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#286【ゲスト/編集者】講談社の各編集部門を渡り歩いての挑戦

このnoteは2021年12月17日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。


マンガ誌・WEB誌・学術書を経て、再びマンガ誌へ

渡部:フォレスト出版チャンネル、パーソナリティの渡部洋平です。今日は昨日に引き続きまして、講談社の井上さんにお越しいただいております。昨日の放送の最後でも言っていたんですけど、想定以上に長い内容になってしまったので、後からオープニングを追加しているので、実は井上さんはいらっしゃらないんですけど、昨日も楽しい内容であり、今日も楽しみですね。

森上:いや、本当そうですね。どんな爆弾発言が出るか、井上節が出るかって、あんまり関係ないんだけど、ちょっとこっちがドキドキワクワクしちゃいますね。

渡部:そうですね。いつもと違って、オープニングをインタビューが終わった後に撮り直しているんですけど、実際にカットしなきゃいけないことがあったっていうくらい(笑)。「これはお話して、大丈夫なんですか?」みたいな。

森上:そうそう(笑)。だから、いつもとは違うオープニングになっていますが。昨日に引き続き、井上さんが講談社に入られて、漫画の編集者をやりつつ「web現代」に行かれたところまでお話をお伺いしているので、今日はその続きということで。

渡部:そうですね。もし今日の放送から確認された方はぜひ、昨日の放送をチェックしてみていただくといいのかなと思います。それでは参りましょうか?

森上:はい。よろしくお願いします。

渡部:では、講談社の井上さんです。今日も楽しんで聞いてください。よろしくお願いします。

~切り替わり~


森上:いや、すごい話ですね。で、その後に?

井上:次は学術書に行きます。

森上:学術書だったんですか?

井上:はい。「選書メチエ」と言う、今もあるんですが。

森上:ありますね。

井上:先生方に書き下ろしで学問の入門書を書いてもらって、学術書にします。

森上:お付き合いがある著者さんは大体、大学の先生が多いんですかね?

井上:多いですね。

森上:なるほど。そこで、今度は棒組みの……。

井上:そうですね。今度はそこで、ちゃんと組んだ文字だけの本を作ることになるという。

森上:なるほど。おそらく、僕はそのときはまだ出会ってないですね

井上:ですね。「選書メチエ」のときは。もしかしたら間接的にお目にかかっているかもしれないですけどね。神田昌典さんに「選書メチエ」のくせに原稿を依頼に行ったりしていたので。

森上:そうなんですね! へー!

井上:結構早い頃だと思います。

森上:神田さんの「メチエ」は出ているんですか?

井上:出なかったです。

森上:出なかったんだー!

井上:原稿が出来上がったところで、神田さんがやる気をなくしてしまって。

森上:あらあら。

井上:なんで原稿はあったのに本にしなかったんだろう。

森上:原稿あったんですか! 「メチエ」用の。

井上:あったんです。

森上:えー。それは幻の原稿ですね!

井上:ですね。あれ、どうなっちゃったんだろう?

森上:テーマは、マーケティング的なテーマですか?

井上:だと思います。マーケティングの教科書で、いわゆる経営学入門的なところで、一般向けに寄せた企画にしたので、神田さんも企画を受けてくれたんだと思います。

森上:そうでしたか。企画を受けて、原稿は上がったけど、本としては出なかったという。

井上:企画は受けてくれて、もちろん神田さんが書いたんじゃないんですけどね。事務所の方が書いて、神田さんが確認して。恵比寿のてっぺんに行きましたよ。

森上:そうですか(笑)。原稿を取りに?

井上:そうです、そうです。だから、ご縁があったはずです。

森上:そうでしたか。なるほど。「メチエ」では、どのぐらいやっていたんですか?

井上:「メチエ」は割と長くて5年弱ですね。2004年ぐらいまでいたので。

森上:それだと、何冊ぐらいやった感じですか?

井上:数十冊、そこらですかね。メチエでは、「年に4冊ぐらい作れ」って、言われていたんですけども、最初のうちはそこまでできなかったんですが、最後のほうは毎月作れるようになりました。

森上:そうですか。それでその後が、また単行本ですか?

井上:その後、漫画に戻るんですよ。もうひどい。

森上:漫画に戻るんですか!?

