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障がいと共に生きるアーティスト達とそこにある世界を発信するフリーペーパーHugs 2022年冬号 vol.3

「Hug」という言葉には、“愛情をもって抱きしめる” “こだわりを守り続ける” “自分自身を幸運だと思う” などの意味があります。フリーペーパーHugsは、障がいと共に生きながら創作や表現活動をしている方々や施設を取材し、その活動の様子や日々の思い、そこから広がる豊かな世界を伝えていくことを目的にしています。


門脇悟〈魚〉2019年©あかり広場
Hugs 2022年冬号 vol.3 メインビジュアル使用作品

たとえ何もしなくても そこに存在するということ

NPO法人あかり広場(以下「あかり」)の所長・渡部真哉さんとアート活動担当・渡部美帆さんは、他県の障がい者施設で創作現場の経験を持ち、全国に先駆けてアール・ブリュット*のアーティストとして知られていた方々とも福祉の立場から関わってきました。あかりでのアート活動は2016年からスタート。活動の魅力や想いについて、活動当初から関わる水田美世がインタビューしました。
*「生(き)の芸術」というフランス語

NPO法人あかり広場の所長・渡部真哉さん

-美帆さんがあかりに来られる以前のお話を改めて教えてください。

渡部美帆(以下、渡部):滋賀県のとある通所施設に勤めていて、そこが事業としてアトリエの時間と音楽の時間をそれぞれ月2回ほど実施していました。最初はサポートで入り、2年目からはアドバイザーの方やスタッフの調整を任され、利用者さん自身がどうやったら楽しく取り組めるかや、特性に合わせた道具の工夫、環境設定も含めてやっていました。
私は絵のことは分かりませんが、面白くてたまらないんです。利用される方が、日中の仕事の様子とも生活の様子とも違う、新しい一面を見せてくださる。あかりでも同じですが来られる方のほとんどは自分の言葉で自分の気持ちを伝えることが容易ではなくて、そうした言葉では表現できない部分を発散したり、集中して力を籠めたり、伝える方法をたくさん示せるのがアートであり、それはとても素敵なことだと感じています。

-フランスの展覧会にもアーティストの付き添いとして行かれたそうですね。

渡部:はい、私は緊張して滞在中に声が出なくなるハプニングがありましたが…海外の美術館でこんなことになるなんて!って私は思うのに、本人たちは飄々としていて(笑) あの職場にいたからこそ経験できたとありがたく思います。

-あかりに来られたきっかけは、所長の真哉さんと滋賀で出会いご結婚されたことでしょうか。

渡部:そうです。あかりは義母が運営していて、所長はいずれ自分が継ごうという思いがあり、私はたまたま同じ仕事なので違和感なく来れました。当初から滋賀のようにアート活動したいという思いはありましたが、私は来てすぐに産休に入る状況でしたし、素人の自分だけでやるには怖さがあったんです。それは滋賀でアドバイザーがいる中でやっていた経験があるからだと思いますが、例えば、生み出されたものを面白いと思う人もいれば、何やってんの?って思う人もいる。いかに価値を見出す人がいるかで状況は変わっていきますよね。
一職員のすることでその可能性を狭めるとか、あらぬ方向に行くのが怖くて、だから誰かと一緒にやりたいと思っていたんです。美術の学芸員経験を持つ水田さんと所長が出会ったことでとても前向きな気持ちになりました。スタート時期は私がすでに産休中だったので、所長と水田さんとでやっていただきましたが、どうでしたか?

-初回は、それぞれの方が何が好きでどういうことに楽しいと思えるかが分からないので、とりあえず紙と何か筆記用具を使ったんだと思うんです。皆さんおっかなびっくり、何をするのこれで?という感じで。でも描いてくださったものを、いいですね、もっと描いてみてって盛り上げながらやりました。初期の頃はいろんな方法を考えては試してを繰り返して、今でももちろん考えていて、ベストはどれかっていうのは分からなくて。

渡部:分からないですね。でもやってきたことはどれもすごく良かったと思います。あかりのスタンスとしては、一人一人がやったことを認めて、たとえ何もしなくてもそこに存在するということが大事だと思っています。水田さんは毎回絶対にそれぞれの方のいいところを見つけて必ず言ってくださる。その姿から私も他のスタッフも、ちゃんと認めて言葉にして伝える大切さを学んだんだと思います。

-いえいえ、本当に素敵だなと思っただけで、躊躇わずにもっと出して見せてほしいという思いで言っています。

渡部:所長とも話していたことですが、その人自身も自分という存在の大切さを実感できればどんなにいいかと思います。できないことを嘆くのではなく、自分にしかないものを見つけて楽しむ、そういう力がアートにあるんだと知るようになりました。私はこの仕事やこの世界が大好きです。アート活動が媒介となり人の心を動かし、その先に障がいのある人がいる。それぞれに魅力があって、生活をしている。そんなふうに私たちを知っていただく機会を増やしたいです。

いつも色使いが優しく選ぶモチーフもかわいらしい後本咲穂さん。手に持つ作品はあかりのオリジナルマスキングテープの図柄となっている
普段の生活の様子と作品制作時の様子に一番ギャップがあったという浪花道彦さん。戦隊もののキャラクター好き
鷲見弘美〈無題〉2021年
手作りのスタンプを用いて紙や布を支持体に作品を制作する。配色や配置は全て本人のもの。近年は1㎡ほどの布に描く作品を多く手掛ける
黒見由美子〈無題〉2018年
「Hugs」vol.2で紹介したもみの木福祉会のグループホームから通所であかりを利用し、毎月2回ほど活動に参加。彩度の高い色彩を多用した花を好んで描く
宮尾和季〈無題〉2017年
毎回写真などを手元に置いて観察しながら描く宮尾和季さん。宮尾さんのフィルターに掛かればどんなに強面の人も骨抜きに
門脇悟〈魚〉2019年
まぐろ、たい、めばる等20種類以上の魚を思い浮かべ、毎回描く。人の誕生日をいくつも記憶することができ、過去の任意の日付の曜日を瞬時に言い当てられるという特技も持つ

あかりアートギャラリー
アート活動の様子

NPO法人あかり広場

どんな障がいがあろうとも住み慣れた地域で当たり前に暮らすことができる社会の実現をめざし2007年に設立。現所長・渡部真哉夫妻の帰郷を機に、2016年より水田美世をアドバイザーにアート活動を開始。2020年に「あかりアートギャラリー」として鳥取県はーとふるアートギャラリー第3号認定を受けた。


アート作品を発表したい人のためのプチコラム 知ろう著作権!

03:作者の権利を大切にしよう!

作品の著作権は、その作品を創作した人(作者)にあります。周りの人が勝手に売り買いしたり、許可なく印刷物にしたりなどしてはいけません。

お気に入りの絵を売るなら10,000億円は欲しいまみちゃん

Hugs 2022年冬号 vol.3
2022年12月1日発行


発行/あいサポート・アートセンター

   〒682-0821 鳥取県倉吉市魚町2563

   TEL : 0858-33-5151

   FAX : 0858-33-4114

   E-Mail : tottori.asac@gmail.com

   HP : https://art-infocenter.jimdofree.com/

企画・製作/一般社団法人アートスペースからふる
編集/水田美世
撮影/村上伸明
デザイン/森下真后
協力/鳥取県

「鳥取県はーとふるアートギャラリー」とは、障がいのある方の文化芸術作品の発表の機会·場所を確保する制度。障がいのある方の作品展示を積極的に行っているアートギャラリーを県の認定ギャラリーとしています。

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