鵞足炎の発症メカニズムと臨床評価アプローチ
鵞足の解剖学
図1 鵞足の解剖学
1)より画像引用
鵞足とは、脛骨粗面の内側で扇状に広がり薄筋腱、半腱様筋腱、縫工筋腱が付着する部位をいいます(図1)。その形状が鳥の足に似ていることに由来します。
鵞足の深層では半膜様筋腱²⁾が付着しています。
鵞足構成筋は、下腿筋膜³⁾に付着します。腓腹筋の筋力が低下していると、鵞足構成筋が過剰に収縮して下腿筋膜の緊張を増強させて腓腹筋の筋力低下を代償し、鵞足炎を惹起する³⁾とされています。
鵞足構成筋と脛骨近位部にある膝内側側副靱帯の間には滑液包があり、鵞足滑液包(鵞足包)と呼ばれます。
鵞足のバリエーション
鵞足は一般に薄筋腱、半腱様筋腱、縫工筋腱の3腱で構成されると考えられています。しかし、解剖体の鵞足を調査した研究では、薄筋腱、半腱様筋腱、縫工筋腱の3腱(それぞれ1本ずつ)で構成されるのは102脚のうちの54脚(52.9%)であった⁴⁾と報告されています。実際には、鵞足を構成する腱には多くのバリエーションが存在しています(図2~図7)。
図2 鵞足①(薄筋腱、半腱様筋腱、縫工筋腱の3腱で構成)
ST:縫工筋腱,GT:薄筋腱, STT:半腱様筋腱
図3 鵞足②(半腱様筋腱2本)
SM:縫工筋,abSTT:半腱様筋腱に付帯するバンド, GM:腓腹筋
図4 鵞足③(半腱様筋腱3本)
fL:下肢筋膜,fGM:腓腹筋の筋膜
図5 鵞足④(半腱様筋腱3本、薄筋腱2本)
abGT:薄筋腱に付帯するバンド
図6 鵞足⑤(縫工筋腱2本、半腱様筋2本)
図7 鵞足⑥(縫工筋2本、薄筋腱2本、半腱様筋3本)
以上、4)より画像引用
薄筋腱や半腱様筋腱は前十字靭帯の再建術や膝蓋腱の修復に使用されることがあります(図8)。
図8 鵞足の解剖と手術
ユジカワ@整形Dr✖️イラストレーター様より
バイオメカニクスからみる鵞足炎の原因
鵞足炎を引き起こす原因として、下肢のknee in - toe outアライメントが挙げられます。knee in - toe outアライメントは、下腿外旋を強制されるため、それを制動する(下腿内旋作用のある)鵞足構成筋に過剰な伸長ストレスが加わることになります(図9)。
図9 knee in - toe outアライメントによる鵞足構成筋への伸長ストレス
knee in - toe outアライメントは、Q角の増大(図10)やスクインティングパテラ(膝蓋骨内側偏位、図11)を伴うケースが多く見受けられます。
図10 Q角(ASISと膝蓋骨中心から結んだ線と脛骨粗面から膝蓋骨中心を結んだ線がなす角)
5)より画像引用
図11 スクインティングパテラの例(左側で特に著明)
6)より画像引用
鵞足炎の病態は、鵞足構成筋の停止腱に加わる過剰な伸長ストレスが原因となる腱症と、停止腱間の摩擦(圧迫)が原因となる鵞足包炎の2つがある²⁾とされています。主にランニングやスポーツ動作時の慢性発症が多いです。
鵞足炎症例のランニングでは、foot strike期での下腿外旋やtoe out接地からの急激な足部回内運動と、それに続くmid support期での股関節内転・内旋や足部内側縦アーチ低下が特徴である⁷⁾とされています(図12、13)。
図12 ランニングの各相
8)より画像引用
図13 ランニングにおけるknee in - toe outアライメント
8)より画像引用
変形性膝関節症と鵞足炎の関連
内側膝OAでは、knee out - toe inアライメントが一般的です(図14)。
図14 内側膝OA(knee out - toe inアライメント)
鵞足炎がある内側膝OA群では、荷重時に大腿骨が内側偏位することで鵞足構成筋に伸長ストレスが加わっているとの報告¹⁰⁾¹¹⁾があります(図15)。
図15 鵞足炎群における荷重時の大腿骨内側偏位
11)を参考に作成
鵞足炎の臨床評価
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