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ブランド品はなぜ高いのか?バッグを分解した話

いわゆる高級ブランドは、本当にただ名前(ネームバリュー)によってバカ高い値段設定がなされているのか?

もう10年くらい前になりますが、実際にブランド物のバッグを買ってきてバラバラに分解、真に適正な販売価格はいくらくらいになるのかを検証してみたことがあります。

当時、某アパレルブランドで企画の仕事をしていた私は、デザイナー3名、取引先バッグ工場の職人さんとともに、クリスチャン・ディオールで買ってきた小ぶりのロゴボストンバッグ(20万円くらい)を分解。表地の張り合わせ部分までひっ剥がし、どこにコストがかかっているのか検証してみました。

以下がその際に判明した4つの主なコストアップ要因です。

①柄合わせ

本体に柄生地を使う場合。裁断したいくつかの生地を接ぎ合わせて立体物に仕上げますが、この接ぎ合わせる部分で柄がズレてしまわないようにする事を「柄合わせ」と言います。これをやると、生地に使えない部分(=捨てる部分)が出てしまうため、結果として生地代がかさみ、さらに目視でピッタリ柄を合わせるという手間賃もかかります。

<高級ブランドの秘技・柄合わせ↓>

<安いブランドの場合↓>

柄合わせがしてあると商品としての格が上がります。消費者目線では気にしていないかもしれませんが、やはり商品の醸し出すオーラは確実にワンランク上がりますし、そういうのは何となく伝わるものです。

②見えない生地

分解すると、表地の裏側に芯材(生地に張りやコシを出す)が貼ってありました。ここまではよくある技法ですが、剥がしてみるとさらに間にもう一枚、別の素材が挟み込んであります。ボストンバッグは曲線の多いシルエットなので、いい感じに素材に張りがないと形がビシッと決まりません。それに、使っているうちに剥離ジワ(※)が出たりします。

(※)剥離ジワ・・・生地裏に貼った芯材が所々剥がれてきて表面にシワが出てしまう現象

そのへんの対策として、わざわざ異なる素材を3枚重ねて張り合わせていたようです。さらに内装としてもう一枚生地を使っているので、生地の使用量だけでも普通のバッグの2倍~4倍になります。おまけにその見えない部分に使っている生地も、通常めったに使わないような上質なものでした。こういう見えない部分に手を抜かないことが「理由はわからんけど何となく感じる良い物感」「高級感」につながるわけです。

③最上級部位のみ使った革

革屋さんで「ルイ・ヴィトンで使った革の残り部分」を売っているのを見たことがあります。聞けば、トップブランドは最上級の革の中でもさらに一番キレイな部分のみ使う(※)ため、その残り部分が出回ることがあるそう。

(※)動物の革は首回りにはシワが、脚や腹には草や地面で擦れたキズがあります。そのため、同じ個体の中でも部位によって品質にばらつきがあり、中でも比較的キズが少なく最上級とされているのが背中側(背骨部分以外)です。

そもそもが最上級の個体ですから、トップブランドの使い残しとはいえ、めちゃくちゃ良い革質です。キズと言っても素人目には判別つかないレベル。それでも使わず残してしまうのは、利益や効率よりも「妥協しないこと」を貫こうとするブランドの姿勢でしょう。

④生地の面取り

バッグにはその構造上、2枚の生地が重なり合って出来ている部分が何ヵ所かあります。生地には厚さがあるため、この「重なり部分」には若干のゴロつきが出てしまいます。

通常、わずか1mmにも満たないこの段差は無視してそのまま製品化しますが、ディオールのバッグを分解してみて驚いたのは、この重なり合う部分の生地が全てキレイに「面取り」されていたことです。

おかげで生地のゴロつきは全く無くなり、手触りのよさはもちろん、バッグ全体のシルエットが滑らかに美しくなりました。革でバッグを作るときにはグラインダー(※)で面取りをすることはありますが、それより薄い布生地をわざわざ面取りしてバッグに仕立てるなんてことは聞いたことがありません。

(※)グラインダー・・・砥石を回転させることで物を削る機械。薄く柔らかな革や生地を均一に削るには熟練の技が必要。

以上①~④は、相当注意深く観察しないと気づかないような小さなこだわりですが、その効果は「見えない風格」となって消費者の所有欲を満たし、類似品との差別化を実現しているのだと思います。 

①柄合わせ

②見えない生地

③最上級部位のみ使った革

④生地の面取り

この他にもいくつか細かなこだわりポイントがありましたが、全て同じ仕様でバッグを作った場合の見積もりを日本のメーカーさんに出してもらったところ、とても売価20万円では納まりきらない値段になってしまいました。

【結論: 高級ブランドのバッグはお値段以上の価値がある】

単純な物の原価だけでも想像以上にかかっているのに、それ以外にも莫大な広告宣伝費やラグジュアリー感ある店舗・備品・什器にかかるコスト等を考えると、とても「バカ高い」値段設定とは言えません。安い物は安いなりの、高級品は高いなりの企業努力と創意工夫が凝らされているってことなんですね。


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