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ほかほか、ふわふわのぼくの布団(完全版)

6月中旬、天気がだんだん暑くなる準備をしだすこの季節、我が家でも衣替えや布団の厚みを減らすプロジェクトが進められていた。毎年衣替えを経験してはいるが、やっぱり色々大変だ。洋服や布団を痛めないようにしてから、タンスにしまうものを厳選して収納していく。

 「あとは〜?これとこれかなぁ…。わ。流石にこれはもうサイズが合わないだろうな…。」そんなことを呟きながら作業を進めていると奥の別の部屋から、我が家に住んでいる可愛いもふもふ2匹が話をしていた。


 「いやぁ、今年も大変だったねぇ〜。なんか年々モフ毛が増えている気がするよ。そりゃ、毎日寝汗をかくわけだ〜。」

「そうですね〜♪私も例年通りのもふもふのモフ毛がとれました〜♪」

「マーガレットは毎年大変だね…その量のモフ毛を冬の間くっつけてるんだもんね。」

「でも、もう慣れました!毎年やってますから!まんじろうも慣れますよ〜♪」


 どうやら、毎年行なっている「換毛期」の話らしい。夏の前に冬毛から夏毛に変わって、冬になる前に夏毛から冬毛に変わるとのこと。去年初めてこの話を聞いたときは驚いたが、今では当たり前の光景だ。慣れってすごい。


 そんな私でもいまだに慣れない光景がある。それは生え変わったモフ毛を必ず持って帰ってくる二匹の様子。今年ももっこもこのモフ毛を袋に入れている。去年この光景をみて、このモフ毛をどうするのか聞いてみたいと思っているがなんとなく聞けない。もしかしたら、ぬいの触れてはいけない文化なのかもしれない。


 そんなことを思っていたら、後ろから可愛いもふもふが同時に声をかけてきた。

 「まま!」「ままさん!」さすが兄妹、タイミングバッチリだ。

 「どうしたの?何かあった?」さっきの聞きたい衝動を抑え、いつもどおりの声で聞き返した。

 「あのね!実は今日から1ヶ月くらい、お家を空ける時間が増えるかもしれないから、いなくなっても心配しないでね!」

 「そうなのね!わかったよ!まんじろう!教えてくれてありがとうね!マーガレットも同じかな?」

 「はい♪まんじろうについていくので、同じ感じです!」

 「じゃあ、気をつけるんだよ?二人とも〜」

 「はーーい!」これまた息ぴったりの返事が返ってきた。



 あれから、数日。私はずーっとそわそわしていた。聞こうか、聞くまいか。

好奇心が暴れないように抑えるのもなんだかんだ大変だ。すると、

 「まんじろう〜?モフ毛忘れてますよ〜。」「あっ。危なかったー。ありがとう〜」と、この間の袋に入ったもふもふのモフ毛を持って、お出かけする準備をしていた二人を見つけた。




 「お出かけに行くの〜?気をつけてね〜」と言うと、「行ってきまぁす」といつも通りの返事が返ってくる。本当に何も特別なことではないのだろう。そのままにしておこうか。だとしても、やっぱり自分のモフ毛を袋に入れて、どこかに持っていくなんて何かないとしないのではないだろうか。まるで、今日の授業で使う道具を持って行く子供のようじゃないか。だめだ、気になる。聞くしかない。



 その日の夜、可愛いもふもふに、晩ごはんの人参を手渡しした時に聞いてみた。

 「まんじろう。どうしても気になることがあって。聞いてもいいかな?」

 「うん!話せることならなんでも大丈夫だよ!まま、どうしたの?」

うるうるした黒くて丸い、大きな目がじっとこちらを見る。どうしよう。話せることならと言ってくれてはいるが、もしかしたら話せないことかもしれない。でも、自分から聞き出したことだから、しっかり聞かなくては。

 「実は、どうしても気になるんだ。その、可愛いもふもふのモフ毛をなぜ今日袋に入れてお出かけに持っていったのか。すごく気になるんだよ。教えてくれる??」勇気を出して聞いてみた。すると、

