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障がいと共に生きるアーティスト達とそこにある世界を発信するフリーペーパーHugs 2023年秋号 vol.6

「Hug」という言葉には、“愛情をもって抱きしめる” “こだわりを守り続ける” “自分自身を幸運だと思う” などの意味があります。フリーペーパーHugsは、障がいと共に生きながら創作や表現活動をしている方々や施設を取材し、その活動の様子や日々の思い、そこから広がる豊かな世界を伝えていくことを目的にしています。

森本賢次〈無題〉2015 ©︎ 羽合ひかり園
Hugs 2023年秋号 vol.6 メインビジュアル使用作品

本当にそれは彼らがまさに生み出したもんだから

行為やコミュニケーションやその過程に至るまでをひっくるめて、それぞれの人の表現として受け止め活動してきた障害者支援施設「羽合ひかり園」(運営:社会福祉法人鳥取県厚生事業団)。20年以上前から実施されてきた活動の様子を外部講師の野崎康孝さんと担当職員の筒井宏海さんに伺いました。

左:筒井宏海さん 右:野崎康孝さん

-アートの活動がどのように始まったのかを教えてください。

筒井:現在の活動は2014年からです。私が担当になったのは今から4年ほど前なので、それ以前のことは当時職員だった野崎さんが詳しいです。

野崎:実は20年以上前にもアート活動をやっていました。ひかり園には寮がいくつかあって、いまのアート活動にも参加している森本賢次さんや毛利孝幸さんが所属していた「麦の穂寮」で始めたのが最初です。
当時の施設長がアートをやろうと言い出したんですが、私は当初アートなんて無理だって思っとったんです。でも、それぞれの人の作業スペースを区切る衝立の段ボールに、森本さんが描いたもののうえに毛利さんが描いた大きな1枚を見つけて。それを見たときに気が変わりましたね。これはすごいなと。そこの担当の職員には内緒でそれを剥がして展覧会に持って行きました。後で文句言われましたけど(笑)

-1人1作品は必ず出すというその展覧会はどのように実施したのですか。

野崎:絵の具を筆に付けて渡しても受け取らないしこちらが想定しているような作品にはならない人がいて、もう受付に座っとってもらおうかなと思ったんだけど。その人が毎日散歩の時に道端の草をちぎっては捨ててと繰り返していたんです。その草をとにかく全部拾うことにして、その草を板に貼り付けて作品にしたんです。
その人とは別で、汚い話ではあるんですが、ゴミを拾っては手で丸めて、たまに口に入れてまた出してっていう人もおったんです。それもみんな受け取ろうってことになり、集めて乾かして、だんだん匂ってくるようなもんもあったけど(笑)あんまり口に入れんかったようなやつを1個だけ選んで、板にぽんと貼って展示してね。
本人じゃなくて私が並べたんですけどね。だからそのときはもう本当にそれは彼らがまさに生み出したもんだからってね。

筒井:その作品はもうないですよね。

野崎:どっちも売れたんじゃないかな。

筒井:え?!

野崎:売れたんです。展示した作品はほとんど。これだけ売り上げができたんですって保護者会で報告したら、どんどん材料を買ってもらって結構だからって、なんぼでも応援すると言ってくださったりしてすごい変わりましたね。

筒井:時代の違いなんでしょうか…どんな人が買われたんですか。

野崎:展示は倉吉の赤瓦土蔵群でしたんですよ。だから主に観光客ですね。商売上手だけ、数万円、数千円っていう結構な値段を付けておいて。お客さんの顔を見て、じゃあお客さんだけですよって言ってちょっと値段を落として。ゴミとかどうしたとかも何も言わずに売りました(笑)あのときはもう保存とかの意識はなかったけえ、売れるもんは全部売っちゃえみたいな感じで。絵も粘土も書も売った。
伊木雅彦さんが大きなベニヤ板にひらがなで「はは」って書いたのも売れて。お母さんに連絡したら飛んできて、あの子のが売れたんですか、そんな値段でっていうのはすごいびっくりされましたね。買われた方は、母親の意味もあるだろうし、「はは」って笑っているような解釈もできると言って、買って下さいました。
それから面白かったのは「絶対名前を出したら困ります。写真も載せないで」という親があって、そういうことってその当時は多かったんです。「わかりました。隠します。だけど展示はします」と伝えて。展示の際にその人の作品を前に、若い高校生が3,4人、楽しそうにおしゃべりしながら鑑賞しとったんですね。図ったようなタイミングでお父さんお母さんが入ってこられて、高校生たちの様子を静かにじっと見ておられた。そんなことがあってからは、ころっと変わりましたね。「名前出してもらっていいです。あの子が作ったものが一般の人に見てもらえて」って喜んで。よく覚えてますね。

