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障がいと共に生きるアーティスト達とそこにある世界を発信するフリーペーパーHugs 2023年夏号 vol.5

「Hug」という言葉には、“愛情をもって抱きしめる” “こだわりを守り続ける” “自分自身を幸運だと思う” などの意味があります。フリーペーパーHugsは、障がいと共に生きながら創作や表現活動をしている方々や施設を取材し、その活動の様子や日々の思い、そこから広がる豊かな世界を伝えていくことを目的にしています。

西尾紀幸〈じゃがいも畑〉2021 © 鹿野第二かちみ園 *
Hugs 2023年夏号 vol.5 メインビジュアル使用作品

表現することを自分ごととして考える

社会福祉法人鳥取県厚生事業団が運営する障害者支援施設「鹿野第二かちみ園」は、部署の垣根なく様々な職員がサポートに入り利用者のアート活動を盛り立てています。表現活動に自分ごととして関わる大切さに気付いたという園長・藤崎慎一さんと、支援主幹として活動を継続してきた太田久美さんを訪ねました。

左:藤崎慎一さん 右:太田久美さん

-毎年大きな会場で展覧会を開かれ、ダイナミックな作品に取り組んでおられるのが印象的ですが、アート活動をはじめた当初はどうでしたか。

太田:以前は様々な日中活動班のひとつとして農業班があったんですが、2011年ごろから天候の悪い日の活動として絵を描いたり粘土で工作したりと手探りの中で始めました。その後利用者さんが年齢を重ねてきたこともあり農作業が難しくなって、8年ほど前から本格的にアートに切り替えたんです。その際、奈良の「たんぽぽの家」に他の職員も交えて勉強に行って、どう進めたらいいかアドバイスをいただきました。具体的には、活動の場をアート専用にすることとか、外部の講師の大切さやスタッフの関わり方などですね。以前は食堂とその隣の部屋を使っていましたが、手狭になって今のホールに変えました。

-手狭というのは、作品が大きくなっていったということでしょうか?

太田:人数の割に部屋が狭いという状況はもともとあって最初はこぢんまりと始めたんです。だんだんと利用者さんが積極的に作るようになり、あと書道をやってみたら、大きく表現することが楽しくなってきたようだったので、思い切って一番広いホールをアートの部屋に変えました。

-2022年の作品調査※で観させていただいた西尾紀幸さんの〈冬の樹〉は、書道の活動がベースになって生まれたのでしょうか。

太田:そうですね、梅田佳輝さんが2017年に〈うねり〉という書の作品で、あいサポート・アートとっとり展 美術部門 最優秀賞を受賞した後に、活動の中で同じように西尾さんの〈冬の樹〉ができたんです。書の先生にはオーソドックスに文字を教えていただくんですが、どうやったら書の面白さをもっと実感できるかを考えて、筆をモップに持ち替えるというアイディアが職員から出ました。〈うねり〉も〈冬の樹〉も、モップを使ってるんですよ。
※2023年2月に公開された鳥取県立バリアフリー美術館に起因する作品調査

梅田佳輝〈うねり〉2017年 *
西尾紀幸〈冬の樹〉2018年 *
掃除用のモップを加工し筆に見立てて描いた書画。表紙の〈じゃがいも畑〉も西尾さんの作品で、多様な素材や手法に積極的に取り組んでいる

-ご本人たちのポジティブな変化を敏感に捉えて、道具や環境を柔軟に整えていけるのは、普段からの職員さんの心掛けが大きいですよね。

太田:この人はこうやってもらったら楽しいんじゃないかとか、作品として見栄えが出るかもとか、職員間でアイディアをたくさん出し合いながらご本人に提案しています。

藤崎:当園は60名のうち16名が自閉傾向の強い方なので、同じ作業を根気よくされます。一つ一つは細かな動きでも続けていくことで質量が増えてダイナミックに展開できるんだと感じます。

太田:市橋和人さんは紙筒で職員が成形した土台に、色紙を自分でちぎって貼っていく形で制作しています。あの作業がしたいっていうのは自分から言われましたね。山田さんは以前チラシをまるめて先を割って花のようにして「チラシンス」っていう作品を作っていたんです(笑)。ここ3年ほどはもっぱら小さな紙片に延々と顔を描くということに集中されています。

