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宇宙にたった一人【オンガク猫団コラムvol.18】

オーロラから「パチパチ」という音が聴こえるという話を時折耳にするけど、本当なのかな。1983年のイギリス映画の『ローカル・ヒーロー』でもそんなシーンがあった気がする。オイラはオーロラを生で見たことがないのだけど、生のオーロラよりもオーロラの音の方が気になって仕方がない。

1年ちょっと前に、スマホを買い替えてから生録に凝っている。以前のスマホよりも録音の精度が格段に向上したことが契機になった。街中とか公園とかで、いい音に巡り合うとアプリを起動させて数十秒録音する。確か初めに録音したのは、米屋の古い精米機の音だった。カタカタと喧しいだけなのだけど、どこか温もりのある響きがして音に慰撫されるのだ。時折行く店で、ジャズばかりをBGMで流す創業40年のカフェの雑踏の音とか、後で聞き返すとしみじみと味わい深い。生録は、場の空気を缶詰にすることができて、耳が欲しがっている時に、音の缶詰のフタをパカリと開けて自分の耳を喜ばせる。生録は、動画とは一味違う素朴な趣があるのがいい。

野鳥の声もいくつか録音した。例えばヒヨドリはピーピーとヒステリックに警戒的に啼くけれど、アイツは時折非常に優しく歌うことがある。オイラが好んで録音するのが、お祭りの音だ。盆踊り、お囃子、打ち上げ花火。鉄オタではないけれど、江の島に行った時には、江ノ電の音も録音した。警報機の音なんか、もう堪らん。特に夏場には、モチーフがゴロゴロある。ミンミンゼミ、ツクツクボウシ、ヒグラシ。特にヒグラシは、30年近くご無沙汰していたのだけど、何故か3.11以降、都心でもチラホラ鳴き声が聴こえるようになった。魔訶不思議な現象だ。

夏から秋かけては、さらに鳴く虫が増えて生録魂に火が付く。カンタン、エンマコオロギ、カネタタキ、ツヅレサセ。特定外来種で嫌われ者のアオマツムシもオイラの耳を和ませる。増えすぎるのは良くないが、鳴き声は悪くないと思う。そういえばオイラが子供の頃は、夏になるとクツワムシが騒音トラブルのごとくに鳴いていたものさ。今では一匹あたりかなりの値段で売られているのではないか。スイッチオンと鳴くウマオイも、都心では殆ど見かけない。いつしか鳴くことをスイッチオフにしてしまったのかも。

マンガ日本昔話のような、古き良きアニメの夜の定番の情景といえば、月夜の下に茅葺屋根の一軒家のシーンがある。大抵BGMで、フクロウが「ホウ」と啼く。茅葺屋根の古民家にも住んでみたいな、と思うのだけどオイラが憧れるのは、月夜の晩にフクロウの鳴き声が聴こえる暮らしだ。どうやらオイラは音フェチなのかも知れない。素敵なサウンドは、素敵な音楽なんだと思う。

ついこないだのことだが、現在住んでいるアパートで修繕的なトラブルがあって大家さんと電話で話す機会があった。多少込み入った相談になるので、ドキュメントとして通話を録音しようというアイデアが閃く。早速スマホに通話録音のアプリをインストールして、テストをした後で大家さんに電話をかけた。あにはからんや暖簾に腕押し。大家さんはこちらの要求を全て、快く了承してくれた。通話後、アプリで録音されたやり取りを再生するとバッチリ録れている。簡単な交渉に、重装備で臨んだオイラがコミカルで間抜けだ。こう浮世が複雑化してくると用心に越したことはないが、過ぎたるは猶及ばざるが如しということか。

そうえいば、3年前ガンで瞑目した妹と、死の直前、数回携帯電話で話をした。今考えたらどうってことない話しかしていなかったけど、通話の声を録音しておけば良かったのかも知れないな……。そんな事があってから、実家に電話をする時は、録音することにしたのである。といっても発心してから1度しか録音していないので、偉そうな事は言えないな。今、ふいに思い出したのだけど、昔のオノ・ヨーコさんのCMでこんなセリフがあったな。

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知らない人に話をするっていうのは随分勇気がいることだと思います。
私はそんなとき、「この人は宇宙にたった一人しかいないんだ、それでもう、二度と会えないかもしれないんだ」そう思うことにしています。
そうすると、何か、声をかける勇気が湧いてくるんですよね。

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後で、youtube辺りを探してみよう。見つかるといいな。

オンガク猫団(挿絵:髙田 ナッツ)

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