毎日累計1時間ほど、砂を手にしてその感触を確認している鷲見浩介さん。ホームセンターで購入した砂にご本人がプランターの砂を加えるなどしてブレンドされていく
毛利孝幸〈無題〉制作年不詳
白い絵の具を好んで用い、塗り重ねることで厚みが出てくる。この作品は異なるが最後に黒や茶色で塗られた作品もあり、その行為は「完成」もしくは「終了」を意味するよう

-野崎さんが退職後に再び外部講師として関わるようになったいきさつは?

野崎:私が辞めて数年後にはアートもだんだんと下火になり、私に声が掛かった時にはしてなかった。補助金ができてひかり園もやりたいっていう相談があって。自分がやっとったときに活動していたアーティストが何人もそのままいたもんだから、何ぼでもできるということで2014年に「かがやきアートクラブ」として再スタートしました。私は指導できるような技術も何にも無くてそれでも良ければってね。前任の担当者がどっかの機関誌に書いてたんだけど「講師は何も指導はない。何も教えない。ただ“いいぞ”とか“わ!”とか“お!”とか言ってるだけだけど、不思議と作品が出来上がってくる」みたいなことを書いてあって、ああこれでいいのかなと自分も思うようになりました。

-筒井さんは元々どういうことに興味があって福祉の現場に携わるようになったんですか?

筒井:もともとは音楽が好きで、ギターをつくる専門学校に通ってたんです。

野崎:へえ!

筒井:だからもともと福祉の勉強は全くしてないですね。この法人に入ってからTシャツをデザインしたり、アート活動の冊子「ばゆーん・そゆーん・アートだわいな2015」もデザインして作品選びから撮影もやって楽しくてね。ちなみに入社後に資格はちゃんと取得しました(笑)この時は同じ法人のB型の事業所にいたんです。冊子作りたいっていうので僕が出掛けて行って、こんなん面白いけえ載せましょうってやりとりしてスキャンして。写真も作品の後ろに白い紙を引いてね、それっぽく見えるように。ライトボックスも自分で作って。上から携帯の光で照らしてそれなりに見せて。このときTシャツもデザインして作って、そのあとポロシャツも作った。まさかその後にここに来るとは思わずに。器用貧乏なもんで、ネットで調べたりしてね。こんなチラシとかポスターとか。独学でIllustratorとかPhotoshopとかのデザインソフトを使えるようになって。あとはPinterestでいろいろ見て参考にしながら作るんだけど、結局全然違うものができる(笑)

職員が持ってきた着物に描く田中忍さん。丸いモチーフをたくさん重ねていく制作スタイルが初期から定着している。もともとはお金をイメージしていたことが冊子「ばゆーん・そゆーん・アートだわいな2015」の記録から伺える
着物の表
着物の裏