市橋和人さんが手に持つのは人工衛星をイメージした作品。色紙を幾重にも重ね、時間をかけて取り組んでいる

-素材があって行為が加われば、何かが生まれるとは思うんですが、それを「作品」として出すというのは、またちょっと異なる視点や思考が必要ではないかと感じます。ご本人たちはどのぐらい意識されているのか私はわからないのですが、職員さんの方で感じることはありますか。

藤崎:いろんな障がい特性の方が入所されていて、自閉傾向の強い方は細かい作業を積み上げていけるし、続けることで落ち着く方もいらっしゃる。感覚的に好きな刺激、例えばセロテープを剥がして丸めるとか紙をちぎるとか。そういう特性やもともと好きなもの、本人が心地よいと思う行為が、その人の表現として成り立つ方法やどう作品になっていくだろうかを考えることが、私たち職員の役割になっていると思います。

太田:最初は本当に職員も手探りで、どうしたら形になるのかを常に議論しましたし、利用者さんには言葉で伝えることがなかなか難しいので、どの職員もすごく大変だったと思います。少しずつノウハウが蓄積されてきたので、どんなものや行為でも今はこういうふうにしたら作品として発表できるんじゃないかという道筋が見えてきてはいます。

制作中の田中まゆみさん。支持体となる白い紙にまずはペンで格子状に枠を描き、その中に様々な色と形の紙を貼り付けている
次々に生み出される田中まゆみさんの作品を、職員がアイディアを出しながら立体的な造形物に仕上げた

藤崎:ただ少し感じているのは、職員の中だけで生まれるアイディアには限りがあるということです。これまでも外から講師を迎えることで新しい扉が開いていく実感があったので、もっとステップアップできていったらと思います。

-外からの視点を得ていくことはとても大事ですよね。こと鹿野第二かちみ園さんにおいては、内部の職員の皆さんが活動の現場をしっかり支えて、そうした外部の視点がきちんと活きる土壌を作っておられるからこそだと感じます。

藤崎:確かなのは、職員も利用者さんもどちらもものすごく楽しんでいるということです。そこはずっと大切にしたい。栄養士や理学療法士や他の部署の職員も、自ら進んで作品作りに参加しますし、私もその1人です。

-あのダイナミックな作品たちは、皆さんが楽しんでいる証拠に他ならないと思います。

藤崎:これはすごく個人的な感想になるかもしれませんが、活動に参加するようになってからは、こういう楽しさは残さなきゃいけないと、思うようになりました。いままではやらなかった美術館巡りをするようになり、表現することを自分事として考えるようになりました。それはとても大きな変化で、喜びで、大事なことだと感じています。

日交バスをモチーフにこれまでたくさんの作品を描いてきた梅田佳輝さん。それぞれの行き先や広告文字等を鉛筆で緻密に描いた作品〈日交バス〉で、平成21年度の鳥取県障がい者アート芸術文化祭作品展 最優秀賞を受賞
山田俊徳さんの描く顔の作品。ここ3年は小さな紙に顔を描き続けているという。別の方が丸く切り抜き、複数人で共同制作する立体作品の素材として用いるなどしている

作品が飾られている廊下
アート活動の様子

社会福祉法人鳥取県厚生事業団障害者支援施設 鹿野第二かちみ園

2011年ごろよりアート活動をスタートし、現在は月・水・金曜日の午後を活動の時間に当て、絵画、書道、立体造形などに取り組む。毎年「いろどりアート展」を開催。外部講師を招きつつ職員も様々にアイディアを出しながら作品制作に取り組んできた。


あいサポート・アートセンターはこんなところ!

▷あいサポート・アートセンターは鳥取県が平成30年に設置した障がいのある人のための文化芸術活動拠点です。

センターのお仕事紹介 その1 相談支援!

創作活動に関する各種相談、出展・発表機会に関する相談、権利擁護等に関する相談などを受け付けて、アドバイスを行ったり、必要に応じて専門家や関係機関等の紹介をしたりするよ!

センターマスコット  まみちゃん

Hugs 2023年夏号 vol.5
2023年6月1日発行


発行/あいサポート・アートセンター

   〒682-0821 鳥取県倉吉市魚町2563

   TEL : 0858-33-5151

   FAX : 0858-33-4114

   E-Mail : tottori.asac@gmail.com

   HP : https://art-infocenter.jimdofree.com/

編集/水田美世
撮影/藤田和俊、Ys Photo Studio(*印のみ)
デザイン/森下真后
協力/鳥取県

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