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齋藤孝先生最新刊の「まえがき」全文公開

フォレスト出版の石黒です。

書店がほぼ通常営業になり、ようやく日常が戻りつつある6月下旬、私にとっては久しぶりの担当書籍である『図解 渋沢栄一と「論語と算盤」』が発売になりました。

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著者は、言わずと知れたベストセラー作家・齋藤孝先生。
渋沢栄一の肖像が紙幣に刷られる日が来ることを密かに夢見ていたという齋藤先生でしたが、とうとう、2024年度から福沢諭吉からバトンを受け取る形で渋沢栄一が新1万円札の肖像になることが決定しました。
また、来年の大河ドラマの主人公も渋沢栄一に決定です。

そんな最注目の人物から、私たちは何を、どのように学べばいいのでしょう?
そのヒントが書いてある本書の「まえがき」を、齋藤孝先生から特別に許諾をいただいたうえで、全文公開させていただきます。


まえがき――なぜ今、「渋沢栄一」なのか?

■渋沢栄一が現代を見たら何を思うか

 2024年、1万円札の肖像が福沢諭吉から渋沢栄一に変わります。
明治という時代をつくり、日本の方向性を決めた2人がバトンタッチするのは素晴らしい選択だと感じます。
 渋沢栄一は江戸時代の末期に生まれ、明治時代に近代国家を建設するうえで大きな働きをして「日本の資本主義の父」と呼ばれます。生涯に500もの会社を設立し、資本主義(商工業)の発達に尽力して、日本の経済の礎を築きました。
「経済」とは「経世済民」を略した言葉で、「世の中をよく治めて民衆を苦しみから救う」という意味をもちます。つまり経済は、私たちを幸せにするためにあるのです。その実践を主導したのが栄一でした。
しかし、もし栄一が現状の日本を見たら、「私はこんな未来のために働いたのではない」と言い、次のように続けたはずです。
「私が行ったのは、みんながお金を少しずつ出し合って会社をつくり、そこで得た利益をみんなが受け取れるようにすることだった」
 幕末に海外を視察した栄一は、スエズの地で市民たちが小口の投資をして運河をつくっている様子を見て驚嘆しました。国民一人ひとりがお金を出し合えば、そして銀行や会社(合本組織)というシステムがあれば、国家のスケールを超えるような大事業ができることを知ったからです。
 しかし、栄一は今の日本に別の驚きを覚えるでしょう。大企業が事業を独占して利益を上げ、富裕層たちがお金を増やす一方で、貧しい家庭が増え続けているという現状に対してです。
 栄一は「1970年代を思い出せ」と言うかもしれません。1970年代は一億総中流といわれた時代です。ところがその後、バブル経済とその崩壊、平成という30年を経て、富める者と貧しき者の格差が拡大してしまいました。栄一がこの時代に生きていれば、きっと経済界のリーダーとして政府に独占を禁止する法案を通すこと、税制を改革することを直言し、みんなが利益をシェアできる社会に向けて動いたのではないでしょうか。

■経済界と『論語』界の巨人に学ぶ

 もちろん、「たら」「れば」を言ったらきりがありません。しかし、少なくとも渋沢栄一がもつ公正な経済感覚は、現代に生きる私たちにとって不可欠なものであることは間違いありません。
 そして、この公正の柱として栄一が学び続けたものが『論語』でした。
 江戸時代の武士や商人たちは皆『論語』を知っていましたが、栄一も『論語』の教えを重んじた時代に幼少期を過ごし、その後も先生について学び続けました。
 そして、算盤(経済)は『論語』によって支えられるものであるという独自の解釈を得て、「『論語』で商売をやってみせる」という思いに至り、有言実行しました。
 私は『論語』を現代語訳し、関連書もたくさん出していますが、栄一ほど、経済活動に『論語』を活用した人は知りません。『論語』の祖国、中国にもいません。
 資本主義を、その対極にある『論語』に基づき、自分の身を懸けて実践しました。
 これは2500年にわたる『論語』の歴史を見渡しても特筆すべきことです。栄一は経済界の巨人ですが、『論語』界の巨人でもあるのです。
 こうして栄一は『論語』の可能性を大きく広げました。まさに彼の代表作である『論語と算盤』というタイトルがすべてを言い表しています。

■学び、実践に活かす

 私は『渋沢栄一とフランクリン』(致知出版社)という本で、アメリカ建国の父ベンジャミン・フランクリンもまた倫理と資本主義を両輪に国づくりを進めた人としてとらえました。フランクリンと渋沢栄一の2人を押さえておくことが、これからの社会をデザインしていくための基礎になると考えたのです。
 今の時代にもう一度渋沢栄一に光が当たって、新しい1万円札を見るたびに「これから先、みんなが益するような社会にしていきたい」と願えば、日本はまだまだ明るい方向に発展していくことが期待できます。
 本書はその思いを込めて、名著『論語と算盤』とその著者である渋沢栄一について、図やイラストを多用し、より胸にストンと落ちやすいように工夫しました。

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 まずチャプター1で栄一の人生をしっかりとたどり、チャプター2で本格的に『論語と算盤』の内容について一緒に勉強していただきます。
 もちろん、『論語と算盤』の内容を知るだけでもたいへんな学びを得られます。しかし一方で危惧してしまうのは、「説教臭い」「現代から見ると当たり前のことを言っている」と感じる人が出ることです。
 そこで、栄一の人生のターニングポイントや歴史的な背景をお伝えすることで、彼がいかに強い信念を持って革新的な偉業をなしてきたか、有言実行してきたかを実感していただけると思い、こうした構成にしました。栄一の人生を知れば、『論語と算盤』に書かれた彼の主張の説得力が格段に上がるはずです。
 そしてチャプター3では、栄一が、自ら関わった人たち、あるいは歴史上の偉人たちをどのように評価していたのかをとおして、彼の考え方をもう一度確認します。それと同時に、日本の歴史の大きなうねりを皆さんに意識していただく構成になっています。
 栄一は勉強を大事にしました。『論語』を学び、実社会のいろいろな事象にその考えを当てはめながら、学び続けました。
 パリ万博(1867〈慶応3〉年)で多くのものを吸収し、西洋の資本主義のシステムを学び、学んだことを実践につなげることの連続でした。
 さまざまなものを観察して自分のものにし、勉強したことを実学として活かす―躍動感のある心の動き、強い精神、知力の働きというものをぜひ渋沢栄一から学び、日々の活動に活かしていただきたい。それがこの本に込めた私の思いです。
                        ――齋藤孝



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