見出し画像

村上春樹と村上龍 1

 僕は中学のときビートルズが好きになった。英語の授業で聴いて虜になった。聴いたのはビートルズにしては静かな「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」だった。それ以前にも、テレビやラジオで曲は耳にしていて、名曲がたくさんあることは知っていた。いざじっくり聴いてみると曲はキャッチーだし、レトロで味わい深いアナログなサウンドが気に入った。もともとレトロなものが好きだった。だが彼らの音楽から伝わってくる自由で豊かな発想に、もっとも惹かれた。メンバーの個性も面白い。

 周りにも勧めたが、一緒になってハマるほどの人間は見つけられず、叔父さんと話すぐらいだった。とうの昔に解散している海外のバンドにアツくなる人間は、田舎では稀だった。そのころ僕にとって文学は縁遠いもので、村上春樹も村上龍も知らなかった。

 まず出会ったのは村上春樹だった。高一か高二のころ。僕は当時、本屋に行ってはビートルズ関連の本や雑誌を片っ端から読んでいた。その流れで、「ノルウェイの森」と背表紙に書かれた本を見つけた。文庫本だ。作者は村上春樹……聞いたことあるかもしれないけど、知らないな。しかし「ノルウェイの森」というからには、小説だとしてもビートルズにまつわるエピソードがたくさん出てくるだろうと思って購入した。小説の中でビートルズがどのように出てくるか楽しみにしていた。小説の文庫本をわざわざ買うなんてことは、当時の僕にしては珍しかった。

 読んでみると、――ほとんどビートルズは出てこない。単なる昔の大学生の陰鬱な話じゃないか、と思った。台詞が多く文体も軽いので他の小説よりは読みやすいと感じたが、特に面白いとは思わなかった。当時は読解力がなかった。

 高校時代は、確か村上春樹はそれっきりだった。「ノルウェイの森」のビートルズが出てくる数行に心が躍ったが、あまりの登場の少なさに「何だこれ、オマケとして添えられている程度じゃないか。騙された」とも感じていた。あとはずっと音楽に夢中でバンドも組んだ。文学には、シャーロック・ホームズはそこそこ読んだが、他はチラホラぐらいにしか目をくれなかった。

 しかし大学生になってから、ある人がきっかけで文学に目が向くようになった。村上春樹にも再会し、そこから現在に至るまでの長い付き合いが始まった。

(つづく)

この記事が参加している募集

スキしてみて

もしよろしければ、サポートお願いいたします。励みになります。