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【ネタバレ注意】スポーツドクターが分析! 映画「THE FIRST SLAM DUNK」と自己存在感

こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。
 
昨年12月3日に公開された話題の映画「THE FIRST SLAM DUNK」は、もうご覧になりましたか?

 「週刊少年ジャンプ」での連載時、ちょうど高校生だった私たち団塊ジュニア世代はもちろん、現在、高校生の娘も大ファンという、世代・国境を超えて人気を誇る名作が26年ぶりに映像作品として復活。私も年末に娘と一緒に観に行ってきました。
 
公開前から声優陣が一新されたとか、主題歌が当時のものが良かったなどと、さまざま意見が飛び交っていましたが、個人的には、オープニング曲は私が学生時代に大ファンだった元・THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのチバユウスケが率いるロックバンドThe Birthdayが担当、エンディング曲は娘世代にも人気のロックバンド10-FEETが担当するという、これまたそれぞれの世代に突き刺さる座組みにうれしくなった次第です。
 
さて、そんな話題の映画「THE FIRST SLAM DUNK」を公開1カ月で計8回鑑賞した(2023年1月5日時点)という方がいます。
 
その人物とは、40万部超のベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者で、国内随一のスポーツドクターとしても知られる辻秀一先生です。

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辻先生の専門分野「応用スポーツ心理学」の観点から『スラムダンク』を説き明かした同書は、2000年に発売以来、多くの読者に読み継がれている超ロングセラー作品です。ちなみに、辻先生は、ご自身でもプロバスケットボールチーム「東京エクセレンス」のヘッドコーチを務め、常勝チームにつくり上げた経歴の持ち主でもあります。
 
そんな辻先生が、最新映画「THE FIRST SLAM DUNK」をどのように分析したのか、とても気になるところです。
 
そんななか、2023年1月5日、辻先生がご自身のFacebookページでご自身の見解を披露している投稿があり、辻先生ならではの視点で分析されています。今回、辻先生ご本人にご了解いただき、その投稿内容をこのnoteで特別に公開できる形となりました。

まだ映画をご覧になっていない方には一部ネタバレになってしまう箇所があります。その旨をご承知おきの上、以下を読み進めてください。

2023年1月3日でちょうど1カ月が経ちましたが、8回観ました。漫画は付箋を貼って読むことができましたが、映画には付箋を貼れないので何度も観るしかありません。今現在の感想を以下に書きます。

あなたの代わりはどこにもいない!

“あなたはあなたでいい”というメッセージが映画「THE FIRST SLAM DUNK」の強いメッセージだと思う。
 
その全てを表す言葉がリョータのお母さんが湘南の海で山王工業戦後にリョータに向かって述べる『おかえり』という一言に集約されていると感じた。映画の中で「○○の代わり」をリョータに求めていた母が「リョータはリョータでいいのだ」と気づいたからこその言葉だった。過去思考と比較思考から脱却し、その人の今を見つめる視点をお母さんは見つけたのだ。その瞬間のお母さんは、それまでと違って極めて穏やかだった。あの表情こそがわたしが求めている人のありたい姿だ。だから、このシーンが一番好きだった。
 
これは漫画にもあるが、ゴリことキャプテンの赤木も、河田兄と比較して囚われることになる。三井がそこで『河田は河田、赤木は赤木』と呟き、『オレは誰なんだよ!?』と叫ぶシーンも印象的だ。「人は誰かと何かと比較することでしか己を知ることができない」という恐れを持って生きていることを示唆する。それこそが、自己肯定感の無限ループに陥る怖さだ。
 
自分の生い立ちにその芽を持つ宮城リョータ、怪我でバスケの道を外れ挫折のある三井寿、そして、まじめで優等生の赤木剛憲、ほとんど全ての人の代表であり象徴でもある3人の葛藤が伝わってくる。そうした彼らが「自分は自分でいいのだ」と気づいていく物語がスラムダンクだ。それが自己存在感の生き方につながる。
 
一方、流川楓と桜木花道は、誰かと比べることのない己の中の自己存在感のエネルギーを強く持っていることが魅力的だ。だから、失敗や挫折に強い。流川の原動力はチャレンジだ。あらゆる状況の中で自分自身にチャレンジすることの喜びがコアにある。花道は何と言っても、圧倒的に一生懸命の喜びが揺るぎない原動力となっている。チャレンジも一生懸命も自己完結型の内発的エネルギーだ。2人のこの圧倒的な自己存在感に引き込まれるのは、私だけではないはずだ。
 
湘北高校ベンチくんが花道に試合中、念を送るとき、『凡人が考えそうなこと、凡人は困るぜ』の言葉を花道がかけると、『いいだろ、凡人なんだから』と答えるシーンも印象的だ。
天才花道もベンチくんの凡人も、社会常識が作り出した「比較」の概念だ。そのレッテルが自己肯定感を下げている。しかし、ベンチくんのその言葉こそ、「自分は自分なのだ」との思いを感じる。自己存在感のある一言だ。
 
今一つ改めて気づいた印象的なことは、安西先生が生徒でありプレイヤーの花道、流川、ゴリ、三井、木暮、宮城をちゃんと「君付け」で呼んでいることだ。なぜか新鮮さを今さらながらに感じるのは私だけだろうか。コーチのプレイヤーに対するリスペクトが伝わり、とても気持ちがよかった。
 
さらにもう一つ改めて印象に残った言葉が『くそ〜』と『ちくしょー』だ。最近はあまり耳にしない言葉だ。リョータが上手くいかないときにバイクで繰り返す『くそ〜』、背中の痛みで、ベンチ横でうつ伏せになっている花道の『ちくしょうー』がなぜか新鮮だった。
最近は、多くの人が(壁や困難に)向き合わずに安易な楽ちんを手に入れるようになっている。これを「偽フロー状態」と呼んでいるが、携帯(スマホ)のおかげでいつも楽な世界をポケットに持ち歩ける結果、現代社会は逃げてごまかす傾向にある。
この2つの言葉(くそ~/ちくしょー)は美しくないが、困難にしっかりと向き合い情熱のあるもののみに存在する。だからこそ、最近は耳にしにくくなった新鮮味のある言葉なのだ。2人から発せられることで、この強く生きる思いが回帰されて懐かしい。
 
最後にそもそもなぜ「THE FIRST」なのか? 私のように漫画を読み込み、そもそもの「スラムダンク」ファン、アニメで陵南戦までを知っているファン、そして、名前だけを知っている人や全然知らない人たち。そのすべてが2022年12月にこの映画と出会う。私もそうだ。それぞれ全ての人にとって初めての「スラムダンク」なのだと思う。それがすばらしい。ありがとうございます、井上雄彦先生。
 
ちなみに、自分は世紀の歴史的な大試合であるこのバスケットボールの湘北高校対山王工業の試合が好きなのか? 登場する花道をはじめとするキャラクターたちが好きなのか? 答えのないこの問いが、この1カ月間、頭の中を巡っている。あと10回は観て、自分に問いかけ続けたい。
 
出典元:辻秀一Facebook(2023年1月5日投稿記事)
https://www.facebook.com/tsuji.shuichi/posts/pfbid02zVvAbS7v59p3wi7eg5pRezmu25ai4fDCLoSqzvqWNTphVVwiobj2WsyEuEMG3ZsKl

いかがでしたか?
 
辻先生の投稿原稿内に出てきた「自己存在感」というキーワード。近年、現代社会に広まっている「自己肯定感」とは違います。このキーワードが気になった方、その違いや本質を知りたい方におすすめの、辻先生の著作があります。

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