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障がいと共に生きるアーティスト達とそこにある世界を発信するフリーペーパーHugs 2023年冬号 vol.7

「Hug」という言葉には、“愛情をもって抱きしめる” “こだわりを守り続ける” “自分自身を幸運だと思う” などの意味があります。フリーペーパーHugsは、障がいと共に生きながら創作や表現活動をしている方々や施設を取材し、その活動の様子や日々の思い、そこから広がる豊かな世界を伝えていくことを目的にしています。

吉岡さつき〈パートナーⅠ〉(左)、〈パートナーⅡ〉(右)2022©️SOI STANCE
Hugs 2023年冬号 vol.7 メインビジュアル使用作品

寄り添いながら、個性を生かす

各々の人に寄り添ったリハビリテーションプログラムを中心に組み立て支援活動を展開してきた「SOI STANCE」。カフェや駄菓子屋の運営と同じようにアート活動も大切な事業のひとつと捉えています。その想いやこれからのことについて所長の鎌田亜希さんを訪ねました。

SOI STANCE所長・鎌田亜希さん

-作業療法士としてSOI STANCEを立上げられた鎌田さんが、設立当初からアートにも力を入れようとした背景を教えてください。

鎌田:学生時代はリハビリテーション(以下、リハビリ)の専門学校で学んだのですが、それ以前に実は私自身が何かをつくったり絵を描いたりするのが好きということもあって、美大に行きたいと考えていた時期があったんです。でも良くある話ですが、親には資格を持った方がいいと言われて(笑)
作業療法には様々なアクティビティがあり、例えば陶芸や油絵などものをつくる工程が手やさまざまな身体機能のリハビリも兼ねるということもあって、専門学校の授業にも入っていたんです。10年以上のリハビリの現場経験を経た今のタイミングなら、アート活動を通じてリハビリを促すっていう場を提供できるかもしれないと思い、もともと興味のあったアートにいま向き合えているという感じなんです。

-作業をしながら体をほぐしていくとか、できなかったことができていくという作業療法の中に、創作やアートは位置づけられているのですね。

鎌田:感覚や触覚、指で触って圧迫するとか、そういう医学的なことも絡めて感覚を体に入力していくことは大事なんです。人によっては空間処理が苦手で、入ってくる刺激、例えば、つるつるとざらざらの違いや押した時の跳ね返りが分からないということもあります。筆圧が濃くなり過ぎで疲れてしまって字が書きたくなくなるということにも繋がっていく。なので、リハビリでもそうした創作活動を取り入れることは良くやるんですね。

-活動を拝見すると、いわゆる作業というよりは、それぞれの方が主体的に考えて自分のやりたいことに真摯に取り組んでおられます。内容はそれぞれの方とコミュニケーションしながら決めていくのでしょうか。

鎌田:基本的に主要メンバーはご自身の好きなものを、花倉要さんならウサギ・亀・ペンギン・花などを、木村二三雄さんは女の子の絵を水彩の淡い色使いで描いて、それぞれに特徴があります。吉岡さつきさんのように、最初からうちがアート活動をしていることを知ってそれを目指して来られる方もいます。この12月で活動を立ち上げてから5年目になりますが、平日は軽作業などに取り組み、土曜日にアート活動ができる体制にして、アート活動もそれぞれの方の仕事になるように制度を整えてきました。

花倉要〈うさぎとかめ〉2023年
動物や花を好んで描く花倉さん。昔話の「うさぎとかめ」から着想した作品で、亀だけでなくウサギにも勝ってほしいという想いから、同時にゴールする様子を描いた
主として女の子をモチーフに、テーマ性のある作品に取り組む木村二三雄さん。水彩絵の具を用いた細やかな表現や言葉遊びも取り入れた作品を好む
様々な表現手法を積極的に取り入れてきた吉岡さつきさんが、ロックやクラシックなどの音楽を聴きながらこんこんと湧きだす創作アイディアを即興的に表現した作品。同シリーズのキャラクターは縫いぐるみの立体作品にもなっている
(下図のみ 写真提供:鎌田亜希)
様々な色を黒い画面上に散らばせてそのリズミカルな動きを楽しみながら制作

-活動で生み出された作品はどのように扱っているのですか?

鎌田:年1回の主催の展覧会に出品したり公募展に出したりしているほか、SUZURI(https://suzuri.jp/SOI_STANCE)というネットショップサービスを使って、吉岡さんのイラスト等を用いたグッズを販売しています。

-SUZURIで販売している冷奴のタンブラーはビールが進みそうですね!

鎌田:最近はアート活動のみのインスタグラムも開設しました。カフェのフォロワーに比べるとまだまだなんですが、日々の活動の様子とか、作品のことと、販売しているグッズについて載せはじめました。

-インスタに掲載されている山本美和さんによる文字も素敵です。

鎌田:山本さんが描いた「あいうえお」ですね。山本さんも主要なアーティストさんですが、最近は軽作業の方が忙しくなっていて今日の活動には参加できていませんが、魅力的な作品をたくさんつくっておられます。

山本美和〈お寿司のバラエティパック〉2020年
様々な種類のお寿司が白いお皿に収まりきらないほどにたくさん描かれた作品。お寿司へのほとばしる情熱を朗らかな色彩と確かな描写力で表現している

-今後に取り組んでいきたいことや目標などあれば教えてください。

鎌田:作品のレンタルもできたらと考えていて、例えばどういう料金設定がいいのかとか、どのくらいの大きさが良いのか、契約はどうするかとか、ちょこちょこそうしたことを個人的に県外の事業所さんなどに問い合わせたりしているところです。
あとは、企業さんのトラックのラッピングカーを描くとか、うちの事業所だけでなくて皆さんのアートがもうちょっと街の風景の中に展開してたくさんの方が目にする場に出て行くといいなと思っていますし、そういうのがまちの売りにもなるのではと考えています。


外観の様子
カフェの様子

SOISTANCE(ソイスタンス)

株式会社アキヨシフードサービスが運営する就労継続支援B型施設として作業療法士と栄養士が2019年に設立。利用者やその家族へ寄り添い「SOI」の姿勢「STANCE」で支援している。「SOI」はフランス語で「個性(ソア)」の意味


あいサポート・アートセンターはこんなところ!

▷あいサポート・アートセンターは鳥取県が平成30年に設置した障がいのある人のための文化芸術活動拠点です。


Hugs 2023年冬号 vol.7
2023年12月1日発行


発行/あいサポート・アートセンター

   〒682-0821 鳥取県倉吉市魚町2563

   TEL : 0858-33-5151

   FAX : 0858-33-4114

   E-Mail : tottori.asac@gmail.com

   HP : https://art-infocenter.jimdofree.com/

編集/水田美世
撮影/Ys Photo Studio
デザイン/森下真后
協力/鳥取県

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