井上:古巣の「アフタヌーン」にまた戻されて。

森上:へー。

井上:だから、やったことをリセットさせられるという。本当にひどい。

森上:(笑)。漫画「アフタヌーン」に戻って、デスクか何かで?

井上:デスクなので、企画も通しやすくなり、しかもフワッとしていた編集長がいなくなって、もうちょっとマシな人になったので、今度は待望の新連載を起こしました。

森上:そうですか! もし支えなければ、ご担当された漫画家の先生とか、作品とか、お聞きしてもいいですか?

井上:って言っても、本当に十何本も起こしたのですが、売れたのは2~3本だけなんですよ。一番売れて話題になったのは、たぶん『シドニアの騎士』というタイトルで、弐瓶勉さんという方が書かれたSF漫画ですね。アニメや映画にもなりました。よかったーと思います。

森上:そうですか。アニメとか映画の話になるので、ちょっと興味があるんですけど、変な話、いわゆる原作からの横展開のビジネスって、ある程度マネタイズはされるものなんですか?

井上:いや。そうでもないんですよ。講談社がアニメやドラマに関わるときは、意外と製作委員会に入らなかったりします。

森上:そうなんですか。

井上:まあ、入る場合もあるんですけれども、原作だけ渡して、「あとはよろしく」っていうことも結構ある。

森上:製作委員会に入ると、そこの部分でビジネスとして。

井上:細かく関与する代わりに、売れた暁には売り上げが戻ってくるということになるんですけど、原作だけいただいて、「あとはよろしく」っていうのも、うちの会社はよくやりがちという。

森上:そうなんですね。それで、「アフタヌーン」では何年間ですか?

井上:4年ですね。

森上:じゃあ、その4年間は、学生時代から夢見ていた、漫画編集者としては一番楽しい。

井上:そうですね。いろんな企画ができて、とても充実していたのですが、そもそも私が「アフタヌーン」に戻された理由っていうのが、「アフタヌーン」で本を作るっていう、謎の指令だったんですよ。ひどくないですか?

森上:本を作れって? 普通の単行本をですか?

井上:はい。「アフタヌーン」で、新書のシリーズを作ったら、面白いんじゃないかって、誰か漫画部門の偉い人が思いついたらしく。新書ブームがあった頃ですね。フォレストさんも新書を作られましたし、2000年代中盤の各メディアが、新潮社とかいっぱい出していた頃……。

森上:ありました、ありました。

井上:そのときに「アフタヌーン」編集部の人が、「アフタヌーン新書」って出したら、面白いんじゃねと誰かが言い出し、それで本を作っていた私が呼ばれ、作らされて。

森上:「アフタヌーン新書」は完全に棒組みの、「講談社+α新書」と競合の……。

井上:「講談社+α新書」と似た感じで、あれよりも薄くてわかりやすいという。「日本で一番わかりやすい漫画発の新書。サブカルのラインナップをいっぱい入れるよ」っていう、そういうかたちにして作りました。

森上:そうだったんですか。それが、それが2005~2006年くらいですかね。

井上:そんな感じですね。

森上:あの頃すごかったですもんね。新書ブームが。

井上:その中に紛れて作って。そこそこ面白かったです。漫画家を著者にする新書とか、なかなかないので。そんなものを作ったんですけど、何がひどいって、私は毎月、新書を1冊作りながら、漫画の担当を7本ぐらい回していたので。

森上:うわー……。それはそれで地獄ですね。

井上:おかしいなあと。隣の講談社「現代新書」の人は、2か月に1冊、新書を作っているのに、なんで俺は毎月新書を作って、かつ、漫画の担当も7本も8本の回しているのか……と。

森上:(笑)。それはそれで、業務的に結構な地獄でしたね。

井上:本当にひどい目に遭いましたね。で、その「アフタヌーン新書」は12、13冊作ったところで、売れないので打ち切りということになりまして、なくなっちゃったんですけど。

森上:そうでしたか。漫画家さんが著者になって、文字原稿だけでやるとか、そういうことだったわけではなく、漫画も?

