見出し画像

仙腸関節の理学療法評価2023

🔻こちらは下記noteの2023年に加筆したアップデート版となります🔻

追記情報

2023/3/12
文章再構成
評価実技動画2本追加

腰痛の種類と分類

腰痛の種類¹⁾は以下のように、さまざま存在します。

腰痛の種類
・椎体
・接触脊椎
・椎弓板の嵌入
・脊椎分離症
・筋損傷
・筋スパズム
・筋不均衡
・トリガーポイント
・腸骨稜症候群
・コンパートメント症候群
・脂肪ヘルニア
・硬膜痛
・硬膜外叢
・棘間靭帯
・腸腰靭帯
・仙腸関節痛
・椎間関節痛
・椎間板内部損傷仙腸関節痛に関わる侵害受容器

腰痛診療ガイドライン改訂第2版では、腰痛を原因別に脊椎由来神経由来内臓由来心因性由来、その他に分類しています(図1)。

図1 腰痛の原因別分類
2)より画像引用

腰痛は、画像検査で器質的な変化を認める特異的腰痛と明らかな画像所見の異様を認めない非特異的腰痛に分けられます。

一般に、特異的腰痛は約15%非特異的腰痛は約85%の割合とされており、これはほとんどの症状が、画像所見で捉えきれないことを示唆しています(図2)。

図2 特異的腰痛と非特異的腰痛の割合
3)より画像引用

臨床においては、非特異的腰痛を4つに分類して病態を捉えるのが、現在の理学療法分野でメジャーとなっています。

非特異的腰痛の4分類
・椎間板性
・仙腸関節性
・椎間関節性
・筋筋膜性

この中で仙腸関節性の腰痛は、全体の約10%存在するとの報告⁴⁾があります。

10人に1人の腰痛患者の症状に対応できる意義はとても大きいのではないでしょうか。

この機会に学んでいきましょう💪

仙腸関節の機能解剖学

仙腸関節の安定性に関わる靱帯の付着部位と役割についてご紹介します(図3)。

図3 仙腸関節の安定性に関わる靱帯
5)より画像引用

腸腰靱帯
腸腰靱帯の機能解剖学については、下記の無料ブログ記事で詳しくご紹介しています。

前仙腸靱帯¹⁾
仙骨翼と仙骨前面から腸骨前面に縦に長く、横断方向に走行して付着します。仙腸関節前面の離開を制動し安定性に寄与しています。

仙結節靱帯¹⁾⁵⁾
上後腸骨棘と後仙腸靱帯から付着し、坐骨結節まで続きます。繊維は3部に分かれ、外側帯は上後腸骨棘ー坐骨結節、内側帯は尾骨ー坐骨結節、上方帯は上後腸骨棘ー尾骨を結びます。筋肉では、大腿二頭筋大殿筋多裂筋梨状筋と直接付着しています。仙腸関節のニューテーションを制動します。

短後仙腸靱帯¹⁾
仙骨の後側方に沿って腸骨結節と上後腸骨棘付近の腸骨まで付着します。また繊維の一部は骨間靱帯に付着し、仙腸関節の安定性に寄与しています。

長後仙腸靱帯¹⁾⁵⁾⁶⁾⁷⁾
正中・外側仙骨稜(S3,4領域)から上後腸骨棘まで付着します。多裂筋深層部胸腰筋膜との連結があります。仙腸関節のカウンターニューテーションを制動します。圧痛所見がよくみられる靱帯です。

仙棘靱帯¹⁾⁵⁾⁷⁾
仙骨と尾骨の外側面から坐骨棘に付着します。薄い三角形状であり、仙結節靱帯とともに仙骨のニューテーションを制動する役割があります。

骨間仙腸靱帯¹⁾
仙骨粗面と腸骨を水平に結びます。強力なコラーゲン繊維の集合から構成され仙腸関節の安定性に大きく寄与しています。

仙腸関節の2つの役割

仙腸関節には主に以下の2つの役割⁵⁾があります。

仙腸関節の役割
・上半身の重量を下肢に伝達する
・衝撃緩衝作用(主に踵接地時)

上半身と下半身をつなぐ骨盤帯に存在する仙腸関節の役割はとても重要です。

仙腸関節は荷重負荷や床半力を受けとり負荷を分散させたり、骨間靭帯によって緩衝作用を有する⁷⁾と考えらています。

骨盤帯の不安定性やマルアライメントなどによって、荷重伝達がうまく機能しなければ隣接する腰椎や股関節だけでなく、全身へメカニカルストレスが波及してしまいます。

仙腸関節の運動学

仙腸関節の小さな動きのなかには以下の4つの運動があります。

【仙腸関節の4つの運動】
・ニューテーション
・カウンターニューテーション
・インフレア
・アウトフレア

・ニューテーション(図4)

図4 ニューテーション

ニューテーションとは、矢状面上で、腸骨に対して仙骨が前傾または仙骨に対して腸骨が後傾する運動をいいます。仙骨および腸骨の運動は同時に起こる場合もあります。

・カウンターニューテーション(図5)

