自分のことなのに、なぜ脅すようにいうのだろう。
#20240627-425
2024年6月27日(木)
習い事がある平日は、ノコ(娘小5)の入浴を手伝っている。
1人での入浴が定着してきたのに逆行するようでためらわれるが、小学5年生に進級したことで習い事の日数と時間帯が変更になった。高学年扱いになり、日数が増え、時間帯も遅くなったのだ。
学年が上がり、小学校の下校時刻が遅い日が増えたのだから当たり前かもしれないが、予想外だった。学年が上がるにつれて習い事にも1人で通えるようになるとばかり思っていたのに、時刻が遅いと心配になる。
どんどん手が離れると思っていたが、そうではなかった。
年齢が大きくなれば活動時間が遅くなり、気掛かりが増えるようだ。
ノコはパッと服を脱いで、サッと浴室に入らない。
浴室に向かったものの、「トイレ!」と戻ってきたり、洗面所で長々と踊っていたりする。だから、軽く湯を浴びて洗える状態になったら、給湯器リモコンにある通話ボタンを押して合図するよういってある。
「今日は、体は自分で洗うから。ママは髪だけ洗って!」
パジャマを手にくるりくるりと軽やかに回転しながら、ノコがいう。ここ数日、足首が痛いと訴えているが、日常生活を見る限り、常時痛むわけではないようだ。
「髪だけでいいの?」
くるくるくるりとノコは廊下を進んでいく。
「髪だけでいいー!」
「じゃあ、シャワー浴びたら、呼んでちょうだい」
返事の代わりに、浴室の折り戸が閉まる音が聞こえた。
ややして、華やかなメロディが流れ、私は下着姿で浴室に入る。
ノコの賑やかな――でも、主語やら状況説明を端折るのでわかりにくいお喋りに耳を傾けながら、ノコの髪を洗う。
「ママママ、ママママ、それでね、私が何回も『やめて』っていうのにさ、やめないんだよ」
「だれが?」
「だから、〇〇が!」
いや、今までの会話に〇〇という名前は一度も登場してないぞ。
「それで走ったから、早かったでしょ!」
「うーん、学校から帰ってきたときの話?」
「だから、そういったじゃん!」
いや、それも聞いていない。今は夜だ。学校も習い事もとうに終えている。そんな「ついさっき」の出来事のように喋られると戸惑ってしまう。
ノコの頭のなかではいったつもりなのだろうか。口に出ていないだけで。
「ねぇ、ママママ、ママママ。やっぱり体も洗って」
面倒くさくなったのだろうか、甘えたくなったのだろうか。ノコが前言撤回する。
そもそも体も洗うつもりだったのを断ったのはノコだ。その時点で、私の気分はラッキーと跳ねあがり、「髪さえ洗えば任務完了」になった。髪を洗ったのだから体を洗うのはその延長だといえば延長だが、跳ねた分、着地が沈む。
「ママは、まだお夕飯の後片付けとか明日の準備があります。体は自分で洗うっていったんだから、自分で洗ってちょーだい」
甘えさせてあげればいいものをついそう返してしまう。
途端、ノコがギロリと私を睨む。
「洗わなくていいっていうわけ!」
なぜ自分のことなのに脅すようなことをいうのだろう。「洗って洗って洗ってよ」と駄々をこねられるほうがまだよい。
ノコが体を洗わなくても、別に私は困らない。
「そうしたいなら、どうぞ。でも、臭くなるよ」
そういって私は浴室を出た。
大人げないかな、と後ろ髪を引かれながら。
シンクにある食器を食洗機に入れていく。
手を動かしながら、さきほどのノコの言葉を思い返す。
――なんで脅すようなことをいうんだろう。
その真意は何なのだろう。
――① ママにとって、大切な私が汚れたままでもいいの。だれかに汚いっていわれてもママは平気なの。私のことが大事なんだよね?
――② 親(大人)の仕事は子どものお世話なのに、それを果たさなくていいの。すべきことをしなくていいの。
施設育ちのノコは、「大人は全員子どもの世話をする存在だ」と思っているところがある。我が家に来て5年が過ぎたが、幼い頃に自分で見出した価値観はおいそれとなくならない。
②なのだろうか。いや、①?
それとも、そんな深いことは考えておらず、反射的に食ってかかっただけだろうか。
ノコにその真意を尋いてみたいが、億劫がられそうだ。
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