 「お布団を作るんだよ!!」元気よく、まんじろうが答えてくれた。「ぬいぐるみの世界では、換毛期付近になると抜けた自分のモフ毛を畑に植えるんだけど、そうするとお布団ができるんだよ!」続けて教えてくれた。



 「お布団が畑から生えてくるの?」私の頭は、少し混乱していた。ぬいぐるみの世界があるとは聞いていたが、想像以上のことがその世界で行われているみたいだ。まんじろうにもう少し聞いてみよう。

 「まんじろう。実は人間の世界では、お布団は畑から生えてくることがなくて想像するのがちょっと難しいんだ。もう少し詳しく教えてくれる?」すると、「それなら、お布団ソムリエの資格を持っているマーガレットに聞くといいよ!!詳しく、分かりやすく答えてくれるよ!」



 その日まんじろうに言われてマーガレットに聞きに行こうとお部屋を訪ねると、裁縫をしているマーガレットが待っていた。

 「まんじろうから、お話は聞いてます〜♪ぬいぐるみの世界のお布団作りの説明ですね♪任せてください〜」

 「うん。忙しそうなのに、ありがとう!嬉しいよ!」

 「いえいえ〜♪では、始めますね。」



 「まず、ままさん達が使っているお布団の作り方はご存知ですか?まず仕入れた綿の不純物を取り除き、綿を好みによって厳選します。そして機械で殺菌処理を施して安心安全なお布団の中を作ります。後は綿を薄く広げて、層をいくつか積み重ねることで中身が完成します。後は外の布を作って形を整えて、閉じていくんです。」

 「なるほど。」自分が使っているものだけれども、作り方までは気にしたことなかったな。さすが、布団ソムリエ。よく知っている。


 「そして、ぬいぐるみの世界でのお布団の作り方ですが、ままさん達が使っている布団と似たようにしてるんです。まずは、素材の綿になる部分ですがこれが私たちぬいぐるみの夏毛、冬毛です。つまり、夏に冬毛を畑に植えて冬用布団を作ります。夏用布団はその逆ですね。大体植えると1ヶ月で綿にあたる部分ができます。ちなみに、殺菌は太陽におまかせしてます。おかげでお日様のいい匂いです♪」

 なるほど、だから1ヶ月ぐらい家を空けることがあると言っていたのか。殺菌をお日様で行うとは賢いぬいぐるみがいたもんだ。そういえば、マーガレットが裁縫していた布、少しだけ布団の外側につける布に似ている。

 「マーガレットが縫っているその布、お布団の布?」

 「はい♪まんじろうのお布団に使うんです♪まんじろうが大好きな人参柄にしました〜♪冬用布団なので、モコモコの飾りもつけましょう〜♪」

マーガレットは楽しそうに縫っていく。今日、畑に植えに行ったのだとしたら、完成は7月16日くらいか。完成した布団を家に運び込む日が来るということだ。



 そうして、1ヶ月が経ちまんじろう、マーガレットの布団が出来上がった。予想通り7月16日に完成し、昼頃に二人が声をかけてきた。

 「まま!」「ままさん!」今日も変わらず、息ぴったりだ。振り返ると、完成した布団を抱えていた。モコモコの冬用の布団は二人が隠れるほどだ。

 「どうしたの?可愛い布団を持って。」

 「あのね。今日お布団が出来たんだけど、しまう場所を貸して欲しいんだ。いいかな?」二人分の布団は、モコモコではあるがぬいぐるみ用サイズ。特に場所をとることはない。

 「もちろん!じゃあちょっと借りるね。」そう言って二人の布団を抱き上げる。触れると、まるでまんじろう、マーガレットそのものの毛並みだった。

 「これすごいね。まるで二人を抱っこしたみたいだね。」そう言うと、「寝具にはやっぱりこだわらないとね!!」と二人が声をそろえて笑った。畑に布団は生えないが寝具にこだわるところは、ぬいぐるみも人も同じ。そう感じたのであった。


終わり


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