋する僕の桜吹雪前線で吹っ飛ばしてやりましたので快晴だった。
彼女は、美容院の予約があるため、昼過ぎに会うことになった。
 僕は車で待ち合わせ場所に向かい、美容院近くに車を停め、彼女を待った。

 彼女に会うのは、成人式ぶりだったし、何より2人で遊ぶのは初めてのことだったから、緊張のあまり、早く着きすぎてしまった。
早く着いたので、今日はどんな話しよ?とか、映画までどうやって時間潰そかな?服装はこれで良かったかな?とか考えていた。

コンコンッ…‼︎

突然、助手席側の窓ガラスを叩く音が車内に響いた。窓の外には彼女がいた。

「おまたせ!遅くなってごめんね!
久しぶりやね〜!」

 ドアを開け、屈託のない笑顔で笑いながら
彼女が助手席に座ってきた。

「ぜ、全然!今来たとこやし!マジでマジで!
久しぶり!髪明るくしたんや!いい感じやん!」

 無理に明るい調子で返事をした。
本当は20分も前から彼女を待っていたし、心の準備をする時間は十分あったのに
不意を突かれてペースを乱されてしまった。

 僕は車を走らせ、大阪市内の映画館が併設してあるショッピングモールへ向かった。

 目的の映画は夕方の上映だった。
それまで2時間ほど時間があったので、ウィンドーショッピングしてから、パンケーキ屋さんに入った。
パンケーキ屋さんでは、頼んだパンケーキが思ったよりずっと、大きくて、その大きさに2人して笑い合った。(ピザハットのLサイズ、約31センチくらいあった。結構キツかったが、もちろん完食した。)
 落ち着いた場所で甘いものを食べて、緊張がほぐれたのか、お互いの近状報告や仕事の話なんかをした。
特に盛り上がったのは、中学時代の思い出話だ。



 彼女と急激に仲良くなったのは、中学3年の受験の時だった。
受験を控え、塾にいる時間が長くなり、自然と顔を合わせる機会が増えたのが理由だ。
気づけば、塾の自習室でいつも6人で一緒に勉強していた。
もともと僕は勉強が嫌いだったから、それまでは授業の始まるギリギリの時間に塾に行き、終わるとすぐに帰宅していた。
でも、6人でいるようになってからは、授業の前や、授業が終わってから、授業のない日も自習室で一緒に勉強するようになった。

 勉強というと聞こえはいいが、実際のところそれは勉強と呼べるものではなく、"遊び"だった。
その証拠に、騒がしくし過ぎて自習室を1ヶ月出禁に何回もなってしまった。
出禁になった1ヶ月間は空き教室を6人で借りて、その教室で自習したり、遊んだりしていた。
 ヘタレな僕は彼女と塾で一緒に遊んだり、勉強を教えれるだけで、それだけで満たされていた。

 高校受験は勉強がツライという思い出はなく、楽しかった思い出ばかりだ。
未だに6人で集まると楽しかったなーと皆で話すくらい。



 そんなことを思い出しながら、話ていると映画の上映時間の10分前になったので、足早に店をでて、映画館に向かった。

 映画は恋愛モノで狙い過ぎるのも嫌だったので、「22年目の告白」をチョイスした。
同監督作品の「SR サイタマノラッパー」を観てから、入江監督は少し気になっていたのも理由の一つだ。

 ポップコーンはペアセットを買った。
塩とキャラメルが半々のやつだ。
それだけで、単純な僕は本当のカップルみたいだなと一人で超絶ニヤけた。
 ポップコーンを渡してくれる店員さんの目がすごくイタかったから、相当キモいニヤけ方をしていたのは間違いない。

 鑑賞中、ちょくちょく過激なシーンがあり、その度に彼女は目を手で覆い、僕の肩に頭をもたせてきたり、肩に手を乗せてきたりした。え、そんな積極的な人やったっけ?そんなボディータッチする人やったっけ?と困惑しながらも、彼女に聞こえるんじゃないかってくらい、僕の心臓はバクバク鳴っていた。
 奥手な僕はそれだけでテンパってしまい、どうすることもできず、ただただポップコーンの箱を掘り進めた。

 映画は衝撃のラストですごく面白かった。
映画を観終わり、時刻は19時過ぎ。
解散するにはまだ少し早なーと思っていたが、パンケーキのせいでお互いお腹はまだいっぱいで、ご飯の気分ではなかったし、特に欲しいものもなかったので、とりあえず、車で一緒に地元に帰ることになった。

 Suchmos 「STAY TUNE」の歌詞を引用して言うならば、もう少し
Sexy な Mouth をほころばせて
Peace な話を聞かせて
Cool な視線で見つめて
一度だけ俺を試して

欲しい僕は、帰りの車内で

「もうちょっと喋りたいし、カフェ行けへん?」

と勇気を出して誘ってみた。

「え、行きたい!」

 彼女は100点満点の返答をしてくれた。
僕は地元で1番お洒落なカフェに車を走らせた。
カフェでは、たわいもない会話で笑い合い、その時間がどうしようもなく心地よく、愛おしい。
誰だってロケットがlockする特別な唇(©︎今夜はブギーバック)から紡がれる言葉にずっと耳を傾けていたかった。だが、楽しい時間はあっという間にすごい早さで過ぎていく。

 その日、彼女が車の窓をノックした時から、一緒にいる間中、中3の時に彼女に対して抱いていた好意がじわじわと僕の心をうめていき、カフェを出るころには、好意の気持ちは完全に息を吹き返し、僕は彼女のことをまた好きになっていた。

 彼女を家に送り、一人帰りの車内で、うるさいほどに高鳴る胸が柄にもなく竦む足が(©︎宇多田ヒカル 「初恋」)恋をしているんだと、実感させた。

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