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富士ファミリー【オンガク猫団コラムvol.4】

待ち時間に人はどうやって過ごしているのか、ヒューマンウォッチングをしていると意外な発見がある。最近はやめてしまったけど、一昔前はやたらと映画の試写会の懸賞に応募していて、当選するとイソイソと行っていたものだ。得てしてそういう映画は、観たい作品じゃないことが多いのだけど。

試写会には、試写会のプロのような人たちがいる。開場して座席を確保するやいなや、即座にロビーや廊下に出て、物凄い勢いで自弁のおにぎりに食らいつくのだ。早食いコンテストでチャンピオンになる勢いで。目薬をさして万全を期す人もいるし、試写会タイアップのアンケートに、猛烈にペンを走らせて、さっさと片付ける強者もいるのだ。

ホントは、映画を観た後でアンケートに答えないとマズイヤツなんだけどね。とにかく試写会のプロには、無駄な動きがない。夏休みの宿題を初日から着手して、すぐに終わらせて、後は徹底的に夏休みを遊び倒すタイプに違いない。オイラはそう思う。

例えば風邪をひいた時、病院で順番待ちをしているようなことがある。こういう時、他の人はどうやって時間を潰すのかオイラはとっても興味がある。

イヤホンでラジオを聴きながら、競馬新聞に鉛筆で書き込みをしている爺さん。鼻クソをホジホジしながら、時代小説を読んでるようでページが全く進んでいないオッサン。隣席のオバサンに、嫁の愚痴をいう婆さん。外で煙草を吸ってきたはいいが、喫煙後の深呼吸が不十分で煙草臭い息を撒き散らす、杖をついた意地の悪そうな爺さん。

「自分一人で時間を潰すことができる能力を『教養』と呼ぶ」、という考え方がある。極端なことをいえば、時間を潰せるなら、なんでもOKというワケだ。オイラには、子供の頃からボーっとして、あっという間に一日が終わってしまう、というとんでもない必殺技がある。これは果たして教養なのか?

来年は、仕事の関係でオイラの正月休みは少ない。それゆえ、あまりボーっとしているわけにはいかないのだ。限られた時間の中、江島神社に初詣して、お参り後に野良猫たちと戯れ、楽しみにしている木皿泉脚本の「富士ファミリー 」を観る。これだけはきっちりやるのだ。後は、甘酒でも呑んでしっぽりと、かつ、ボーっとしてるとしよう。いいんだよね、だってこれ教養だもん。

オンガク猫団(挿絵:髙田 ナッツ)

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