井上:漫画も入れたりして。もちろんライターに語りおろして作らせるスタイルなんですけども。そういうかたちで、バリエーション豊かな新書を作って、一定の役割を果たせたんですが、なくなるときの上司の言い方がひどいわけですよ。「お前がやりたいというからやらせてやったけど、やっぱりダメだったな」という感じで……。

森上・渡部:(笑)。

井上:はて? 俺はやりたいって言ったのかな?って(笑)。

森上:すごいですね(笑)。

井上:「やっぱりダメだった」とか言い出して……。

「クーリエ・ジャポン」での新たな挑戦/ブルーバックスでの挑戦

森上:でも、ずっとお聞きしていると、井上さんは新規のものを結構やらされる感じですよね。

井上:そうですね。基本的に新規事業の立ち上げが大好きな人間で。

森上:そうなんですね。で、その後の単行本のときに僕がお会いしているんですよね?

井上:そうですね。それで、漫画部門の上司にはもう嫌気がさして、「もう漫画なんか二度と嫌です。書籍に戻してください」と言って、学芸書の部署に行って、それで森上さんと出会うという。

森上:そっかそっか。そうでしたよね。そこで書籍を作っていて、で、移動されたのが、また新しいところへのチャレンジでしたよね?

井上:そうですね。今度は2010年ぐらいからいっぱい本を作って、2013年は年間一人で20冊を作って。

森上:すごい。それは大変だわ。2013年で20冊作って、その後……。

井上:2013年に講談社がノンフィクションから撤退してしまったんです。今もかたちとしてはあるんですけれども、有名人の語りおろし手記みたいなものはあるんですが、取材して作るノンフィクションはやめようっていうことになって、ノンフィクションを作る部署も解体になったので、私は「クーリエ・ジャポン」という雑誌に引き取られたということになります。

森上:またそれ「クーリエ・ジャポン」さんのチャレンジだ。元々「クーリエ・ジャポン」っていうのは、紙の雑誌でありましたね。

井上:そうですね。自分も紙の雑誌の「クーリエ・ジャポン」に入れてもらいました。

森上:あ! 当時はそうだったんですね。紙だったんですね。それで、ウェブに変わりましたよね。完全ウェブ移行。あれが何年ですか?

井上:それが2015年ですね。

森上:いやー、それがチャレンジだよな。

井上:だから、ようやく「クーリエ・ジャポン」っていう雑誌の意識高い系に来て、自分は英語は一切わかんないけど、それさえバレなければ、もう楽勝だなと思っていたら……、もうバレてはいたんですけども。

森上:(笑)。

井上:「この“クーリエ・ジャポン”っていうのは紙をやめて、ウェブに移行することになった。ついては、お前、編集長になってそれをやれ」っていう。まあ、要するに廃刊処理役ですね。「はい、休刊します」っていう編集長。

森上:いやいやいや。でもあれは、紙の雑誌じゃなくて、ウェブだけの雑誌になって、ちゃんとウェブ雑誌としてだけで、生産性が上がったっていう有名な雑誌ですよね。

井上:なんとか回りました。よかったです。

森上:あれはすごいですよね。今もちゃんと続けられていますもんね。

井上:すごいですね。私がやっていた頃に比べても、何倍にも定期購読が付いて、言ってしまうと、月に1000円ですかね。それを払ってくれる人が毎月1万人いれば、それだけで、名目上の収入は簡単に想像できるわけで。全然回りますよね、ウェブメディアとしては。

森上:本当にそうですよね。ウェブ雑誌として本当にしっかり、紙なしで行くっていうところの、もう先駆者ですもんね、「クーリエ・ジャポン」って。

井上:そういうことですね。当時は自分も一応、反対派でしたけれども、紙の雑誌としては実売2万とか、そんなもんだったら、もう死ぬしかないんですけども、たぶんサブスクリプションのウェブメディアで会員1万人とかだったら、大勝利なので、そこに早めにちゃんと切り替えられたというのは、その時の経営者は偉かったんじゃないかな、と。

森上:いや、すごいですよね。そこの編集長としても、井上さんは携われて。

井上:なんとなくひどい目に遭っている感じですけれども。

森上:(笑)。新規事業は毎回、痛い目に遭いますね。

井上:そう。何か新しいものをやっては怒られるっていう。

森上:(笑)。それで、「クーリエ・ジャポン」の編集長をやられて、そこからまたすごいところに行きますよね? 「ブルーバックス」という……。

井上:はい。行きます。

森上:「ブルーバックス」は伝統的なレーベルですよね。

井上:理系のほぼ専門書なんですけど、入門書と称して作るシリーズで。偉い人としては、「井上を書籍部門に戻してあげるよ、でも、皆が行きたい書籍には空きがないので、一番辛いところだったら空きがあるけど、どう?」って感じで入れてくれて。