図5 カウンターニューテーション

カウンターニューテーションとは、腸骨に対して仙骨が後傾または仙骨に対して腸骨が前傾する運動をいいます。仙骨および腸骨の運動は同時に起こる場合もあります。

・インフレア(図6)

図6 インフレア

水平面上で、寛骨が内方へ回旋する運動をいいます。この時、ASIS(上前腸骨棘)は内側へ、PSIS(上後腸骨棘)は外側へ偏位します。

・アウトフレア(図7)

図7 アウトフレア

水平面上で、寛骨が外方へ回旋する運動をいいます。この時、ASIS(上前腸骨棘)は外側へ、PSIS(上後腸骨棘)は内側へ偏位します。

インフレアおよびアウトフレアは、単独の運動として起こることはないとされています。

インフレアでは矢状面上での寛骨の前方回旋(前傾)、アウトフレアでは矢状面上での寛骨の後方回旋(後傾)との複合運動で生じると考えられています。

多くの文献や書籍では、以上の4つの運動が紹介されている場合が多いですが、実際には、前額面上でみる寛骨の下方回旋および上方回旋も知っておく必要があります。

・寛骨の上方回旋および下方回旋(図8)

図8 寛骨の上方回旋および下方回旋

前額面上で、寛骨の上方回旋は左右の腸骨稜は近づいたアライメント、下方回旋は左右の腸骨稜は離れいわゆる骨盤が開いたようなアライメントになります。
寛骨の下方回旋位が腰痛症状を引き起こす要因となっているケースが臨床でも多くみられます。

仙腸関節の運動を制御する筋肉および靱帯

仙腸関節の運動を制御する筋肉および靱帯について以下に整理します。

①ニューテーションを制御する筋肉および靭帯

ニューテーションを制御する筋肉および靱帯
・仙結節靭帯
・仙棘靭帯
・前仙腸靭帯(前上方繊維束、前下方繊維束)
・大腿二頭筋

仙結節靱帯は、表在繊維が大腿二頭筋腱に付着します。また、大殿筋梨状筋多裂筋とも直接付着します。臨床思考するうえで大事な知見です。

②カウンターニューテーションを制御する筋肉および靭帯

カウンターニューテーションを制御する筋肉および靭帯
・長後仙腸靭帯

カウンターニューテーションを唯一制動することがわかっているのが長後仙腸靭帯です。侵害受容器が豊富にあり、PSISの直下で圧痛所見がみられやすいです。

これらの靱帯や筋肉にタイトネスやスパズムがみられる場合は、仙腸関節運動の制限因子となり、ルーズニングを起こしている場合は、骨盤帯の不安定性に繋がると考えられます。

仙腸関節の安定性に寄与する靱帯及び筋筋膜

仙腸関節の安定性は、以下の靭帯および筋筋膜の制動によって保たれています。

仙腸関節の安定性に寄与する靭帯および筋筋膜の一覧¹⁾⁵⁾⁷⁾⁸⁾

このうち、骨間仙腸靱帯後仙腸靱帯前仙腸靱帯は特に安定化に寄与しています。

仙腸関節に不安定性を抱える例では、靭帯の張力が十分に得られていなかったり、筋・筋膜の活動不全や不均衡を生じている可能性が考えられます。

前屈動作における仙腸関節の運動学⁵⁾

【前屈初期~前屈最終域】
前屈開始直後は、骨盤帯が後方へシフトします。この時、仙骨はニューテーションの位置にあります。
そこから、左右の寛骨が大腿骨上で前傾し、腰椎が仙骨上で屈曲するにつれて、上後腸骨棘は頭側(上方)へ動いていきます。
体幹の屈曲につれて、仙結節靭帯大腿二頭筋胸腰筋膜の緊張が高まり、仙骨のニューテーションが終了します。ニューテーション終了後も、寛骨は前傾を続けるため、相対的にカウンターニューテーションが起こってきます。

【前屈最終域】
体幹の最終屈曲位では、仙結節靭帯、大腿二頭筋、胸腰筋膜の緊張が高まり、特にハムストリングスの緊張が増大するため、仙骨はカウンターニューテーションの位置にあると考えられています。

【前屈最終域~直立位】
前屈最終域から直立位に戻るまでの過程では、仙骨はニューテーションの位置を保ったまま、体幹は伸展、左右の寛骨は後傾していきます。

前屈動作では、股関節屈曲約60°(可動域の約50%)、腰椎屈曲45°(可動域の約90%)の運動が起こる⁷⁾とされています。股関節や腰椎に屈曲可動域制限がみられる場合は、仙腸関節への伸長ストレスが増大している可能性を考慮します。

後屈動作における仙腸関節の運動学⁵⁾

ここから先は

6,771字 / 17画像

¥ 1,200

サポートいただいた分は、セラピストの活躍の場を創ることに還元させていただきます。よろしくお願いします。