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障がいと共に生きるアーティスト達とそこにある世界を発信するフリーペーパーHugs 2024年春号 vol.8

「Hug」という言葉には、“愛情をもって抱きしめる” “こだわりを守り続ける” “自分自身を幸運だと思う” などの意味があります。フリーペーパーHugsは、障がいと共に生きながら創作や表現活動をしている方々や施設を取材し、その活動の様子や日々の思い、そこから広がる豊かな世界を伝えていくことを目的にしています。

高橋俊和〈膨〉2016©️ヴェルヴェチア
Hugs 2024年春号 vol.8 メインビジュアル使用作品

エネルギーの循環が生まれていくこと

およそ20名の利用者がアート活動に参加する鳥取県倉吉市の障がい者支援施設「ヴェルヴェチア」。中でも長年にわたり書道に取り組み、自ら「書彩家」と名乗る高橋俊和さんの活動を中心に、これまでのことや活動がもたらすものについて書家の山田美鈴さんと課長の河本達郎さんに伺いました。

左から、施設長・松下昇さん、書家・山田美鈴さん、 課長・河本達郎さん

-活動がどのように始まったのか教えてください。

河本:2013年に日本海新聞に高橋俊和さんが取り上げられたことが契機で、施設長が作品を書道家の柴山抱海先生に観ていただいたところ、その場でお弟子さんの山田美鈴先生の紹介がありスタートしました。高橋さんは養護学校高等部の選択科目で書道に出会って以来、車椅子に乗りながら左足に筆を握り、意欲的に制作を続けていました。山田先生に師事されると、そこからググっと上達されて。ヴェルヴェチアの利用者さんの活動とは別に、高橋さんが代表の「楽筆会」というサークルも立ち上げて励んでいます。

山田:出会ったときにはもうたくさん作品を作られていて、今後は我流ではなく本格的にやりたいと。中国の古典的な筆遣いや長年使われてきた書き方、時代ごとに違うスタイルや、力強い文字や優しい文字、いろいろあるんです。ポケットをたくさん持っておくと表現の幅が広がります。左足で書くのはかなり大変なので、すべてができる訳ではないですが、彼の好みにあわせて、そういう筆遣いを習得することで表現力がどんどん高まって、プロからも認められるようになってきました。自己満足で書くのではなく、本格的な作品なんだと伝わるように勉強していく方向性に変わっていきました。


高橋さんの普段の制作の様子*

-実際の制作の場で、今日はこういう風に書くというのはどうやって決めていかれるんですか。

山田:最初のやり取りはメールが多かったりします。「次はこういう言葉を書きたいんだけど」って言ってくる。「どんなイメージ?」と返すと、「中国の北魏時代の書体でいきたい」とか具体像があるんです。彼自身が結構勉強しているんですね。それを受けて私も調べて、「こういう書き方もあるよ」とか。「例えばこういう筆遣いで、文字の並べ方もこうしてみようか」ってやり取りをしておくんです。
現場では、とにかくまずは、一旦書いてもらいます。そこから今の感じでいけそうだったらそのまま書きますし、「例えばこういう形の方が更に良くなるんじゃないかな」って提案することもありますし、「いやでもこのままでいきたい」って言われたらそうして。こちらが一方的に押し付けるようなことはなく、楽しくやっています。

-「無限向上心」などの言葉は高橋さんご本人が設定されると伺いました。

河本:書く言葉に関しては全て高橋さんご本人が決めておられますね。元々ある四字熟語とかではなく、当て字や洒落をきかせた高橋さんオリジナルの造語が多いです。中秋の名月を楽しむ会に呼ばれて「夢運騎士」と書いて「ムーンナイト」と読ませていました。
「書彩家」という言葉も、書道だけじゃなく俳句も詩も書く、いろんな色と言葉で表現するという意識で自ら名付けておられます。


高橋俊和〈無限向上心〉2014年
車椅子に乗ながら左足で筆を握り全身を使って文字を書くダイナミックな作風が特徴。この作品も高さが2mを超える大作で筆運びの力強さが魅力と なっている

-足で筆を握りダイナミックな作品を仕上げられるので、かなり体力を使うのではないかと思います。

山田:出会った10年前と比べると、お互い年を取ってしまってフラフラしてね(笑)高橋さんも書くのに時間が掛かるようになってきて、私も横で腰を下ろして踏ん張って、気力体力ふり絞ってます。大きい筆って軸が長かったり太かったりで握りにくいし、墨を含んだらさらに重くなるでしょう。それを足の親指と人差し指の間に挟んであの細い足で持ち上げて書くんですからね。「高橋さん、重たいでこの筆!」って言いながらね。