森上:(笑)。それがあの「ブルーバックス」だったんですね。

井上:そうですね。

森上:いや、また「ブルーバックス」は、「ブルーバックス」で、「メチエ」とは違って、科学者と言うか、そっち系の先生方とのお付き合いが始まるわけですもんね。

井上:そうですね。打ち合わせ内容も、自分で作っている本の内容も、一つも理解できないまま校了まで行くっていうのが……、相当辛いものがありました。

森上・渡部:(笑)。

森上:結構出てきますもんね。計算式とか。

井上:もう何をやっているか、本当に全然わからない。

森上:でも、手堅いですよね。あのジャンルと伝統と歴史を兼ねて。

井上:著者との関係性と校閲のシステムもそうですけども、そういうことが長年にわたって、できているので、それなり書籍を作った経験がある人間ですら、何をやっているかわからないで作るということは、新規さんではできないですよね。

森上:そうですよね。素晴らしいですよね。そして、やっとたどり着きました。今の、今度はまた。

井上:はい。「コミックDAYS」に移るということです。「ブルーバックス」編集部はとてもいい編集部で、みんないい人ばっかりだったんですけども、「すみません。私として本当に何をやっているのかわからないものを作るのは、マジ無理なので、出してください」っていうことで。これは恥ずかしながら、講談社に入って初めて自分から出させていただいて、古巣の漫画に戻してもらったということです。

森上:なるほどね。

井上:で、古巣の漫画に入れてくれて、「よし。じゃあ、僕は『モーニング』編集部で、いろんな漫画の編集をしちゃうぞ」と思ったら、偉い人にまた呼ばれて、「お前はどうやらウェブメディアの経験が豊富なようだから、『コミックDAYS』っていうサービスの担当をしろ」っていうことで、「え~」みたいな感じで今に至ると。

森上:(笑)。「コミックDAYS」自体は、立ち上がりがいつだったんですか?

井上:立ち上がりは、2018年ですから、自分は立ち上がりには関与していないわけですね。

森上:なるほど。立ち上がってちょっとしてから、二代目編集長的な感じで。

井上:そういうことですね。二代目ですね。2018年スタートで、始まって2年後の2020年から自分が引き継いだという恰好です。

森上:そうでしたか。

井上:立ち上げた人間はものすごく優秀な人間で、漫画編集者としても圧倒的な実力を持っているものですから、どうやら偉い人は、その人に漫画編集者として漫画をいっぱい作ってほしかったみたいな感じですね。なので、「『コミックDAYS』の管理とか、運営とか、面倒くさい仕事を誰か別の奴に押し付けて、初代編集長は編集者として、いっぱい漫画を作って」っていうことでした。

森上:(笑)。

井上:そういうカラクリだったみたいですね。

森上:(笑)。そこは謙遜をされているんでしょうけど。その「コミックDAYS」について、いろいろとお話をお聞きしたいんですけど、あれはもう完全に読み放題サービスって考えていいんですか?

井上:そうですね。サブスクリプションサービスをやっていて、講談社の漫画、雑誌、19紙が読み放題という、唯一のサービスだと思います。

森上:わかりました。これについては、もっといろいろとお聞きしたいのですが、ちょっと時間がなくなってきましたので、明日またお聞きしたいなと思っております。

井上:恐れ入ります。

渡部:はい。今日もかなりいろいろなお話をしていただきまして、社外秘レベルの話と言いますか、たぶんカットしている、本当に公開できないようなお話もいろいろとしていただいております。

井上:すみません。

渡部:楽しい時間を森上、私は過ごさせていただきました。井上さんには、また明日ゲストにお越しいただけるということで、次は、今日ちょっと触れた「コミックDAYS」について詳しくお伺いしてまいりたいと思います。「コミックDAYS」のURLを貼っておきますので、興味ある方はチェックしていただければと思います。それでは井上さん、今日はどうもありがとうございました。

井上:ありがとうございました。

森上:ありがとうございました。

(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)


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