-アート活動って手本や見本に沿ってやるものと考える方が未だに多いと感じます。固定観念が先に立って、活動をためらう福祉現場の方に伝えたいことはありますか。

野崎:私ね、赤緑色弱なんです。小学生の頃は色塗りはチューブの表記を見て、色を出してた。自分で思う限りですが、小学生のレベルでは、形を捉えたり表情をつくったりするのはうまくできる方だと思っとったけども、色についてはそういう状態で。中学生の時に私が緑一色の濃淡で風景画を描いたんですよね。そうしたら、その時の美術の先生が、すごく褒めてくれて、色については一言も言われなかった。別に関係ないっていう感じでね。それから色って関係ないんだと思ったんです。
あとここで陶芸をやったときに、毛利さんが作ったのは洗面器みたいな形だったんですよ。持ち手があって。「これ何ですか」って聞いたら「コーヒーカップです」って、毛利さんがそういうんだから間違いない。これを展示した時に「これが作品になるんですね」って言われた方があって、話を聞いたらどこかの支援学級の先生だった。「こんなふうにそれぞれに思うものを作ってほしいけど、自分を指導する先生はコーヒーカップっていうのはこんなものっていう概念が確固としていて。口に触れるときに怪我するようなコーヒーカップじゃいけないでしょ」と。だから「自分もそういうふうに指導してきた」と。「ここはそんなことないんですね、いいんですねこういうの作っても」って言われて。「いいんじゃないですか、だって彼がコーヒーカップだっていうんだから。大きさも関係ない、怪我しようと洩ろうと関係ありませんよ」って言って。

筒井:僕は岡本太郎が好きなんですけれども〈座ることを拒否する椅子〉って作品がありますが、そういうことですよね。別に座れなくてもいいっていう。いろんな表現があることを知ってると柔軟になれる気がします。アートじゃなくても、利用者さんの日々の支援でも同じで、やっぱりこっちの思いを無理強いしてはいけないと。さっきのゴミの話もありましたけど、不衛生かもしれないけど、それを無条件に駄目ですって禁じてしまわないようにするのは大事だと思いますよね。-あのダイナミックな作品たちは、皆さんが楽しんでいる証拠に他ならないと思います。

-楽しむって大事ですよね。福祉って「幸せになる」専門の活動だと思うので、楽しむことは福祉の大事な部分だと感じています。

筒井:この仕事ってずっと人材不足なんですが、だから「やってみたい」って思ってもらえるような働き方をする人になりたいと日々思っています。きついししんどいというイメージがあるけど、こんな感じでアート活動して楽しんでるやつもいるんで。ぜひどうかな?ってね。

-最後にこれは伝えておきたいということがありますか?

筒井:「リサイクル×地域×アート プロジェクト」と名付けて、屋外にリサイクルボックスを設置してまして、その収益をアート活動に当てています。うちの施設で出たものは皆さんに運んでもらう仕事にもなりますし、あとは資材を捨てに来た一般の方に活動を知ってもらうツールにもなっています。潤沢には財源が無いので、自分たちで使いやすい資金を生み出したいなと。

野崎:私の小遣いも増える。

筒井:野崎さんの謝金は2倍にします。その代わり2倍働かないといけませんよ。

野崎:それはえらいわ(笑)

(上)森本賢次さん。取材時には横長のベニヤ板に鉛筆で強く文字やバイクの絵を敷き詰めていき、その上からオレンジ色を重ねる制作に取り組んでいた(下)アート活動を離れた時間には印刷物の切り抜きやお菓子のパッケージなど様々なものをスクラップしていく造形にも親しむ
制作をする安達宜教さん。顔から手と足が伸びるオリジナルの人物表現や鮮やかな配色でキャッチーな作品を手掛ける

外観の様子
アート活動の様子

社会福祉法人鳥取県厚生事業団障害者支援施設 羽合ひかり園

2014年より「かがやきアートクラブ」としてアート活動を再開。重度の知的障がいのある方の生活の支援を中心として、それぞれの人の行為や日々のコミュニケーションなどから生まれたものをアート活動の表現として受け止めてきた。


あいサポート・アートセンターはこんなところ!

▷あいサポート・アートセンターは鳥取県が平成30年に設置した障がいのある人のための文化芸術活動拠点です。

お仕事を紹介するマスコットのまみちゃん

Hugs 2023年秋号 vol.6
2023年9月1日発行


発行/あいサポート・アートセンター

   〒682-0821 鳥取県倉吉市魚町2563

   TEL : 0858-33-5151

   FAX : 0858-33-4114

   E-Mail : tottori.asac@gmail.com

   HP : https://art-infocenter.jimdofree.com/

編集/水田美世
撮影/Ys Photo Studio
デザイン/森下真后
協力/鳥取県

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