河本:YouTubeに2021年に製作した書道パフォーマンス動画を載せています。字の魅力はもちろんですけど、高橋さん自身の魅力もあるものですから、それに魅了されて、僕もファンの一人なんです。

山田:この時は体調が万全ではなくて、書いている途中で筆が止まってしまうんです。「どうする?休む?」とか確認しながら、だけど本人は「まだやれるよ」って言ってまた書き進めて。このとき私はウルウルしながらサポートしてたんですが、今観ても感情が溢れますね。
こういうパフォーマンスとか、彼はもう一文字書くのに命がけみたいな感じで臨むわけじゃないですか。その姿を目の当たりにするとね、私ももっと頑張ろうって気持ちになるんです。やる気っていうかね。私いつもここでチャージさせてもらって帰るんです。


高橋俊和・山田美鈴〈無限夢奏〉2018年
YouTubeに投稿されている動画「無限向上心 高橋俊和×山田美鈴」で制作の様子が紹介されているパフォーマンス作品。金の文字を高橋さんが描き、周囲の文字は山田さんが担当した

-山田さんはご自身も作品を作って発表される活動を続けている中で、指導したりサポートに入ったりすることとは違う、別物の自分自身への厳しさを持っておられるのではないかと思うのですが、ご自身の中でそのバランスをどうとっておられるのか、教えていただきたいです。

山田:自分の作品制作は、厳しいですね(笑)厳しいんですけど、結局その厳しさの中で得たものが、また指導に生かされると思うんです。なのでどちらもおろそかにはできないと思ってます。実際すごい元気もらって自分の活動もしているので。いつも火曜日にね、ヴェルヴェチアさんで高橋さんや他の利用者さんと活動をして、その熱で、私も帰ってから自分の作品書いて、それから師匠のとこに行くんですよ。

-なんと! すごいですね。

山田:すごいでしょ(笑)本当は疲れるから、前の日までにやっておけばいいんだろうけど、ここでちょっとエネルギーチャージするとね、気分が乗るんです。「よっしゃ!」みたいな感じで。なので全く別物ではないっていうか、もう私の中では一連の循環ができている。だからすごい感謝してるんです。師匠と弟子ではあるんだけど、実際は姉弟みたいな10歳ぐらい離れた身内みたいな関係性になりつつあるんです。

-時間をかけて一緒に歩んできたっていうところもあり、真剣に向き合ってるっていうところも。

山田:あんまり真剣じゃなくて、いつもふざけてますよ(笑)高橋さんって、すごいユーモアがあるんですよ。言葉が聞き取れなくて、何回も聞き直すときにはろくな事を言ってない(笑)「私真面目に聞きました」とか愚痴って。でも彼もそうやってバランスを保っているのかなと思っています。

高橋さんとともに「楽筆会」メンバーの秋末欣之さん。取材した日は、指導者の山田さんとの会話を楽しみながらさまざまな魚の名前をのびのびと表現されていた
施設内の廊下にはたくさんの書道作品が並ぶ。共同制作されることも多い
黒田修〈五木ひろしのコンサートに行きました。〉2019年
マイクを握り歌う歌手を大きく中心に配し、周囲にはコンサートのセットリストのように曲名を示した作品。歌手の真剣な表情と、後方から惜しみなく笑顔を向ける観客の姿が、この場の高揚感を描き出す

外観の様子
施設内の廊下の様子

障がい者支援施設「ヴェルヴェチア」

生活介護(日中活動)と施設入所支援(住まいの場)の場として社会福祉法人「十仁会」が運営する施設。足に筆を持ち表現活動を継続してきた「書彩家」高橋俊和さんの活動を中心に据えながら利用者の創作活動に取り組む


あいサポート・アートセンターはこんなところ!

▷あいサポート・アートセンターは鳥取県が平成30年に設置した障がいのある人のための文化芸術活動拠点です。

お仕事を紹介するマスコット まみちゃん

Hugs 2024年春号 vol.8
2024年3月1日発行


発行/あいサポート・アートセンター

   〒682-0821 鳥取県倉吉市魚町2563

   TEL : 0858-33-5151

   FAX : 0858-33-4114

   E-Mail : tottori.asac@gmail.com

   HP : https://art-infocenter.jimdofree.com/

編集/水田美世
撮影/Ys Photo Studio、ヴェルヴェチア(*印のみ)
デザイン/森下真后
協力/鳥取県

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