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自分が「できること/できないこと」を知る大切さ。~ドラマ「ケの日のケケケ」を観て~

#20240505-393

2024年5月5日(日)
 録画していたTVテレビドラマ「ケの日のケケケ」を観た。

 内容も知らず、第47回創作テレビドラマ大賞受賞作という番組紹介に興味がわき、録画しただけだった。もっといえば、創作テレビドラマ大賞もよく知らない。

 感覚過敏片瀬あまねが入学した高校で自分の居場所を作っていく物語だった。
 あまねは、自分の「できること/できないこと」をしっかり把握した上で、自分自身をご機嫌で過ごせるよう取り組む。
 感覚過敏といっても、みな同じではなく、個人差が大きい。
 周囲は――家族であっても理解し難く、たとえ何もない平常時は理解を示していても精神状態がよくないとつい「練習すれば治る」「努力しないのは怠惰だ」とあまねを責めてしまう。
 とてもよいドラマだったので、機会があれば観てほしいと思う。

 ドラマの感覚過敏が私にとっての「自動車の運転」と重なった。
 私は一応自動車の運転免許証を持っている。大学生の頃に取得した。自動車は憧れだったので、教習所通いは嬉しかった。
 だが、それは座学の学科教習のうちだけ。
 技能教習がはじまると、「できないこと」の壁にぶつかった。
 私は運動神経が鈍い。スポーツが苦手というレベルではなく、自分の体を自分の思うように動かしている感覚が希薄だ。自分の体さえも動かせないのだから、体の延長線上にある自動車を操作することはさらに困難だった。
 「ハンコは押してあげるけど、公道は乗らないほうがいいよ」
 何度も何度も技能教習に落ち、時間をオーバーした私に教習所の教官がいった。
 運転免許証は手に入れたものの、私の鈍さを知っている両親も教官の言葉に同意した。
 「高い身分証明書だと思いなさい。命のほうが大事よ

 自動車の免許証を持っていないといえば、厄介なことにならないのに根が正直者なのでつい「持っている」といってしまう。正直者というより、嘘をついていることを忘れてしまうような嘘はつきたくない。
 免許証があるのに運転しないというと、子育てに車は必須だの、免許証がないならともかく既にあるのなら車を持てばいいのにだのいわれてしまう。運転が苦手だと打ち明ければ、年配者でも運転している、慣れだから運転しないといつまで経ってもうまくならない、と続く。特に運転が怖かったが、努力してできるようになった人は「大丈夫よ」と口調が強い。
 「私だってできたんだから!」
 そういいたくなる気持ちはわかる。
 私自身も自分がクリアしたことに対しては、難易度が下がる。
 確かに努力せずに自分にはできないと決めつけてはいけない。回数を重ねて慣れることが重要だというのもわかる。いわれることがどれもわかり過ぎて、単に私の努力不足だと思えてくる。
 だが!
 忘れてはいけないのは、自動車の運転には命が関わる
 運転する私の命だけではない。
 同乗する人の命、道を行き交う人たちの命。たくさんの知っている人、知らない人の命。
 失敗を笑って済ませられない。
 私が公道を走れば、凶器になりかねないのだ。

 身体の操作性の問題だけではない。
 私はつい運転とは違うことを考えてしまう。キョロキョロとあちこちを見てしまう。運転に関係あるもの、ないもの、心かれれば目がすぐそれを追う。
 速度も問題となる。
 私の状況処理能力は自分の足でこぐ自転車が限界だ。自動車の速度になると判断が追いつかなくなる
 自転車でも子どもを乗せるために買った重い電動アシスト付き自転車ならともかく、ぐんとスピードが出るロードバイクとなると怪しい。路面の状況、体重の移動、周囲との距離、車、歩行者。それらを瞬時にとらえて、自分がどう動くべきか判断し、体に命じる。
 私の脳は、くるくると徒歩以上の負荷をかけられた状態で働き続ける。
 まさに目まぐるしい。
 見知らぬ公道をロードバイクで走った晩は、頭がなかなか静まらない。
 興奮したままベッドに入ると、大抵うなされる
 「はっちゃん、はっちゃん、どうした? 怖い夢でも見た?」
 むーくん(夫)に起こされて、寝床だと気付く。
 「……自転車乗ってた」
 「夢のなかでもまだ頑張ってるんだねぇ」
 頭をなでられ、眠りに落ちる。
 自転車でこうなのだ。自動車を運転したら、その負荷に耐えられそうもない。

 自分に「できること/できないこと」を把握するのは、生きていく上で大切なことだ。
 ときに限界に迫る頑張りが必要なときもあるが、それで自分を壊してはいけない。
 私ができないことを負い目に思うことはないし、できないことでもできる範囲内で歩み寄ればいい
 ドラマのエンディングは、そんな私の頬が思わずゆるむものだった。


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