5回目の夏休みを児相に報告する。
#20240722-438
2024年7月22日(月)夏休み3日目
今日は里子であるノコ(娘小5)のため、児童相談所へ向かう。
夏休みなので、早めの時刻にセッティングしてもらった。
ここ連日、焼けるような炎天下が続いている。できるだけ、外を歩く距離が短く済むコースを選ぶ。バス、電車、またバス。これで児相のすぐ近くまで行けるが、片道1時間半かかる。
屋外は短い距離でも日傘をさして歩く。
くっきりとした影が2つ足元に落ちる。
「暑い~~」
私が嘆けば、ノコも続く。
「暑い、暑い、暑い~~」
ノコが児童心理司さんと遊戯療法のあいだ、私は担当のケースワーカーさんと面談をする。
1学期の通知表の内容、夏休みの予定、まだ3日目だがノコが夏休みをどう過ごしているか。
この夏休み、宿題は紙のプリントや問題集ではなく、タブレットになった。
画面を見せてくれないので、進捗はノコの申告を信じるしかない。社会、理科は着々と終わらせているが、国語と算数がなかなか進んでいない。
タブレットを手にソファーに寝そべっている。
「ああああああ! またヘンになった!」
仰向けになってやっているので、タブレットの重さに手が耐えられないのだろう。画面に手が触れると線がタッチペンの先までビュッと伸びる。
書いていた計算式には大きく斜線が引かれ、漢字はいびつな形になる。
「もー! なんで勝手にこうなっちゃうわけ!」
タブレットに向かってノコは怒りまくる。
「寝そべってやってるからよ。姿勢よくやれば、そんなことになりません」
ノコがギロリと睨む。
「わけわかんないし」
「タブレット相手に怒ってますけど」
私はノコの様子をケースワーカーさんに話しながら、苦笑いする。
「ママママ、ママママ、集中する音楽かけていい?」
ノコがいう音楽は、私が時折PC作業中に使うYouTubeのことだろうか。集中できる環境音を25分流した後、5分休憩というサイクルを繰り返す「ポモドーロタイマー」の動画だ。タブレットを立ち上げ、YouTubeを開き、検索して、いくつもあるなかからどれにするか選ぶ。その手間と時間を考えると、「さっさとやっちゃいなさい」といいたくなるが、それはいわない。
「いいわよ」
私がそう返すと、ノコはタブレットではなく、CDプレイヤーの前に立った。
YouTubeでなかったのか!
そして、賑やかな音楽がスピーカーから流れだした。
元素記号にはじまり、アメリカ50州の州名、ロックンロール調の九九、戦国武将の氏名と歌で学べるCDをノコが小学校低学年の頃に購入した。
歌うことが好きなノコだ。今後、知っていたら役に立つであろうことを楽しみながら自然に覚えられたらと思った。だから、ノコがこのCDを聞くことは嬉しい。
それでも、限度がある。
延々と、延々と。3時間、4時間とリピート再生されると眩暈がしてくる。
しかも、歌い、体を揺らしながらの宿題は、きちんと書けているのだろうか。問題は解けているのだろうか。果たして「集中する音楽」になっているのだろうか。
ケースワーカーさんが尋ねる。
「ノコちゃんと5回目の夏休みですよね。委託直後より楽になった点ってありますか」
思わず、私は吹き出してしまう。
「相変わらず、うるさいです。これはちっとも変わりません。むしろ体が大きくなっている分、増している気がします」
私はノコの姿を思い浮かべる。
「歌って、踊って、意味もなく飛んで跳ねてズリッと滑っては『痛い』と騒いで。食べてても、宿題してても、歯を磨いてても。いつも体が揺れています。視界のなかで常に動いていて……」
もうダメ、我慢できない。声を出して笑ってしまう。
「存在自体がうるさいです!」
児相を出た途端、ノコがいう。
「ママ、ねぇ、アイス食べたい」
あぁ、それはママも食べたい。
もう暑くてやってられない。家に帰るまでに糖分とヒンヤリを摂取したい。そうじゃなきゃ、たどりつけない。
途中にあるマクドナルドに駆け込み、期間限定の「オレオクッキー チョコミントフラッペ」を2つ注文する。
この寄り道がのちのち、大変なことになるとは、このときのノコと私は知らない。
――数分後。本当に数分後。
まさにバケツをひっくり返したような豪雨がダバダバと降り、黒い空を稲妻が続けざまに走った。
あははは。
やっちまったぁ。
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